STAGE4:健介死亡
「ふっ!!」
ブシャアアと言う効果音と共に辺り一面緑色の血に染まる。
「さすがは元剣道やっていただけあるな。それに筋力も半端ないパラメータだし・・・」
仮想世界のステータスと現実世界のステータスは比例する。それがMP専用MMOARPG「Auralisia Story」略称A.Sのシステムだ。
さらに剣道をしていた俺にはAutoモードもhalfモードも必要ない。Selfモードだ。
自分で自由に動かせるこの感覚はやり始めたら止まらない。
「これでレベル20だな」
「俺追いつかれたぞ」
俺と健介は対策を練った末にこの混乱期を逆手にとりレベルを上げて金を稼いで、どのプレイヤーにも負けない実力者になろうという結論になった。レベル上げを初めて一週間。
俺は下位プレイヤーから中位プレイヤーとなった。
幸いなことに課金プレイヤーはもう課金ができず、アイテムで戦うことは不可能となった。
さらにセーブができないからHP無くなったらどうなるのだろうということに恐れて、モンスターのいる地域に出るプレイヤーがかなりの数減少した。
ただ、先程言った課金プレイヤーの中でも極端な・・・例えば一日数万つぎ込むようなアホ共。つまり、このゲームにおいて上位プレイヤーたちだ。
彼らは管理されていない仮想世界なら何をしてもいい。と言う結論からギルドを組んで下位プレイヤーを襲っては金と武器とアイテム。そして命までも奪っている。
つい最近の話では隣国の騎士団・・・まあNPCでプログラムとMETによって作られた人間だが襲われたらしく被害を食い止めるためにイスパーニア帝国でも警備が強化されている。
「ん?何の音だ?」
ピロリ~とよくわからない甲高い音が鳴り響いている。
「能力が追加されたんじゃないか?」
「能力?」
俺にとってその言葉は発聞きだ。
「ああ。射撃、筋力、速度、免疫、迷彩、魔力等のパラメータがあるだろう?これが一定の値に達すると能力蘭に追加される能力だ。レベルが上がるごとにほとんどンパラメーター向上するが、装備によって強制的にパラメータが向上して能力が追加されることがある」
「成程」
メニュー画面を開いて装備ボタンをクリックすると、確かに横の蘭に“所持能力一覧”と書かれていた。どうやら、迷彩値と速度値が更に向上したようで、本来走ったり動いたりすると迷彩値の高い低いに関係なく見つかるのだが、限りなく見つからないステルスが追加された。
「しかし、なぜ俺に白兵戦をやらせようとしたんだ?」
「考えてみろ。現実世界と比例するなんて、このゲームをするプレイヤーの中にお前ほどの奴がなん人いいるか?MP自体もっている人間が少ないのに、その中でも4分の一しかやっていないんだ。値段も値段で、買って行くのは坊ちゃまや、俺みたいにバイトしている奴らぐらいだけだ」
「成程」
つまり、俺みたいに運動部がそんな高額な物買う金などない。更にゲームをする暇もないと。暇人で悪かったな!!
「そうなると、お前みたいにチート級なら近接選ぶだろうけど、他の連中は値が体力より少ないんだ。魔法とか射撃とか攻撃を受けずに戦いたくなる。だから前衛が欲しかったんだ」
「ようするに俺はこき使われる予定だったのか・・・そしてそのせいで俺はこの世界に閉じ込められたのか・・・」
「そーゆーこと」
「この陸上界の期待の星をこんなところに閉じ込めて・・・」
「はいはい自画自賛はいいですから。レベル上げようぜレベル」
「お前は俺が攻撃して弱ったの撃ち抜いてレベル上げてるだけだろうが!!」
「レベル上げねぇ~努力家は報われないものよぉ~」
「!!」
不意に聞こえた声に俺達は振り向く。
目の前には明らか善人余は思えない雰囲気プンプンの・・・簡単に言えば変な連中だ。
「で、あんたたちは誰だ?」
スルーしようぜ、スルー。と言おうとした健介だが、その前にめんどくさいことを口走った奴がいることに彼は気づかなかった。
「私たち?私たちは・・・あなたたちみたいな、努力家を紡ぎ取る人達よ!!」
メンバーの一人・・・どうせ設定で身長を変えたのだろう。さすがに顔を変えられないが・・・
高身長の女が突如として切りかかってきた。このゲームでの常識。レベルが高くそのうえ近接戦闘を使う奴は課金プレイヤー。
低レベルで近接を選ぶ奴はゲームを知らないか、もしくは現実世界でよほどの腕っ節を持っていたやつだ。
ゲームが発売されてたった2週間。ログアウトができなくなっている期間を考えると実質1週間だ。その間でレベルを50まで上げられるプレイヤーなど課金以外考えられない。
更にその上近接を使ってくるとなるとなおさらだ。ゲームを進める上で有利になるのは一般人なら魔法や射撃などの遠距離攻撃だ。誰が好んで近接をしようと言うのだ。
つまりそれなりに余裕のある者。または近接武器で攻撃力の高い武器が手に入ったものだ。
そのような武器がそう簡単に手に入る筈がない。などなどの総合的観点からこれらのプレイヤーは課金プレイヤーとなるのだ。
「遅い!!」
攻撃力が刀系統の武器として最弱の部類に入る木刀で攻撃を防ぐ。
自分の防御力より相手の攻撃力の方が2倍以上あるなら防御したところでダメージが自分に加わりHPが減る。
だが、筋力値が高ければ防御姿勢の際に防御力に筋力値が付加されダメージが減る。付加された時に相手の攻撃力よりもこちらの防御力の方が2倍あれば自動カウンターが入り、自分の防御力から相手の攻撃力をひいた分÷2の数分相手にダメージを与えられる。
「ぐぅ!!」
レベル20なのにもかかわらずレベル50の相手に自動カウンターを喰らわせたアスガは怯んでいる相手を見て何が起こったのかさっぱりわからないという状況だった。
自動カウンターという言葉をアスガは知らなかった。
「じ、自動カウンター?そんな馬鹿な!!私はA.Sの中でも5本の指に入るレベルだぞ!?レベル20ごときに!!」
相手のレベルはカーソルを合わせた際に名前と一緒に出てくる。それを見たのだろう。
「まだやるか?」
「くっ、ええい!!貴様だけでも何か取らせてもらうぞ!!」
「へっ?」
後衛で何もしてなかった健介に一機に間を詰める。それに気付いた俺は数歩遅れて健介の方に向かうが相手はレベル30も上。瞬発力とスピードはほぼ互角と言ったところだ。
さすがは課金プレイヤー。
「やめろおおおおおお!!」
そんな事を思っているも束の間、健介に既に斬りかかっていた。
「かはああああ!!」
おびただしい血を吐く健介。対象年齢12歳以上なはずなのにどうしてここまで過激なのだろうか?
「あ~死んじゃった」
健介のHPゲージがグンッと減って0になる。
「ログアウトやセーブ、ロードができないってのは多分A.S管理システムの不調なのよね。A.S管理システムが正常に動いてないもんで、A.S管理システム内の神経遮断プログラムや過激・性的描写カット機能も働かないのよ。だからこんなにえぐい姿に・・・って聞いてる?」
「け、健介・・・・」
目の前に横たわる少年は何と言われよう俺の親友兼悪友だ。その親友が目を大きく見開いたまま口と、そして腹から血を垂れ流して倒れている。
息はしていない。つまり死んだということだ。A.S.M.Sが作動していないのならロードされなく、この仮想世界の中でバグとなり永遠とさ迷うはめになる。
誰がそんな事をした?きまっている。目の前のこいつらだ。
「死ねえええええ!!」
「うげええええええ」
女の部下であろう2人を連続して切り裂いていく。
「低レベルプレイヤーで近接。しかもこの動き・・・あんたセルファーね」
セルファーとはいわゆる業界用語で、ほとんどのプレイヤーがauto。もしくはhalfでプレイするのにもかかわらず一部マニアックが体感するならこれとか言ってわけわからず自分で攻撃するやつだ。
selfにerをつけてセルファー。本来の意味は自己復帰遺伝子という意味だ。このゲームの業界用語とは意味が違いすぎる。
「ああ。だからどうした?」
(このステータス・・・尋常じゃないわ。このレベルでこれ。普通に考えたらレベル60はくだらない。此処は一次退散ということで)
「エスケープ トゥ ベース」
「うっ!!」
突然謎の言葉を発したと思いきや身体がまばゆい光に包まれ女は姿を消した。
「これが魔法か・・・」
あっけに取られていた俺の目を覚まさせたのは健介の死体だった。
「生きているわけねえか・・・」
勿論もう既に死んでいて生アイコンから死アイコンへと変わる。
「まさか俺を巻き込んだやつが先に逝くとはふざけた世界だ」
そう言って俺は死んだ健介のアイテムと装備を貰う。と言うよりも奪う。
「お前の所為でここに連れてかれたんだからな。これはお礼としてもらう。なーに。立派な墓ぐらい作ってやるさ」
そう言うとアスガは健介を引きずって目立つ所に墓をつくった。
「け、健介ぇ・・・・うっ・・・」
アスガは頬を流れる涙を拭き、誓う。
「課金プレイヤーどもめ・・・・いつか殺してやる。殺しつくすまで、俺は泣かない」
そう心に刻みつけた。






