STAGE6:第三勢力
「道は開けた。アガルタ管理局の人間をひとり残らず消しされ!!」
「うをぉぉぉぉ!!」
アイテールの指示で緩衝地帯に立っていたアスガを倒そうとした結果、地形を生かしていた鶴翼の陣からアスガを包囲する城攻めみたいな陣形となった。
アスガは先陣を切ったダーティーを倒し、指揮系統は崩壊。さらに援軍としてやってきたクローデリア率いるカルタゴ精鋭第二師団が包囲網に穴を開け、包囲されていたアスガと合流。
同時にメンティフィス率いる15万の軍勢がアスガを包囲していた軍勢を包囲する形となり、アスガを殺すために送り出したアガルタ軍主力部隊は外と内側から挟撃され、さらにアスガが突破口を開いたため、アガルタ軍主力部隊は分裂し、殲滅するまでの時間は短縮した。
「アイテール様。我が主力部隊は二つに分裂。両部隊とも包囲され、壊滅するのも時間の問題でしょう」
「成程。所詮メンティフィスだけだと思っていたが・・・・侮るのは良くないな」
すっと立ち上がったアイテールは氷漬けにして冷却中だった右義手を動かし、氷を破壊する。
「ア、アイテール様・・・・まだ動かしては」
「だが、ここで奴らを足止めせねば、我々の計画は台無しになる。奴らの侵攻を止め、アガルタの計画の時間稼ぎをするのが我々の役目だ」
アイテールの右義手に集まってくるMET。それらは次第に凝縮していき緑色に発光し始める。
「ん?」
中央突破に成功したアスガとクローデリアは数キロ先に緑色に輝く何かを見つけ、戦慄を覚える。
「全軍解散しろおおおおお!!生きたくば、逃げろ!!これは命令だ!!」
「アスガ殿!!どういうことですか?」
近くにいた兵士が現状を理解できず、アスガに食らいつく。
「しかしもクソもへったくれもねえ。ここで全滅したら大陸への反攻作戦に支障が出る。それとも何か?俺みたいにMET兵器の餌食になりたいか?」
「!!」
たかが一兵士にその言葉は余りにも恐ろしいものだった。
その言葉に周りの兵士は次々にアガルタ管理局軍から逃げていく。
その事実を知らないアガルタ管理局軍は再びの攻撃をおそれ、防御体制を整えたままだ。
「我らアガルタ人民による現実世界への反攻。すまない。全軍よ・・・・礎となれ・・・・・」
冷却が終わっていないにもかかわらず、アイテールの右義手から最高出力の魔粒子光線が放たれた。
“パシュゥウウン”
重力の影響を受けずに放たれた一筋の光はアガルタ管理局軍に向けて進んでいった。
一瞬にして空高くへ舞い上がったアガルタ管理局軍。そしてその際の爆風により吹っ飛ばされた連合軍。
「クローデリア!!」
アスガはそばにいたクローデリアを引っ張り抱きかかえる。
「アスガ殿!!」
「無敵の盾!!」
アスガは装備していなかった自動魔法“無敵の盾”を詠唱し、装備する。
「ぐううううううう!!」
先ほどとは比べ物にならない威力。気をぬいたら一瞬で意識が飛んでしまうだろう。根拠はないが、体がそう悟っていた。
もし、クローデリアを抱きかかえて“無敵の盾”内部に入れなかったら彼女は死んでいただろう。
「はあ・・・・・はあ・・・・はあ・・・・」
「ア、アスガ殿?」
心配になったクローデリアはぴくりとも動かないアスガを揺さぶる。
「大丈夫だ。それより、周りはどうなった?」
起き上がり、周りを見渡す。そこは、誰が何と言おうと地獄絵図だった。
爆心地にいたアガルタ管理局軍は無論、退散していた連合軍も甚大な被害を負っていた。
助かったのはアスガと共に退避していたカルタゴ第二師団とそれを悟ったメンティフィスの率いていた一部部隊。指揮官の話を聞かず、無闇にアガルタ管理局軍と戦闘を行なっていた大半の部隊はアガルタ管理局軍と共に心中した。
「こ、これが、・・・・・MET兵器の・・・・」
「言ったろ。これがアイテールの本気だ。だが、アガルタはもっと強いぞ」
メンティフィスは側近のフィリムの肩をポンと叩く。
「残った部隊を集めろ」
アスガはクローデリアとウォルダーに命令する。
「はっ!!」
「だが、これで、アガルタ管理局は窮地に立たされたと言ってもいい」
メンティフィスは生き残った部隊を見ていう。アガルタ管理局軍の残った部隊はアイテールと側近のフリード。そして彼らを護衛する数千人程度。
こちらはほぼ無傷の膨れ上がったカルタゴ第二師団1万人。メンティフィスとフェリム率いるプトレマイオス共和国軍3万人程度。
大量破壊兵器の攻撃を受けていながらも4万人生き残ったのは全軍を動かしていなかったことが不幸中の幸いだった。
「たしかにそうだが、それは我々も同じこと」
アスガは比率換算でモノを言う。18万いたのに対し生き残ったのは4万。9人に2人しか生き残っていない計算になる。
「いや、これは俺たちの命運をかけた戦いなのだ。それぐらいの被害で済んだこと自体が奇跡だ。それに貴様らの領土にはまだ数万人の軍隊がいるだろう?いや、20万程度の国民か」
「・・・・次その言葉を発したら、貴様の首が体から分離すると思え」
「こわいこわい」
「メンティフィス様!!」
「どうした?」
目付きを変え、おふざけモードから指揮官モードへと転換する。
「統計が終わりました。我プトレマイオス共和国軍は3万人。アガルタ共和国軍は1万人。計4万人の兵士が健在です」
「成程」
「なら、俺から提案だ。敵味方関係なく、被害者すべてを助けろ」
「なっ!!貴様正気か?アガルタ軍だぞ?」
いつもなら捕虜になったアガルタ管理局兵までも容赦なく殺すアスガだが、今日だけは違った。
「味方に裏切られて殺された奴らのことを考えてみろ。いくら手を貸したやつだとはいえ、哀れみを覚える」
「まあ、それでオレらの兵力増強になるならいいがな」
そう言うと連合軍は爆心地周辺の生存者を探した。
そしてその時。残ったアガルタ管理局軍は撤退を始めていた。
「はあ・・・・はあ・・・・・」
「大丈夫ですか?」
フリードは息切れを起こしているアイテールに声をかける。
「だい・・・じょうぶ・・・だ」
冷却終了する前に最大出力で放った魔粒子光線は右義手を完膚なきまでに崩壊させ、体に対しても多大な負担をかけた。
もはや虫の息と言っても過言ではない。
だが、そんな彼を動かすのは、やはり、ここまでの状況に追い込んだ高須ホールディングスカンパニーに対する復讐心からであろう。だが、そんな彼の復讐劇はあと一時間もしないうちに終を迎える。
「これが・・・噂のNo.2なの?」
「だ、誰だ!!貴様らは」
「私に向かって口を聞いているのか?ならば答えてやろう。私はオーレリシア・・・いや、アガルタの覇者となるシルヴィア・サルデーニャだ」
「!!」
一斉に剣の矛先を向けられたシルヴィア。
「そんなに焦らずとも・・・貴様らの死は確定しているのだ!!」
「げほっ!!」
「かはっ!!」
シルヴィアの周りを囲っていたアガルタ管理局軍はなんのひとつの抵抗もなしに首を落とされていく。
「おケガはありませんか?」
シルヴィアの側近であるシェリベスは血に染まった剣をしまい、シルヴィアの横に立つ。
「血が付いただけだ。問題ない」
服についた血を払うシルヴィア。そしてたった数名の兵士に翻弄されるアガルタ管理局軍。
「恐れられたアガルタNo.2も堕ちたものだな」
「私の願いは名誉でもましてや、名声でもない。私の願いは現実世界への復讐だけだ!!邪魔するなら貴様もここで殺す!!」
「いくらデーモンデリーターとはいえ、虫の息の人間に殺されるほど弱くはない!!」
「ガハッ!!」
口から盛大に血を吹くアイテール。そして飛ばされた首と右腕。
「さて、そろそろあちらも片付いただろう」
シルヴィアは横を見る。そこは緑の草むらではなく、赤く染まった野原だった。
「どうします?このまま本国に戻りますか?」
「せっかく無理を言って本国から海を渡ってきたのだ。彼らに挨拶ぐらいするとしよう」
「そうですか」
「このアガルタを取るのは私だと」
心の奥底で不敵に笑う女がそこにはいた。