STAGE3:イリヤの葛藤
「結局イリヤ様は?」
アスガが暗い顔をしているところから、見つかっていないということは聞かずともわかっていた。
「見つからなかった」
「そうですか・・・」
そんなこと聞かなくても分かっているはずのクローデリアだったが、なぜか聞いてしまったことを後悔する。
そして物陰から二人を見ている二人組に彼らは気づいていない。
「皇女さん・・・・二人ともものすごく心配していますよ」
「わ、わかっています。で、でも・・・・どうやって話しかければいいか・・・」
チラ見を繰り返しながら、ウォルダーに目配りをする。
「それは俺も同じ。あのクローデリアに俺はどんな顔を合わせればいいんだ」
ウォルダーは数か月前のカルタゴ戦役においてのことを思い出す。
「いくぞ。皇女様」
ウォルダーはイリヤの背中をボンと押す。
「ってうわあああああ!!」
「「!!」」
不意をつかれたか、アスガとクローデリアは何事かと後ろを向く。
「あ、あ・・・・・お、お久しぶりです・・・・アスガさん・・・・」
機械的な挨拶をするイリヤ。
「や、やあ・・・・ク、クロデリア君。げ、元気だったかい?」
機械的な挨拶をするウォルダー。
「「・・・・・・」」
俺の苦労は?――――――アスガの心の疑問
私の、私の、カルタゴ戦役の時の別れ際の言葉は一体?――――――クローデリアの問いかけ。
「「なんだったんだああああああ!!」」
今日、カルタゴ元首都のチュニスに悲痛な叫びを聞いた人は数十万人を超える。
「へぇ~そんなことがあったんですか」
「そうそう。俺が第二師団は生き残って、来るべき戦いに備えろと言ったらクローデリアが、泣き出してよ」
「そ、その話はもういい!!」
カルタゴ戦役の時の話題で盛り上がる4人。いつもは凛々しく、フィオナに対してもアスガに対してもドS.な姿勢を崩さないクローデリアの普段ではありえない恥ずかしがる姿を脳内フォルダに●RECするアスガ。
「その後、追い打ちをかけるように・・・・・」
「ウ・ォ・ル・ダ・ア・ア・ア・?」
「・・・・・・・・・」
どんなに恥ずかしいことがあったのだろうか?と、気になるアスガだったが、鬼の形相と化したクローデリア。触らぬ神に祟りなしとはこのことだろう。
「でも、本当に良かった。イリヤが無事で」
「すいません」
迷惑をかけたことにすいませんの気持ちでいっぱいだったが、イリヤはそれほどまでに心配をしてくれるアスガの気持ちが嬉しかった。
「人質にされていたら、俺は打つ手がなかった・・・・人質になってなくてよかった」
「そこは俺に感謝しろよ」
「ウォルダーさんよりもアスガさんのN.S.Aに感謝しています」
「それは言えているな」
「フフフ」
こんな他愛ない話をし、笑って笑顔を見せているけれど、イリヤはどこか心の奥底は寂しそうだった。
(やっぱり・・・アスガさんが心配したのは、私が人質になることなんですね)
“人質にされていたら、俺には打つ手がなかった”
“人質になってなくてよかった”
人質じゃなければよかったのか?
殺されていても良かったのか?
人質にされれば交渉材料に使われるから。アガルタ共和国が不利になるから。
“私はアガルタ共和国のお荷物なのか?”
イリヤは自分の存在を否定したかった。
けれど、
“アスガさんとずっとこの国で生きていたい”
二つの相反する感情が、蠢いて、イリヤは葛藤している。
どうすれば、アスガさんは自分を必要としてくれるか?
どうすれば役に立てるか?
心では葛藤し、頭では浮かんでくる疑問の解決策を練る。
私はどうすればいいの?
誰一人として、その解決方法を教えてくれるものはいなかった。