STAGE2:入都
「ここが・・・・」
「そうです。我が国の首都チュニスです。今はこのように荒れ果てていますが、本当はもっと美しい都市でした」
俺たちは無事に首都のチュニスに入都することができ、都民から手厚い歓迎を受けた。
「スラム街だな」
街のあちらこちらには死体が腐敗して転がっており、ハエや蛆虫が湧き、泥水をすする住民を直視する羽目になった。
今となっては入都した連合軍によるゴミや死体処理、害虫駆除等都市の衛生環境改善の試行錯誤が錬られている。
「汚い街になってしまった」
クローデリアはボロボロに破壊された王城の頂上から見渡せる都市全土を見て嘆く。
「これも・・・すべて・・・アガルタ管理局のせいだ」
「クローデリア・・・・」
「絶対に許さん」
復讐に燃え上がるクローデリアの顔は少し怖かった。
(あの時の俺もこんな感じだったんだな・・・)
イリヤと一緒に城からアガルタ共和国を見ていたときの俺の復讐を語ったときにイリヤの言葉を思い出す。
「目が怖いです・・・か」
「はい?」
「いや、なんでもない。演説・・・格好よく決めてくれよ」
「もちろんです」
そう言い終えると、クローデリアは壇上に立ち、アスガは壇上の後ろで腕を前に組みながら、壁に寄りかかっている。
クローデリアが壇上に上がると、何かが始まると悟った民衆たちは、俺たちを中心として弧を描くように集まってくる。
クローデリアの演説が始まると同時に、民衆からは“あのクローデリア”や“第二師団”等といった声がちらほらと聞こえてくる。
俺はそんな民衆のゴミの中からイリヤを探すため、サーチを行い、それらしき体格の人間だけを探し当てていく。
「・・・・この作業は骨が折れるな」
「もう根を上げたか?」
「黙っていろ」
メンティフィスの妨害を振り払い、弱音を棄て、再び作業を開始する。
(これだけの民衆の中だ。NPCだって大量にいるんだ。そう簡単に見つかるはずがない)
それはごもっともな意見だった。だが、この言葉の中で一番ごもっともなのは見つかるはずがないだけである。なぜなら・・・
「皇女さん・・・いつまで隠れてるんですか?」
「だって・・・アガルタ・プトレマイオス連合軍とはいえ、それを率いているのはあのプトレマイオス・メンティフィスです。簡単に信じていい相手ではありませんよ」
「俺に言われてもな」
プトレマイオス・メンティフィスという人物を名前でしか知らないウォルダーにとって、リリアの言葉を理解しろとは無理な話だった。
「一度不可侵条約を結んだ時の会話が・・・・」
“侵略はしないが、それなりの価値が出たら自治区として併合するかもな”
「侵略してるじゃないですか!!」
「誰に言ってるんだよ?」
イリヤの脳内思考で進められるイリヤの独り言に、ウォルダーはついていけなかった。
「せめて、見える位置に行きましょう」
「ダメです。顔を出して確認される位置にいたら何されるか・・・・」
イリヤとウォルダーはアスガ達から確認できる位置にいなく、さらに廃墟の中に隠れていたのだ。
(イリヤが・・・・見つからん)
見つからないわけである。
「せめて、演説の声が聞こえるくらい・・・・」
「わかりました」
渋々承諾したイリヤは見つからないようにクローデリアの演説が聞こえる位置へ移動した。
「であるからゆえ、我々は祖国を取り戻すべく、再び立ち上がった。今まで民衆にはアガルタ管理局・・・いや、人狩りによる圧政に苦を強いられてきた。だが、それも今日で終わりだ!!」
「本当にクローデリアだ」
ウォルダーは懐かしそうに頷く。
「ホントですね。クローデリアさんだ」
「ホントですね。じゃねえよ。さっきからクローデリアは来ているって言ってただろう」
「ウォルダーさんの勘も当たるもんですね」
「ここまで俺の勘に頼って助かった奴が言うセリフか?」
「アスガさんのN.S.Aのおかげです」
「うぐぐぐぐ・・・たしかに、そうだが・・」
イリヤに言い返せないウォルダーだった。
「そして何より、今日はとても心強い味方がいる。それは、我々カルタゴ第二師団を亡命させ、行く度もアガルタ管理局の侵攻を防いだアガルタ共和国国王のアスガ殿が参じている」
「「!!」」
クローデリアの演説など、途中から上の空であった二人はある言葉に過敏に反応する。
「ア、アスガさん!!」
イリヤは過敏に反応し、走り出した。
「こ、皇女さん。勝手に走るな!!」
ウォルダーはイリヤを止めるべく走り出した。
「なんで俺がそんなことしないといけねえんだ」
「イリヤ様をおびき出すためです」
「とはいえ、俺が演説するのは筋違いだろ」
「参戦国の代表者として・・・」
アスガはクローデリアの提案に猛抗議をしたが、民衆の反応を気にして、結局引き受けてしまった。
「・・・・アガルタ共和国国王アスガだ。以後よろしく」
「・・・・・・終わり?」
後ろにいたクローデリアは一言話したあと黙り込んでしまったアスガを見て、妙に焦っている。
「終わっちゃまずいか?」
「まずいです。もう少し何か・・・・俺の目的は~とか何か」
「分かった。え~と・・・・俺は名目上カルタゴ開放としてきたが・・・・」
(さすがに皇女様探しはまずいな・・・)
この中に、アガルタ管理局の人間がいないとは言えない。オレらの目的はあくまでイリヤ探し以外だ。
俺たちがイリヤを探しに戦争まで開戦するような国とみられたら、イリヤの人質としての価値は跳ね上がる。
「本当の目的は人狩りを狩りに来だけだ」
「・・・はい?」
民衆は黙っていたが、後ろで待機していたクローデリアは首をかしげた。
クローデリアとしては打倒アガルタ管理局と言って士気高揚を望んでいたのだが、意味のわからない方向へいきそうだと、判断したが、もはや止められなかった。
「貴様らの国土を開放する。それはイコールすればアガルタ管理局打倒につながるからだ。俺の目的はカルタゴだろうがイスパーニアだろうが西オーレリシア諸国連邦機構開放なんて名目はねえ」
「・・・・ほっ」
アガルタ管理局打倒と話してくれたことに少しほっとするクローデリア。だが、カルタゴ開放なんて名目はないなんて言っていいのだろうかと、かなり戸惑うクローデリア。
「俺の目的はただ一つ」
「・・・・・・・」
民衆が黙り込む。
「アガルタ管理局をひとり残らずぶっ殺す!!以上ッ!!」
そう言い終えると壇上から降りるアスガ。
クローデリアの望んでいた士気高揚は期待はずれに終わり、もはや民衆は恐怖に陥っている。
「これはこれで恐怖政治として民衆をまとめやすくなったな。助かるぞアスガ。お前が言うんだ。アガルタ管理局に寝返る輩もいなくなるだろう」
「貴様に褒められてもな」
二人の会話をよそに、クローデリアはやつれている。
「この人が国王でよくアガルタ共和国は大丈夫だなあ・・・」
嘆くクローでリアとは裏腹に物陰からアスガを眺めていたイリヤはほっとしている。
「いつものアスガさんです」
「あれが、アスガか?民衆の前で語る演説じゃねえぞ」
Lv.138の砲兵であるウォルダーでさえ、アスガには恐怖を覚えた。
その頃・・・
―――――ポートランド皇国首都ウィーンペスト
「がはっ!!」
「き、貴様ら!!よくも、国王様を!!」
朱色に染まった王座に、座ったたまま首と胴体が今生の別れをした人間を見下す女性に刃を向け、包囲する兵士たち。
「私に剣を向けると・・・いい度胸をしているな」
ポートランド皇国首都ウィーンペストにあるポートランド城の王室ではサルデーニャ帝国とポートランド皇国との会談が行われていた。
だが、今となっては、そんなことがあったとは誰も思うまい。
「もはやこの時点でポートランド皇国はなくなったのだ。貴様らはサルデーニャ帝国の帝である私に逆らうことがどれだけ罪か分かっていないようだな」
「貴様!!戯言を!!」
「ふん!!」
サルデーニャ帝国の帝を襲ったポートランド皇国兵はひとりの帝の側近にことごとく打ち破られた。
「お怪我はありませんか?姫様」
「血は付いてしまったが、体に問題はない。民衆の方は?」
「地方で多少の反乱がおきましたが、王が圧政を敷いていたため、サルデーニャ帝国軍は歓迎されています」
「そうか。しかし、名前をサルデーニャ帝国としておくのは民衆に恨みを買いそうだからな。サルデーニャ=ポートランド帝国とでも名付けよう。それと城内の王室派はこれからのポートランド統治に悪影響だ。誰一人として城内から生きて返すな」
「はっ!!」
側近は王室から出ていき、そのごポートランド城内ではたくさんの断末魔が聞こえた。
「プトレマイオス・メンティフィス・・・・貴国にアガルタ共和国は取らせん。取るのは私だ!!」




