STAGE17:出陣
この小説内に言葉だけ出てきたデーモンデリーターについてA.Sの外伝作品として投稿しました。デーモンデリーターって何?と思った人も多いはず。よろしければ、ご閲覧ください。
「うっ・・・・うううう」
一本の巨大な剣が地下壕に突き刺さっている。
リリアを殺した剣だ。
その娘の墓標で俺は誓いを初めて破った。課金プレイヤー・・・アガルタ管理局を叩き潰すまで泣かないと、健介の墓標で誓った言葉を。
よりにもよって課金プレイヤーを殺して・・・
そのあと俺は歩いた。地上まではわずかだった。
「邪魔するものは殺す」
俺は燃え広がる炎を諸共せず、マドリード内にある嘆きのライオン本部へと向かって歩いた。行く道をふさいでいたアガルタ軍を片っ端から切り裂いて。
何百人も殺してたどり着いた嘆きのライオン本部は燃えていた。
「・・・・俺たちの・・・思い出の場所が・・・」
アスガは膝まずいた。そして、心の中で再びけじめをつけた。
嘆きのライオンを繋ぐ物は何もない。
それに・・・マドリードがこんな目に合っているということは、
「シュージさん・・・エージ・・・ユーリ」
みんな死に絶えたということだ。言うまでもない。分かっていた。
「なら、やることは一つだ」
アスガはリリアの使っていた愛用の剣を握り、一歩踏み出す。
「皆殺しだ!!」
「な、なんだ貴様は!!」
「死に逝くものに答える義務などない」
ただ、がむしゃらに切り刻んでいく。今のがアガルタ18柱の一人ということも知らずに・・・
切り裂いていく。もう、迷うことはない。俺はもう一度復讐のために人を殺す。
マドリードにアガルタ軍がいないか次々に確かめ、見つけ次第切り刻んでいく。
我に帰ったときは、辺り一面が血まみれだった。
「ふ、ふふ、はははははは!!」
殺した人間の数など覚えていない。
すべての連中が、課金プレイヤーだとは言わない。だが、アガルタ管理局にどんな理由があろうと、近づき、媚を売り、尻尾を振った。ならば、俺の殺す標的だ。
そんなことを考えて、アスガは地面に座る。
「・・・・・貴様はなにものだ?」
「あ?」
ふと声をかけられ、顔を上げる。
「誰だ?」
「俺は・・・・元アガルタ18柱3番目・・・・メンティフィスだ」
「アガルタ18柱・・・3番目。くっくっく・・・面白い。死ねえええええ!!」
舌なめずりをしたアスガは飛びかかり剣を振るう。
「ま、待て!!話を聞け!!」
「誰が聞くか!!貴様らは俺たちが口に出したことを聞いたことがあるのか?」
助けてくれ!!
命だけは・・・
私たちが何をしたんだ!!
「!!」
メンティフィスの脳裏に浮かぶ、嘆いて死んでいった人々の姿。
「そんな、貴様らが!!人に物事を言う権利があると思ってんのかああああああ!!」
「くっ!!」
(なんて奴だ!!レベル150の俺をここまで追い込むとは!!)
相手の兜が取れているのが幸いだった。メンティフィスは顔を確認し、ステータスを確認する。
「レベル154!!」
衝撃の数字にびっくりしていた。
レベル154ならアガルタ18柱の2番目。アイテールの実質レベルである152を越している。
そんな奴がいたのかと・・・
「へぇ・・・・レベル10も上がっていたのか・・・・当然だな」
「?」
「アガルタ18中の四番目と・・・・マドリード中のアガルタ軍を相手にすればなあ!!」
「うぐっ!!」
こんな小さな剣で、重装甲兵の俺を・・・・
吹き飛んだメンティフィスは強靭な鎧に覆われた重い体を起こす。
そしてアスガの尋常ではない筋力値を悟った。
「お前らさえいなければ・・・・・お前らさえいなければ」
「・・・・・」
「死んでいった人々は・・・・静かに暮らせていたんだ!!」
少しの間を開けてメンティフィスは答えた。
「俺もそう思う・・・だから、俺はアガルタ管理局を抜けた」
「どういうことだ?」
「貴様はここにいて、マドリード守備軍を見たか?」
「・・・・そういえば」
見ていない。目に見えたのはアガルタ軍だけだった。
「俺が逃がした」
「はっ?」
「俺が寝返って逃がしたんだよ。そして、お前が戦っていたアガルタ軍は俺を討伐しにきたアガルタ軍。全員逃がしたから、追っての部隊を討伐しようと思っていたら、まさか全滅しているとは・・・アガルタ18柱のうち何人かいたはずだけどな」
「成程・・・・そういうことか・・・・」
「ああ」
「ふぅ・・・・」
地べたに座り込むアスガ。
「話がある」
「ああ?」
めんどくさそうにアスガは首を横へと向ける。
「俺はアーフカリア大陸に亡命する。そしていつか、アガルタ管理局打倒のために挙兵する」
「あっそ」
「その時は・・・・貴様もこないか?」
「遠慮しておく」
「なぜだ?貴様もアガルタ管理局に恨みがあるのでは?」
「ああ。有りまくりだよ。だから、復讐は俺一人で独占したいんだ」
「・・・・はっはっは・・・変わったやつだな」
「お前に言われたくはない。それに・・・」
「それに?」
声のトーンを落としたアスガは顔を伏せて言った。
「もう、馴れ合いはゴメンだ・・・・」
そう言い放つとアスガは立ち上がる。
「どこへ行く気だ?」
「宛てもなくさまようさ・・・」
「なら、名前を教えろ」
「アスガ・・・・だ」
「アスガ・・・・か」
アスガとメンティフィス。二人は一年後再び合う。
一人は某国皇女の護衛として。
もう一人はプトレマイオス共和国国王として。
その一年後・・・彼らは三度目の出会いを果たした。
その翌日・・・・
――――――アガルタ共和国 東砦
「待たせたな」
黒のロングコートに赤色の防具。そして背中にある一本の剣。
剣の名前は“リリア”
本当の名前は別物だが、アスガが名前を変えた。
そしてアスガの後ろに続く8千の兵と指揮官。
銀髪の端正な顔立ちの女性。
「連れもいるのか?」
「カルタゴ第二師団団長のクローデリアだ」
クローデリアはメンティフィスに握手を求める。
「なかなか優秀な部下を持っているな・・・アスガ」
「あんなドデカイ国土を手に入れたお前が言うんじゃねえよ」
アガルタ共和国軍8千の兵とプトレマイオス共和国軍15万の合計15万8千の軍団によるカルタゴ奪還作戦が始まる。
2度あることは3度ある。
彼らはまたしても出会ったのだ。
一人は皇女を助けるために動く国王として。
一人はあの時、マドリードで誓った誓いを果たすために動く国王として。
「「俺の邪魔だけはするな!!」」
二人は戦う前から気が合うようだ。