STAGE16:VSリリア-後編-
私の名前はリリア。生まれは、ヤマト連邦構成国の一つ、日本国の大企業の娘。
父は大企業の社長ということもあって、仕事で家にはいない。
それをいいことに、母親は男を連れてきて夜な夜な励んでいる。
父もそれを知りながら黙認し、仕事のたびに別の女と励んでいる。
人間なんて信用できない。私の心に人を信じるという言葉はなかった。
そんな私はMPが販売されてから、ユーザー数が少ないのにもかかわらず買った。
なぜかって言えば、本来のゲームは現実世界でプレイするが、MPのゲームは仮想世界でプレイできる。嫌な現実から、目を背けることができるから。
だが、私の心を満たすほどのMP対応ゲームは出てこない。
そんな時に生まれたのがこの[オーレリシア・ストーリー]だった。
金は親の金があり、いくらでも課金することができた。学校に行かなくても成績は優秀で、両親は放任主義だったから学校に行かず24時間常に架空世界で生きていたが、問題など何もなかった。
そこに訪れた、さらなる幸運。ログアウト不能。自分はこの世界の住人になれた。それが嬉しかった。
ログアウトという現実世界を結びつける鎖が解かれたのだ。
そこに再び舞い降りた救いの手。アガルタ管理局。元々アイルランド軍に所属していた私はアガルタ管理局のアガルタから現実世界への宣戦布告を聞いて、喜んで飛びついた。
あの、忌々しい家が、会社が、両親が生きるあの世界を破壊尽くせる。
それがたまらなく嬉しかった。
そして今、全てが腐っている世の中で、どうして、こんな人間が生まれるのか・・・
アスガみたいな人間が誕生したのか・・・殺そうにも、疑問の方が大きく殺すことができなかった。
アスガに悟られぬよう、心の中で葛藤をしているリリアに変化が訪れた。
「う・・・う・・・・」
「?」
押し倒されているアスガの目の前で再び悶え苦しむリリア。
「あ、あんたは・・・・用済みよ・・・だ、黙って・・・おとなしくして・・・いなさい」
「はっ?」
訳の分からないことを言い出して、ついには暴れだす。あんたとは俺のことを指しているのかと疑問におもったアスガだが、俺は最初から黙っている。
「い、いい加減にしなさい・・・ぐうぅっ!!があああああ!!・・・はあ・・・はあ・・・・ア、アスガさん・・・」
「・・・だ、騙されないぞ」
先程の一見がある。そう簡単に騙されるか。
「ち、ちがいます・・・わ、私は・・・偽りの私です・・・」
「・・・・・」
疑いの眼差しを浴びせるアスガ。だが、リリアはそれを無視して話し続ける。
「わ、わたしの・・・・作られた・・・人格は・・・・もう持ちません・・・・」
「・・・というより、お前が作られた人格なら、なぜ、自分が作られた人格だと分かった?」
「先程の・・・アスガさん達の話、を聞いていましたから・・」
「そうか・・・」
どうやって聞いていたんだ?という疑問が浮かぶが、もはやそんなことどうでもよかった。
「このままだと・・・・本当の・・・私は・・・たくさんの人を殺します・・・・だから・・・」
リリアは溢れる涙を我慢できずボロボロと垂らしながら声にならない声で言葉を出す。
「わ、私を・・・・今・・・この手で・・・殺してください!!」
「・・・・」
「先程の会話を聞いていましたから・・・辛いのを承知で言っています。でも・・・・今の、アスガさんが知っている私は・・・もう、持ちません・・・・だ、からうっ・・・あああああああ!!・・・・」
再び絶叫するリリア。それを何事が起きているのか理解できないまま、アスガはただ見守ることしかできなかった。
「はあ・・・・はあ・・・・お、お願いします・・・アスガさん」
「ふざけるな・・・・なにが・・・殺してくれだ・・・・」
「ア、アスガ・・・さん・・・」
「なんで・・・なんで・・・俺なんだ!!」
アスガはリリアの襟をつかむ。
「死にたいなら、自分で死ねばいいじゃないか!!」
「い、痛いです・・・アスガさん」
「痛いだろう!!当たり前だ。だが、殺す方の俺の心も痛いんだ!!」
「分かって言ってるんです」
「相手に殺してもらったほうが楽。自分で死ぬのは怖い。だから俺に頼むんだろう?違うか?」
「ち、違います」
「ならなんだ?俺を苦しめたいだけか?」
「わ、私は・・・せめてもの願いで・・・・消えて無くなる最後は・・・」
「最後くらいなんだよ!!」
歯を食いしばり、鳴き声をこらえてリリアは声に出す。
「だ、大好きな人に、無くしてもらいたいからです!!」
「!!」
アスガの手から自然と力が抜ける。
(なんだよ・・・それ・・・・)
「自分で自分を消すくらいなら・・・せめて最後くらい・・・愛する者の手で逝かしてください!!」
「・・・・なんで・・・なんで・・・お前は俺の前に現れたんだ!!」
「うっ!!」
再び襟をつかみ壁に叩きつけるアスガ。
「どうせ消えるなら、なぜ俺に対して笑った?話しかけた?一緒にいた?なぜだ!!」
「理由なんてないです」
「お前がそんなことしなければ・・・俺の心の中にまで入ってこなければ・・・俺の中で大きな存在にならなければ!!」
「ア、アスガさん!!」
「俺は今ここでお前を楽にすぐに殺すことができたんだあああああああ!!」
そのまま地面に伏せるアスガ。地面を何回も叩き尽くし、泣いた。叫んだ。
当のリリアは、それを見つめて泣いている。
「ごめん・・・なさい・・・」
リリアはそれ以外の言葉しか見つからなかった。
鳴くのをやめ、覚悟を決めたアスガは最後の時間をリリアと一緒に過ごしていた。
マドリードでの戦いなど知ったことか。
二人は何もしゃべらず、ただ、ただ、零距離で隣にいるだけ。それだけ。
「アスガさん・・・・う、うううううう」
「どうした?」
少し落ち着いて、アスガの隣に座っていたリリアは急に悶え出した。
「も、もう・・・む、無理・・・・み、たい・・・です・・・うぐう!!」
「リリア!!」
「わ、私の・・・体をよくも・・・とっ、た・・な・・・」
「リリア?」
「い、いやです・・・・だ、ダメ・・・と、と・・・らな・・・いで・・・・」
悶えながらアスガに訴えてくるリリアの瞳。
早く殺してくれと言っていた。
「さ、さいご・・・・です・・・・お、おね・・・が・・・い・・し・・ます」
「・・・・くっそおおおおおおおおおおおおおおお!!」
アスガは巨大な剣を構える。
リリアは笑う。
ブシュウウウウウと吹き出す血液がアスガの体へと染み付いていく。
「あ、あり・・・が・・・とう・・ござ・・い・・ま・・・・す」
最後に振り絞った言葉が永遠とアスガの頭の中でリピートされた。