STAGE14:驚愕
「まだか・・・」
俺とリリアは1時間ぐらいこの暗い地下壕を歩いている。だが、未だに地上への入口は見えない。マドリードまで直線4kmとはいえ、地上への出口はマドリード中心部にある帝国政府跡地。現マドリード守備隊司令部である。マドリードは半径10kmの西オーレリシア有数の大都市である。地下から行くとしたら相当の時間がかかるのも無理はない。
「はあ・・・はあ・・・」
「大丈夫か?結構歩いたから休むか?」
「い、いえ、大丈夫です・・ただ・・・」
「ただ?」
「・・・いえ、なんでもないです」
「そうか。何かあったら言えよ」
「は・・い・・」
息を切らしながら、ようやくのことで返事するリリア。だが、彼女は疲れて息切れをしているわけではなかった。
(なんだろう・・・・すごく、胸が苦しい)
狭い地下壕だから酸素が減っているのかな?なども考えたが、アスガを見る限りそれはないと自己判断する。
(あ、熱い・・・胸から、何か飛び出すような・・・)
「はっ・・・はっ・・・はあ、はあ・・・んんん!!」
「ど、どうした?」
突然倒れ出したリリアを抱き起こしに行くアスガ。
「あ、熱い・・・・く、苦しい・・・は、はあ、はあ・・・・」
「大丈夫か?」
気休めでそう言ってやるしかできない自分が悔しい。何に苦しんでいるのか?原因がわからないまま、ただ、時間だけが過ぎていった。
「はあ、はあ、はあ・・・・んんん!!はあああああああああああ!!」
「!!」
突然黒いオーラに包まれたリリアは、アスガを吹き飛ばして、よろよろと立ち上がった。
「リ、リリア?」
「ふふふ・・・・そうよ。私はリリア」
声も姿も確かに俺の知るリリアだ。だが、口調といい雰囲気といい今までのリリアとは格段にも違うものになっていた。
「さっきまでの息切れはどうなんだ?大丈夫なのか?」
「息切れ?ああ。あれのこと。あれは、私が元に戻るために必要なことだからしょうがないの。あの時の自分には悪いけど、これが仕事だからしょうがないのよ」
「仕事?」
「そう。私はリリア。アガルタ18柱の4番目・・・私の仕事はアガルタ管理局に逆らう組織の壊滅。アスガさん・・・・お命頂戴いたしますよ?」
突然の自体で理解できなかった。訳が分からなさすぎる。アガルタ18柱の4番目?なんのことだ?
「悪い冗談だな、リリア。いつからそんな口聴くようになったんだ?」
「悪い冗談?それはあなたのことよ?」
「何?」
「もしかして人工的に作られ、私の精神に追加された人格を・・・いわば偽物の私を本物だと思っていたの?」
「作られた?人工的?」
言っている意味が分からない。人格をつくる?人間の精神に追加する?そんなこと、A.S内で出来る訳がない。
「まさか、できないとでも思っているの?A.Sのために作られたプログラミングを甘く見ないほうがいいわよ。あの高須ホールディングスカンパニーが既存技術を尽くして作り上げた究極の仮想世界なんだから」
「仮想世界・・・」
A.Sのことを俺はゲームとしか見ていない。現実世界では魔法などロストテクノロジーであるし、経験値なども手に入らない。レベルも上がらない。
「そう。かつては呪文を唱えれば誰でも簡単な魔法は使えたわ。そして、そのかつての魔法が使える環境をどうやって作り出したかしらないけど、魔導士にもセルファーってのがあるのよね」
「魔導士にセルファー?」
聞いたことがない。魔導士はほかの職業よりも魔力や魔法攻撃力、魔法防御力、命中率が高く、レベルが上がり次第強力な魔法が使えるようになる。
だが、強力な魔法は呪文を唱えるのではなく、追加された魔法名を唱えるだけだ。
では魔導士のセルファーとは呪文を言うのか?そんな馬鹿な。魔法に使う言葉など、絶滅したようなものだ。
「馬鹿言ってるのか?とでも思ってるんでしょうね。でも嘘じゃないわ。代表例は考古学を研究していたゲオルグだろうけどね。まあ、これから死んでいく人に、こんなこと教えても無駄だろうけどね!!」
ゲオルグ?誰だそれ。と思いながらゆっくりと近づいてくるリリア。
「!!」
突然の突きに首を引っ込め、右手で背中の剣を引き抜く。
「ほ、本気か?」
「ええ。本気よ。かかってきなさい。全力で狩ってあげるから」
たかが、レベル56でレベル141の俺と戦うってのか?
「ちなみにレベル56なんかじゃないわよ」
「!!」
リリアに隙を見せないようにステータス画面を確認する。
NAME蘭・・・リリア。間違っていない。
Play time・・・・そんなものどうでもいい。
レベル欄・・・
「143だと!!」
「そう。あのレベル56のリリアは作り物。偽物の私。本当の私はレベル143のアガルタ18柱の4番目・・・さあ、始めましょ」
「マジかよ・・・ふっざけんなあああああああああああ!!」
俺は・・・・俺は・・・なんで、どうして・・・
仲間に・・・信頼する仲間に・・・・刃を向けないといけないんだ!!
「くっそ!!クソ!!くそったれがあああああああああ!!」
「感傷に浸るのはもういいでしょ?」
「なんだと?」
「それよりも早く始めましょ?」
「何をだ!!」
舌で指を舐めたあと、剣を握ることに震えているアスガに近づき、唾液のついた人差し指をアスガの首筋に当てる。
「私たちだけのバトル・ロワイヤルをね。」