STAGE11:疑惑
「かはっ!!」
「た、助けてくれ!!」
「武器は捨てる!!だからがっは!!」
サラゴサには一人として民間人はいない。残ったのは3万の兵士。すべての民間人を逃がすために彼らは自ら死を選んだ。民間人が逃げるだけの時間は稼いだだろう。
だが、残された兵士に死は選べたが、死に方までは選べなかった。
せめて捕虜という扱いを受けようと武器を棄て、投降したがもともと捕虜にする気などないようにイスパーニア兵を見つけ次第殺していくアガルタ管理局軍。
「なぜ!!なぜ殺すのだあああ!!」
その状況を見たメンティフィスは殺した兵士達を怒鳴り散らした。
「メ、メンティフィス様!!し、しかし、アガルタ様にすべての反逆者共は殺すようにと言われております」
「ど、どういうことだ?殺すよりも味方にしたほうが戦力増強になるのではないのか?」
「し、しかし・・・・」
「いや、いい。忘れてくれ」
そう言うとメンティフィスは一人で外へと出向いた。
「これが・・・アガルタ管理局のやり方か・・・」
つい数箇月前まで彼は一人旅をしていた。そんなときに出会ったのがアガルタ。彼の我々を閉じ込めた現実世界の連中に対する復讐。彼の思想に共感を覚えたメンティフィスは様々な戦いでアガルタを見てきた。
(なにがこの世界の人々のためだ!!何が理想だ!!戯言だ!!)
メンティフィスの心は怒りに満ちていた。この世界で苦しんでいる人々を開放するため、現実世界へと強制的に結びつけ現実世界へ戻るという話。聞くだけなら良い話だ。
だが、そのためにたくさんの人間と土地、財源が必要だからといってなぜここまで凄惨な状況にする必要がある?
(これなら我々がおとなしくしていたほうがよっぽどこの世界の人々は平和ではないか!!)
やり場のない怒りをどうやって発散すればいいのか彼は迷っていた。
―――――イスパーニア帝国首都 マドリード
3万の軍人を置き去りにして、民間人15万人と共に逃げてきた俺たちはイスパーニア帝国首都マドリードの嘆きのライオン本部にいる。かつて250人以上の人間を住まわせたという巨大な俺たちの家にはもう5人しかいない。
「久しぶりの家ですね」
「ホントだな」
ここに帰ってくるのも久しぶりである。
「ここ最近ずっとサラゴサにいたからな」
「サラゴサの守備兵さん達・・・どうなったんでしょうか?」
「さあな。運が良ければ捕虜からのアガルタ管理局へ編入。運が悪くて皆殺しだな」
「そ、そんな・・・」
泣きそうな顔でアスガを見つめるリリア。
「そんな捨てられそうな猫のように俺を見つめるな。俺たちがいまからどう動こうと状況は何一つ変わらん。それに俺たちはやるべきことを果たした。報酬も貰った」
そう言ってアスガは貰った報酬金を手に取る。
「・・・・」
「悔やんでいる暇なんか無いぞ。一人でも多くの人を助けるならそれ相応の人を捨てることだな」
「そ、そんなひどいこというんですか!?」
「なら、あそこで死ぬことを決意した人々を、死んでかわいそうだなと哀れに思えばいいのか?」
「そ、それは・・・・」
「ちがうだろ?彼らは15万の市民を助けるための身代わり。俺が先ほど言ったそれ相応の捨てる人だ」
「命の重さは変わらないのに・・・」
「15万の命と3万の命・・・どちらが重い?言わずとも分かるだろうが」
突きつけられた非情な現実を分かっている自分と認めたくない自分に板挟みされ、悩み落ち込むリリア。それをたしなめるほどアスガは非情ではなかった。
「いきなりは無理だろう。でも、だんだんと慣れていけ」
「はい・・・」
リリアの頭を撫でたあとアスガは気分転換に外へ出た。
行き交う人々。照らされた照明。レンガの街並み。イスパーニア帝国首都マドリードの街並みは至って平和だ。だが、ここからわずか100kmも離れていないところでは戦争が、争いが起こっている。いや、終わったのかもしれない。味方の人間が無残にも殺されて。
「ここも・・・いつかは戦場となるのか・・・」
この街並みが焼け落ちていく風景を想像する。今まで一人でアガルタ管理局打倒を目指していた俺は一人でも多くの人狩りを殺そうとあらゆる戦場に赴いた。焼かれていく街並み。崩れかけてく母国とともに消え去る命。そして俺が消した命。鮮明に浮かび上がる。
「リリアも同じ戦場を歩いたはずなのに・・・・」
どうして普通の人間らしい感情が残っているのだろう?
アスガは疑問に思う。嘆きのライオンに残った5名のメンバー。彼らは名前は多種多様だが正式に名前が付けられていないこの戦争で様々な戦場に赴いている。
最初の戦場となったアイルランド。俺はそこからすべての西オーレリシア諸国連邦機構構成国を歩き戦った。ユーリやエージ。シュージさんも同じものだろう。ましてや、リリアはアイルランド軍最後の軍団リアルIRAの生き残り。言い方を変えればアイルランド軍最後の一人というわけだ。
ならば、俺のように目の前でいくつもの死体を見てきたはずだ。なのに、なぜ簡単に綺麗事をべらべらと言えるのだろうか?
「俺たちに、そんなことを言う資格があるとでも思っているのか?」
そんなことを思ううちにさらに別のところへと不思議の手が伸びる。
「まてよ・・・ならば戦場経験は俺はともかくリリアはあいつらよりも豊富なはず。なのに・・・」
なぜレベルが56なんだ?別にレベル自体は低くない。だが、それだけの戦場を歩いて生き残るには敵を殺すしかない。なのになぜ、レベルがここまでしか上がらなかったんだ?
「レベル80になるぐらいで当然。うまくいけば3桁に突入していてもおかしくない・・・」
(なにか・・・隠しているのか?でも・・・)
レベルや装備はステータスを見れば一目瞭然だ。嘘の付きようなんてないはず。
「考えすぎるのもよくない。リリアが心配するから早く帰るか・・・」
そう言ってアスガは嘆きのライオン本部へと戻っていった。
「邪魔するなといったはずだ・・・」
グシャと潰される頭蓋骨。中からはぐちゃぐちゃになった脳みそがあふれ出ている。
「アガルタ様・・・サラゴサの兵士の大半は全て皆殺しにしました」
「そうか・・・あとの残党狩りは下っ端共にやらせておけ」
「はっ!!」
にやりと薄笑いを浮かべアガルタは高笑いする。
「フ、フフフフ、フハハハハハ。次の戦いで我々は決まる。悲願が達成する。待っていろよ。現実世界でのうのうと暮らしている者達よ。西オーレリシアさえ取れば、我々の計画は完成に近い!!」