STAGE9:アガルタ横断旅行
「本作戦の概要を説明する」
司令部では城塞都市サラゴサ防衛作戦のブリーフィングが始まっていた。
城塞都市サラゴサ防衛軍の司令官とその他参謀が前に立ち並び、サラゴサに駐留しているイスパーニア軍及び西オーレリシア諸国連邦機構軍将校達は椅子に座り渡された地形図と資料を見ている。
そして俺たちのような軍に編入されながらも独立権を持つオブサーバーは一番後ろでブリーフィングの光景を眺めていた。
「アガルタ軍とイスパーニア軍国境警備軍との戦闘は1時間ほど前に終了した。ここからわずか40km北で我イスパーニア国境警備軍の全滅によってな」
先程まで双眼鏡でその戦闘を見ていたアスガ達にこの説明は無意味だった。
「アガルタ軍の推定戦力は20万。サラゴサ防衛軍は全軍合わせて3万2千」
6倍以上の戦力差。城を落とすには城内の兵の3倍は必要という話があるが、その話に則ればすぐにこの城塞都市は落とされるだろう。
戦闘前だというのになぜこんなネガティブになるようなことを言ったのだろうか?
オペレーターは頭がおかしいのではないかという考えがアスガの脳裏に浮かぶ。
まあ本人にはその事実を今更言われても全く関係のないことだったが。
「敵の侵攻速度は時速4kmを維持。明日の朝に到着予定です」
実際のところアガルタ軍は身内にはそれなりの優しさがあると聞く。
軍隊では確実を求めるため睡眠は休憩の際に6時間は取るのが鉄則。だが、それに見合う過酷な仕事で有名だが・・・
逆らう奴には容赦はしない。おなじアガルタ管理局でも自由を奪うことでも有名。
そのような話をしばらくしたあと俺たちに話が振られる。
「そこで、戦争ギルド“嘆きのライオン”にはアガルタ軍キャンプに対し奇襲攻撃をかけて欲しい」
「は?」
「いや、聞いていなかったか?エージ君に話を付けておいたのだが」
あの話か・・・・アガルタ18柱と正面切って戦うってやつだな。
「別に全滅させろという話ではない。キャンプを襲撃して睡眠を妨害して欲しいんだ。そうすれば敵の侵攻は遅くなる。そしてそれなりの被害も与えられる。また、破壊優先目標は魔粒子砲だ。そして、敵をぎりぎりまで城塞に近づけるな」
「了解」
俺たちの任務内容が終わるとほかのオブサーバーにも任務が行き渡り、最後にイスパーニア軍と西オーレリシア諸国連邦機構軍の統合軍に任務がくだされた。
「ったく・・・結局俺たちは使いっぱしりか・・・」
夜の12時。装備能力欄に暗視とステルス、シャドーを追加しサラゴサを出る。
俺たちの任務は簡単にいえば安眠妨害。深く言えば敵の野営施設に強襲し魔粒子砲を優先目標として破壊し、敵の侵攻を遅延する。
「仕方がないですよ。それに見合う報酬をもらってるんですから」
「この任務で時給1Auって・・・・」
その金額にびっくりしているユーリ。
無理もない。一般庶民の飯代が20Cuなのだ。現実世界の日本円にして20Cuが500円とするならば1Auは2500万。
スクラッチ1等を引いた気分である。
「たしかに・・・・円換算だとびっくりするな」
「生きて帰ってこれたらの話だがな」
この報酬は生き残ってきた場合の話である。つまり、あいつらは俺たちが死ぬのを前提にして物を言っているのだ。生き残れるはずがない。ならばせめて莫大な報酬金で釣ってやろうと。
「なら、あいつらの財布を空にしてやろうか」
シュージはイタズラな微笑みが闇夜に浮かぶ。
「いいですね。俺それに乗りますよ」
アスガのノリはいい具合に場を和ませた。
「生き残ったらそれでどこ行きますか?」
次々にシュージの言葉にのっていくギルドメンバー。
「アガルタ横断旅行」
なんて馬鹿なことを!!そんなことを言ったのは言った本人ならば絶対不可能なユーリ。
「アガルタ18柱の中に飛び込むより危険だな」
「違いないっす」
俺たちは一番危険な戦場に赴く兵士とは思えない会話をしていた。いや、兵士ではない。俺たちは傭兵だ。傭兵だからこそ、こんな会話ができるのかもしれない。
「この戦争が終わったらアガルタ横断旅行だ!!」
いつ死ぬかわからないこの世界で、アスガ達は今日も激しい任務につく。