STAGE2:ログイン
「成程」
家に帰ってすぐさまゲームを始めると、俺の部屋は真っ白な空間となり俺の横に四角い画面が表示された。
名前を入力してください。そこらのゲームとさほど変わりはない。
「えーと・・・」
名前名前・・・“あかすみ りょうが”だから、あかすみでアス・・・・アスガにしよう。
他の手続きは適当に済まして俺はゲームを始める。
まず初めに選ぶのが種族である。
種族と言っても大まかに分けると人間か獣人族であるが、さらに細かく分けると獣人族の下に狼獣人や猫獣人等の動物種に分けられる。
俺は取りあえずすぐさまに人間を選んだ。さすがに、俺に猫耳や、狼の耳は合わないだろう。
次に選ぶのが大陸。
千年前は今と違って大陸が少し違う。数世紀前に起こったシャンバラ規模の天変地異"大災厄"によりシャンバラの地形は変わり世界は新たに2つの大陸が生まれ、いくつもの地域が沈み、新たにいくつもの地域が生まれた。
だが、こA.Sの世界ではまだ大陸が3つだった時代。世界の北西に位置するオーレリシア大陸。今で言うヨーロッパだ。東に位置するアシーリス大陸は今で言うなればアジア。南西に位置するアーフカリア大陸。名前からしてこの大陸はアフリカ大陸である。この3つだ。
この3つの大陸の中から一つを選んで、また、その大陸の国家を選ぶ。そこでゲームは開始だ。
健介曰く、ギルドと呼ばれる組合に加盟した方がいいと。そこから、ソルジャーギルドで名を馳せれば軍に士官できるし、商工業ギルドに加盟すると企業を立て、商売をすることも可能。何事も基礎から固めなければならないということだ。
更にメンバーを集めてある地域で独立するなど、システム的には可能らしい。
ようするに、何でもありの世界と言うわけだ。
まあ、一人旅や、誰かとパーティ組んで冒険するのもある意味このゲームの醍醐味かもしれないが・・・
健介に言われたとおりスペインの原型、オーレリシア大陸のイスパーニア帝国。
[初期設定完了。これから、あなたをオーレリシア・ストーリーの世界へお導きします。現実世界では味わえない感覚をどうぞご堪能ください]
無機質な声によるナレーション。この声が俺を悪夢へと導いた。
[GAME START]
真っ白な空間はだんだんと濃くなっていき、あらゆる世界が構成されていく。
「うっ!!」
眩暈とも立ちくらみとも言えない感覚に襲われ、まばゆい光に再び包まれると、俺は地上に降り立っていた。
「こ、ここが・・・・オーレリシア・ストーリー」
俺が選んだのはイスパーニア帝国。降り立ったのは首都であるマドリード。
時代が時代だけに当時と同じようなレンガの建物や、首都の中心マドリード広場には大きな噴水がつくられている。
「おお、そこにいたか」
「ん?」
突然聞き覚えのある声に反応すると、予想通りのお相手がいた。
「健介か」
「探したぜ。まったく。お前のステータス見ていいか?」
「いいけど、見せ方知らないぞ?」
「視線を相手に合わせると相手の頭上にカーソルが出る。それに合わせて視界右下のメニューボタンを押すとメニューの中にotherって出てくるからそれを見ればいいんだ」
「成程」
俺はそう答えると視界右側にメニューボタンがあることに気づく。
「お前のステータスは・・・・武器何も装備してないじゃねえか」
「今ログインしたばかりだ」
「まったく。基本的な装備はアイテム欄に入っているから気に入った装備つけとけよ。ほとんどの武器系統入ってるから。なになに・・・・・なんだこのステータス!?」
俺のステータスを見た瞬間健介は驚愕の顔をした。何がそんなにおかしいんだ?
「射撃と魔法以外全部俺に勝ってる・・・・しかもこの差は何なんだ?」
「現実世界と比例するらしいからな。こんなもんだろ?」
そう言って俺は健介のステータスと俺のステータスを見比べる。
・・・・詳しくはプライバシーと今後のプレイヤーのために言わないが、平均して全てにおいて健介のステータスの3倍ある。
しかし俺はレベル1。健介はレベル12。なんだろうな・・・この差
「やはりお前を連れてきてよかった。レベル1でこれだ。相当前線で使える。しっかし・・・普通に考えるとお前のステータスからするとレベル40はあってもいいぐらいだぞ」
「そうなのか?」
と言われても俺にはピンとこない。このゲームにおいてレベル40はどのくらいなのか。
「レベル40ってどのくらいだ?」
「今ゲームを一番早く始めて、課金連中ならばレベル50到達しているかどうかだ」
そう考えると俺のステータスがよほどすごいということが解る。
「これであいつらのお望み通りにしてやるぜ」
「話がついていけないぜ・・・」
何の話だがさっぱりの朱澄凌雅ことアスガはため息をついた。
―――――高須ホールディングス
「何処からの攻撃だ!!」
高須ホールディングス代表取締役の高須隆二は怒声を揚げる。
「お、おそらくは中華連邦共和国からの攻撃かと・・・」
「ちっ、チャイニーズが!!そんなにMPのデータが欲しいか」
MP・・・ミラージュプログラムの略だ。
民間用のMPは相当に性能がダウンされているモンキーモデルな為、中華連邦共和国が国を上げてコピーしても仮想空間での軍事訓練ができないのだ。
そもそも民間用のMPはソフトがない限り仮想空間をつくることができず、日本の軍事訓練で使われているような仮想空間を作り出すにはMP自体にかなりのCPUとグラフィックボードが必要とされ、世界中の国家が精力を出しても開発には4半世紀以上かかると言われている。
ならばそれを開発した日本企業高須ホールディングスへクラッキングを行いデータを取れば開発は早まるだろう。そう考える輩が出てくるのだ。
特にお隣の中華連邦共和国。
「だめです。侵入を防げません」
「チッ仕方がない。データのバックアップは取れているから、社内の電源を全面カット。非常電源も落とせ」
「そ、そんなことしたら・・・・A.S管理システムがダウンし70万人のユーザーが・・・」
「・・・それも仕方あるまい。わが社の機密情報が奪われるよりもましだ。何も理論的に彼らは死ぬわけではない」
MPによって作られた仮想世界。A.Sを管理するシステムによりログイン、ログアウト、セーブ、ロードができる。略称A.S.M.S(Auralisia Story Manager System)これこそが、仮想世界と現実世界を繋げる唯一の存在。
そしてそのデータが高須ホールディングス本社に作られているのだ。
理論的にはA.S.M.Sが一度でもダウンすると再びA.S.M.Sを仮想世界に介入させる事は天文学的な確率で可能だが、まあ一言で言えば不可能だ。だが、仮想世界は作られた状態で維持されるため、死ぬことはない。その世界で永遠と生き続けることになる。
死ぬとするならば自殺か、もしくは誰かに殺される。HPがゼロになるかだ。
HPがゼロになると管理システムが作動しセーブポイントからやり直しになる。だが、このセーブも管理システムがあるからこそである。管理システムがダウンし、仮想世界に介入不可となればセーブは不可能となりHPがゼロになったらやり直しすることなど不可能となり、結果的に仮想世界の中でバグが生じ延々とデータとしてさ迷い続けることとなるだろう。
つまり無に帰ることだ。
「し、しかし・・・・マスコミが黙って見過ごす筈が・・・」
「私設部隊で黙らせろ!!この事は黙認だ。そしてA.Sの販売を終了しろ。民間用MPもだ。あらゆる小売店からA.Sを徴収し、ユーザーの親族にはデーモンデリーターによる悪魔化という処理もしておけ」
悪魔化・・・まだ人類が魔法を使えた時の話。
人々はMETを使い魔法を行使していた。だが、そのMETを体に大量に浴びるとモンスター化する。
そしてそれは今でも変わらない。モンスター化のことを今では悪魔化と呼び、それを処理する人々をデーモンデリーターと呼ぶ。
高須ホールディングスは悪魔処理という名でユーザーを死んだことにさせるのだ。
「はっ!!」
「ユーザーよ・・・仮想世界で頑張りたまえ」