STAGE10:お守
「な、何なんですかこれは!!」
フィオナは朝起きて見れば散らかっている寝室。破壊された壁。破られた窓ガラス。騒ぐのも無理はない。
だが、そんなものどうでもいい。俺は誰だか知らないがあいつらの所為で寝るのが遅かったんだ。朝からうるさい。静かにして、そして俺を寝かしてくれ。
「イリヤ様!!どういうことですか!!」
「う、うるしゃいんだぞフィオナ・・・・寝かしてくれると嬉しいんですよ」
バタッ←ベッドに何かが落ちる音
「ア、アスガ殿!!この状況を説明してもらいたいのです!!」
「俺は寝たい。いや、王様命令だ・・・・寝かせろ・・・・」
「・・・・・・」
な、なにがどうなって・・・・
「こ、この体たらくは何だあぁぁぁぁ!!」
大声で叫び出すフィオナ。同じ部屋で寝ているクローデリアも起き出し、あきれ顔でフィオナを見ている。
「ったく・・・朝から元気だなフィオナは。二人とも夜の大人のたしなみで疲れているんだ。寝かして置いておくのがいいぞ」
「お、大人の・・・た、嗜み?」
顔をうっすら赤らめてクローデリアに恐る恐る聞く。
「ああ。大人のたしなみだ」
「いや、だから・・・そ、その、た、嗜みと言うのは・・・何なのかと聞いている」
「ああ。清純なフィオナちゃんには解らないか~」
「い、いいから・・・お、教えてくれ」
「しょうがない。このクローデリア様が教えてあげよう。大人の嗜みって言うのはな」
「ああ」
クローデリアはフィオナに近付き、後ろから抱きつく。
むにゅむにゅ
「!!!!!!!!!!」
フィオナは突然の出来事に赤面全開で湯気を噴き出している。
「こういうことだ。なかなかいい物持っているな」
クローデリアはいやらしい笑みを浮かべてフィオナの胸を揉む。
「ク、クク、クク、クローデリア!!き、貴様!!な、なんとい、い、言うは、破廉恥な!!」
「だからこういうことを大人のたしなみって言うんだ。ここから先は言わなくても解るだろ?」
「・・・・先?」
「・・・えーとだな・・・ベッドでする事だ」
「え?そ、そ、そんな・・・そんな事・・・・」
イリヤ様とアスガ殿が?
異性に対して興味がないアスガ殿が?もしかしてアスガ殿はロリ好き?
二人で昨日の夜は激しく・・・
「そんなことしてるかあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
何をふざけたことを口走っているんだ!?
いい加減寝ていることに危機感を感じアスガは起き出した。寝ていたら何を言いふらかされるか解ったものではない。
「あ、起きた」
「・・・・そ、そんな事・・・二人に限って・・・・」
未だ現実世界に帰ってこれないフィオナ。
「おーいフィオナ。帰ってこーい」
「・・・・は、破廉恥・・・す、すぎる・・・」
「刺激強すぎたかな?でも20近いのに・・・・免疫ここまでないのって・・・・」
「成程。そんな事があったんですか・・・」
事情を説明してやると納得をしてくれた様子のフィオナ。
近くには城の兵士たちが壊れた部分を修復している。
「そ、それと・・・一つよろしいですか?」
「なんだ?」
フィオナは恐る恐るアスガに尋ねる。
「ア、アスガ殿は・・・そ、その・・お、大人の嗜みとやらを・・・毎晩、イリヤ様と・・・」
「やってるか馬鹿野郎!!クローデリアの話を真に受けるな!!」
アスガの相手となる当のイリヤは布団で熟睡中である。
「す、すいません・・・・・・良かった」
「何が良かったんだ?」
クローデリアは何かしらフィオナに絡んでくるのが好きなようだ。
「い、いや・・・ゴホン。何でもない」
「少し真面目な話をするがいいか?」
アスガは目つきを変えて二人を見つめる。
その様子を二人とも悟ったようで、先程とは違う空気を漂わせている。
「「ええ」」
「さっき言ったとおり、俺達は夜間に襲撃を受けた。だが、俺の索敵に引っ掛からない。そしてサーチまでする羽目になった。これがどういうことか解るか?」
「・・・・動いていても索敵に引っ掛からない。つまりステルスを手に入れた襲撃者たちと言うことですか?」
フィオナはアスガが何を言っているのかを端から端まで理解しており、彼の望む答えを返した。
「ああ。その通りだ。間近での戦闘は数え切れないほどあるが、アガルタ管理局について俺は詳しくは知らん。近隣国にいたクローデリアは、そんな部隊を聞いた事があるか?」
「・・・・私も、そこまで詳しい方じゃないんですが・・・たしか、アガルタ管理局ナンバー3に私設部隊があり・・・・夜戦専門と聞いた覚えが」
「成程。夜戦専門か・・・・」
だから夜に襲ってきたのか・・・・
「大変です!!」
「ん?」
ドンと扉を開く音の方へ眼をやると息を上げている兵士一人。
「どうした?」
「東砦の見張り2名が、何者かに殺害されていました」
「「!!」」
クローデリアとフィオナは唐突に入ってきた兵士に目をやる。
「そう言うことか・・・・・」
今回の攻撃はまだ前哨戦。多分俺達の実力を測りに来たのだろう。
もし、この国を滅ぼしに来ていたのなら5人では来ない。
さらに、東砦の兵士を皆殺しにしていたに違いない。イリヤを襲う気でもなかったところを見て、俺の予測は間違っていない。
「金銀コンビ!!」
「「は、はい」」
「全部隊に夜間の警備を緩めさせる」
「は、はい・・・・・え?」
「どういうことですか?」
「奴らを泳がせるんだよ。奴らは俺を見て一人と言った。つまり他にも相手をする予定だったんだ。それが金銀コンビのお前達だ。お前達を餌にしてひきつけ、俺達が侵入者を捕獲する」
「わかりました・・・・とはいえ、私たちは具体的に何を?」
「奴らから見えるところにいてくれればいい。城のてっぺんとか?多分夜を狙って攻撃を仕掛けてくる」
「わかりました」
「頼んだぞ」
そう言うと俺は二人と別れて、東村へ滞在する事にした。
「アスガ様・・・何処へ?」
「作戦だ。夜は帰れないと思う」
「そうですか・・・・」
少し残念そうな表情を浮かべるイリヤ。
だが、今までこんなことは何度かあったが、こんな表情をするのは初めてだ。
「どうかしたか?」
「いや・・・・何でもないです。ただ、嫌な予感がしまして、一緒にいてほしいというか・・・・」
「それはできない」
相手のレベルは200近いと見た。そんなレベルの相手金銀コンビでも打倒は不可能だ。
なら俺が出るしかあるまい。
「そうですか・・・」
更に落ち込むイリヤ。本当に今日はどうしたんだ?
「・・・・はぁ」
ため息をつくアスガはパフッという音を立てて、イリヤの頭をくしゃくしゃになでる。
「な!!なんなんですか!?」
「黙ってろ」
「な、なにするんですか!!やめてください!!」
イリヤは突然のアスガの行動に恥ずかしくなり頬を紅潮させる。
「黙ってろと言ったはずだ。いいからこのままにしていろ」
「は、はいいぃぃぃぃ」
イリヤはしばらくの間、アスガに頭をくしゃくしゃにされた。
「本当に何だったんですってえ?ええええ?えええ?」
頭をくしゃくしゃにしたかと思うと、アスガは突然イリヤに抱きついた。
「ア、アスガ様!!い、いきなり、どどどどど、どうしたんですか!?」
「お前が危険な時はいつでも守ってやるから、今日は言うことを聞いてくれ。帰ってきたらいくらでも一緒にいてやるから」
しばらく二人の間には沈黙が続いた。
「・・・・はい」
最後に口を開いたのはイリヤだった。
「これでもさみしいか?」
「も、もう、だ、大丈、夫、です」
「そうか。なら良かった。じゃあ、俺は行く」
「はい。行ってらっしゃい」
イリヤは満面な笑顔でアスガを送って行った。
「アスガ様から私に抱きついてくれるなんて・・・・もしかして、私の事・・・」
「まったく・・・・餓鬼のお守りをつかれるぜ」
ため息をつきながらアスガは作戦指定地域へ向かう。