STAGE9:強襲
ここはアガルタ城王の間。
とか言う立派な名前は無く、アスガ・イリヤ夫妻の寝室が正式名称である。
新婚カップルのイメージは朝から晩までイチャイチャ。夜は夜で大人のたしなみに忙しい。
だが、この二人は新婚そうそう暗かった。別にイリヤが暗かったわけではない。2年3カ月の間一人で戦い続けた挙句コミュ障になった哀れな王がどうすればいいのだと毎晩悩んでいたからである。
そしてそれから数カ月がたった12月。いまだにアスガの顔は無愛想のままである。
「・・・・なんだこの気配」
「どうかされました?」
隣で寝ているイリヤも起きる。
「いや・・・・なんかいやな気配が・・・」
ゲームのシステムや俺のパラメーターが問題ではない。この世界に来てからの経験が物を言っている。
「サーチ・・・・」
俺は周辺をサーチし、敵がいないか確認する。
確認してコンマ数秒。俺は異物の存在を感じた。
「伏せろおおおぉぉぉ!!」
バリイイイイイン
寝室のガラスが砕け散り、それと同時に黒い影が姿を現す。
「!!」
俺はイリヤを抱きかかえベッドの下に放り込む。
サーチした途端にこれだ。
「な、なん!!」
アスガの言葉は続かなかった。
「はあ!!」
なんだ貴様らと言おうとした途端に攻撃を仕掛けてくる黒服連中。数は5人。
「名乗る気なしか・・・・・」
傍に飾ってあった鹿の角を手に構える。ドラゴン退治に使ったアシュケロンの攻撃力3200。グラディウスが使っていた剣・・・狙ったのか知らないがグラディウスと呼ばれる剣の攻撃力は760。プトレマイオス共和国軍正式採用の剣の攻撃力は210。
そして鹿の角の攻撃力・・・・35
追い打ちをかけるは5人のレベルだ。他の4人は100未満だが一人がダントツにレベルが高い。おそらく200近いだろう
「一人だけか?」
エレボスはつぶやく。しかし、アスガには相手の意図を読むことはできなかった。
「一人?」
「貴様には関係の無いことだ!!」
「メンドくせえ連中だな!!」
エレボスの剣を鹿の角で防ぐ。それを狙って後ろから迫る4人。
この状況では無敵の盾を装備する暇もない。
エレボスの剣を右手で掴み左手で後ろの方向へ鹿の角を投げ飛ばす新たなソニックウェーブを放つ。
城の内壁をぶち壊しながら4人を吹き飛ばし、ソニックウェーブの反動を活かして左足で回転蹴り。エレボスの顔面にはダイレクトに蹴りが決まり、装備を放して吹き飛ぶ。
「なかなかいい剣装備してんじゃねえか」
アスガのステータス装備欄のメインウェポンが鹿の角からバルムンクへと変わる。
ついでに言うとこの剣はアスガが手にした事の無い剣である。
「くっ!!(鹿の角ごときでこれか!!)」
「どうした?余裕が消えたぜ!!」
「げふううううう!!」
エレボスと会話中の隙を狙って完全に後ろから攻めてきたはずの4人のうち一人は後ろで足蹴りされただけで吹き飛んだ。
(尋常じゃない強さだ!!相手にならん)
「撤退!!撤退」
エレボスは撤退命令を出す。それに従い、瓦礫に埋もれおねんねしていたDTのメンバーも起き上がりぴょんぴょんはねて出て行った。
「な、なんだったんだ?」
右手に握られているバルムンクと呼ばれる剣を眺めて顔をかしげるアスガだった。
「エレボス様・・・・」
「解ってる。言うな・・・・」
(こんな奴がいたとは・・・・レベル200どころではない。250は超えていると言っても過言ではない)
命からがら逃げる5人。
「どう報告しますかエレボス様?」
「こ、こんな大失態・・・・報告できるわけなかろう!!」
「し、失礼しました」
部下に怒声を浴びせるエレボス。そして謝る部下。
周りを囲う部下たちはエレボスと同様に悩む。
「エレボス様・・・・・」
「なんだ?言ってみろ」
名も知らぬ部下からの提案を聞こうとするエレボス。
「人質でも取れば・・・・・いいんじゃないんですか」
「人質?」
「はい。アガルタ共和国の皇女はレベルが一ケタ台と聞きました。国王は元々何でも屋をしていたそうで、王女の護衛を依頼され、そこで出会ったそうです」
「成程・・・・王女を人質に。なら、じっくりその皇女様とやらを頂かないとな」
「では?」
「ああ。明日の昼。DT50人全軍出撃だ。そして俺のバルムンクを取り戻す!!」
「エレボス様・・・・それが目当てなのでは?」
エレボスの側近はその後に小声で「本来の目的をお忘れなさぬように」と、釘を打った。