STAGE1:物資強奪
「物資を運べ!!」
たくさんの人ごみを指示する男。その名はアスガ。
現実世界での名を朱澄凌雅と言う。
仮想世界での立場はアガルタ共和国初代国王。
「アスガ様の言ったとおりでしたね」
「ああ」
俺達がいま立つ場所。そこはアガルタ管理局軍。一般的にはアガルタ軍と呼ばれている軍隊の軍事基地。
二日前にアガルタ共和国に進攻してきたアガルタ軍は偽軍(アガルタ共和国軍の事。アガルタ管理局命名)をアガルタ城まで追い詰めるが、戦闘に強制介入をしてきたアスガに4千人の軍勢をフルぼっこされ、大敗北をした。そのことは本国でも行きとどいているだろう。
アスガは全員殺ったつもりだったが、一部生きていた人間がいて、そいつらから吐き出させた情報からアガルタ軍の軍事施設を特定し、物資を運んでいる途中だ。
なんせアガルタ共和国から直線距離にしてたったの2kmしかないのだ。なぜそんなに近くに軍事施設があったのにもかかわらずこいつらは気づかなかったのか・・・
この国の危険予知の無さにこの先思いやられる。
「それにしてもどうすればあれだけ強くなれるんですか?」
「そうだな・・・・1日中人狩りを狩って2年間同じことを繰り返せばな」
「え、遠慮しておきます」
人狩り。アガルタ管理局の蔑称だ。人狩りを狩れるほどのレベルのプレイヤーが何人いるだろうか?
俺自体元々レベルは低かったがステータスだけは以上に高く、そのためレベルが高い連中と戦って勝てばかなりの経験値が手に入る。本来自分のレベル+40ぐらいの相手と戦ってちょうどいいのだ。
つまり俺のレベルが上がるのに貢献したのはまさかの課金連中の軍団アガルタ管理局なのだ。
「物資の整理が完了しました」
「ご苦労さん。さて、帰るとしよう」
予備役を含めた兵士に力に自信がある村の男たちを連れてこの軍事基地に来た。
俺の予想通り、5千人を蓄えるだけの広さと、食糧、武器。そして輸送に使ったのだろうと思われる荷馬車。重い荷物は荷馬車に乗せ軽い物は人力で運ぶことにした。
―――――アガルタ共和国
二日前のアガルタ軍進行による被害は甚大な物で、田畑は焼かれ、家は燃え尽き、この国に残ったのは灰とアガルタ軍兵士の死体だけだった。
唯一の救いはアガルタ軍兵士から物色した莫大なお金とアイテム、装備だった。
そのお金の量はアガルタ共和国の予算の100倍と言う逸話が流れている。
「兵隊さんのお帰りですよ」
イリヤはみんなと混じって蹂躙された国土の復興支援をしていた。その折にアガルタ軍の軍事施設から物資強奪をしてきた兵士のお帰りを見たのだろう。
「お疲れ様です」
「お前らの国の危険予知はどうなっているんだ?」
イリヤは帰ってきた形式上夫であるアスガにお茶をやる。
「お前らの国って・・・・もうこの国はあなた様の物ですよ」
「ったく、めんどくさい仕事押しつけやがって」
「そんなこと言ってもあなた様はしっかり私達を導いてくれるこの国の希望だと私は信じて疑いませんよ」
「おれは何処の教祖様だよ」
ちらりと横を見ると、城の建設に熱心に働くNPC。
ゲームのシステム上なのだろうか、雇ったNPCがたった1日でこの国に来るとは・・・
明らかに人手が足りない。そう考えたアスガは隣街・・・ではないが、一番近い都市。隣国プトレマイオス共和国の都市ヤムスクまで行き、たくさんのNPC雇用を掲示板に張り付けた。
そのおかげか、1日で数千人のNPCを雇うことができ、その貼り紙を見たのか正規プレイヤーまでもがこの国へとやってきた。
「この国の希望か・・・・」
さて何からしよう。指示する事はもう決まっている。食料も武器も金も手に入った。ならば、民にこの国の守りを強化させる時だ。
当分はアガルタ軍も攻めてくることはできまい。
民は国防。なら俺とイリヤは外交だ。アガルタ管理局と対立している国は多いと聞く。そこと手を組み、それを国益に繋げるのだ。
―――――アガルタ管理局
「軍神グラディウスが死んだ!?」
「ふざけたことをぬかすな」
円卓会議上で机をどんどん叩くいい年こいた人達。
年齢的には30代前半。
きっと親の金を啜ってこのゲームにつぎ込んだ愚か者たちだろう。
だが、この仮想世界A.Sがこんないい年こいたニート連中に牛耳られているとは・・・・
何とも情けない話だ。
「事実は事実。そして単純にレベルだけならアガルタ管理局序列第7位の軍神グラディウス以上のプレイヤーがいるということだ」
「それだけではない。半数がレベル50以上ものプレイヤーで作られた5千人の軍隊を瞬時に蹴散らすということは単純に考えてレベルは150あると考えていいだろう」
「その人・・・面白いわねぇ。一度でもいいからお相手したいわ」
「アガルタ管理局中央議会12人のうち一人欠け11人になった。この11人のうち誰がそいつを殺ろうが構わない。だが、あの国はいずれアガルタ統治・・・・そして我々をここに閉じ込めた高須ホールディングスへの復讐の障壁になるということだけは忘れぬよう」