表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/42

下巻に記されなかった真実

「カイルさん! いま回復します!」


 駆け寄ってきたミーナの杖が、淡い光を放つ。

 肩と脇腹の傷が、心地よい熱とともに塞がっていく。

 カイルは荒い息を整えながら、足元に転がる「かつての師匠だった液体の塊」を見下ろして呟いた。


「すげーよ! どこかのポンコツ剣士よりよっぽど強かったぞ、あのバケモノ!」


 ロウが興奮気味に叫ぶが、カイルは静かに首を振った。


「いや……現代のモンスターが相手だったら、アルトの方が強いだろう」


 カイルは、自分の中の力が『古代種』に対して特攻を持つ事を、なんとなく感じていた。

 なぜこんな事を思うのかは、分からない。

 ただ、懐にあるボロボロの『上巻』が、先ほどから静かな鼓動のように脈打っているのだけが、唯一の答えのような気がした。


「はやくアルトを探さないとな」


「あっ、そうだった。あいつ食中毒で倒れてるんだった。というか、どこにいるんだ? どこで偽物と入れ替わったんだろう?」


 ロウが周囲の霧を見渡す。偽物がアルトに化けていたということは、本物はどこかで足止めを食らっているはずだ。


「霧が濃くて前が見えなかったあたりかな……何回か見失った気がする。ミーナ、見つけたら回復たのむ」


「えっ、わたし食中毒で倒れた人にMP使うの嫌なんですけど。カイルさん、毒消し草くれませんか?」


 ミーナが露骨に嫌な顔をした。彼女にとって、戦闘の負傷を治すのは「尊い投資」だが、不摂生による腹痛を治すのは「死に金」に近い感覚なのだ。


「リーダーから毒消し草をもらう回復役なんて他にいないぞ」


「失礼な。家計(MP)を守る主婦の気持ちになってくださいよ」


 そんな押し問答をしていた時だ。

 森の奥から、何とも緊張感のない、のんきな声が聞こえてきた。


「あれ~? みんな、どうしてこんな先にいるんだ?」


 霧をかき分けてやってきたのは、真っ赤な鎧を身にまとった剣士アルトだ。

 どうやらピンピンしている。腹を押さえる様子もなく、むしろ「ちょっといい散歩をしてきた」と言わんばかりの爽やかな表情だ。


 三人が、それぞれ「腹はどうした」「勝手にいなくなるな」と文句を口にしようとした。

 だが、その言葉は、次の瞬間にはひっこんでしまった。


 剣士アルトの背後から、続いて本を持った無表情な冒険者カイル(?)、獲物を品定めするような目でニヤつく罠師ロウ(?)、そして慈愛に満ちた(ように見えるが瞳の奥が濁った)回復役ミーナ(?)がぞろぞろと姿を現したのだ。


 ……本物と、偽物のパーティが、霧の中で完全に対峙した。

 

 一瞬の静寂の後、一行の悲鳴が森にこだました。


「ギャーーー!? 増えてる!? しかも俺、あんなに性格悪そうな顔してんのか!?」


「わたくしの偽物、持ってる同人誌がめちゃくちゃ分厚いんですけどぉぉぉ!!」


 彼らのその後の苦労は筆舌に尽くしがたいものがあった。

 自分自身の「失敗パターン」を知り尽くした相手との泥沼の潰し合い。

 誰が本物で誰が偽物か、互いに『上巻』にしか載っていない「過去の恥ずかしい失敗」を暴露し合って証明する地獄のような真実究明。

 カイルが「もう死んだほうがマシだ」と思うほど、その戦闘(と会話)は過酷を極めた。


 しかし、彼らが一体どれだけ精神的に、肉体的に苦労をしようとも――。


 リーネの持つ下巻には、たったこれだけの成功ログしか刻まれないのだった。


『【討伐・冒険成功】:冒険者カイル――迷いの森で古代種ドッペルゲンガーを討伐する。メンバー全員とともに迷いの森からの脱出に成功する』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ