第1話 瓦礫の中の朝
朝の光は、
優しすぎるほど静かだった。
瓦礫の山に囲まれた街に、
ゆっくりと差し込む。
ビルの骨組み。
割れた窓。
ひび割れた道路。
それでも、
空は青い。
亮は、
スコップを握っていた。
瓦礫撤去の
ボランティア。
ヘルメットに、
軍手。
勇者の装備は、
どこにもない。
隣で、
黙々と石を運ぶ
中年の男が言う。
「兄ちゃん、
若いのに
よく来るな」
「暇なんで」
亮は、
それだけ答えた。
本当は、
暇ではない。
やることは、
山ほどある。
それでも、
ここに来る。
身体を動かしていると、
余計なことを
考えなくて済む。
瓦礫の下から、
小さな写真立てが
出てきた。
家族写真。
笑顔。
胸が、
少し痛む。
「亮兄!」
明るい声。
あみだった。
作業着姿。
髪を後ろで束ね、
ヘルメットを被っている。
「午前中は
ここ?」
「ああ」
「午後は
ギルド行く」
「登録更新?」
「うん」
短いやり取り。
昔と同じ。
だが、
少し違う。
二人とも、
世界を救った。
そんな事実を、
誰も知らない。
知られないほうが、
いい。
亮は、
そう思っている。
昼。
簡易テント。
支給された
おにぎりと味噌汁。
あみが、
横に座る。
「お兄ちゃんさ」
「ん?」
「後悔してる?」
亮は、
少し考える。
「してる」
「でも」
「やり直せない」
「だから」
「今を
ちゃんとやる」
あみは、
頷いた。
「私も」
午後。
探索者ギルド。
建物は、
仮設。
壁には、
まだ焦げ跡。
受付に、
松岡優子。
「登録更新ですね」
事務的な声。
だが、
目が少し笑う。
「はい」
「体調は?」
「問題なしです」
端末操作。
ピッ。
「葛城あみさん、
Cランク昇格試験
受けます?」
「受けます」
即答。
亮は、
何も言わない。
言えない。
あみは、
もう子供じゃない。
ギルドを出る。
夕焼け。
街は、
少しずつ
立ち上がっている。
「お兄ちゃんは
登録しないの?」
「しない」
「戦わないの?」
「必要なら」
あみは、
少しだけ笑う。
「ずるい」
「何が」
「逃げ道、
作ってる」
亮は、
答えない。
夜。
仮設住宅。
二人で、
簡単な夕食。
カップ麺。
「昔みたいだね」
「ああ」
静かな時間。
窓の外。
遠くで、
工事の音。
復興は、
続いている。
亮は、
思う。
英雄じゃなくていい。
勇者じゃなくていい。
人として、
生きたい。
だが。
世界は、
それを許すほど
優しくないかもしれない。
それでも。
この朝を、
守りたい。




