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忘れられた聖女と、最果ての花園  作者: 東雲みどり
「忘れられた聖女と、最果ての花園」

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第6話 竜は主(あるじ)を忘れない

廃墟となった魔王城の奥深くで、二人は奇妙なほど手入れされた空間に辿り着く。そこで待っていたのは、たった一人で主の帰りを待ち続けていた忠臣、古竜ヴォルグ(老執事の姿)だった。

ヴォルグは生きていたノアを見て涙を流して歓喜する。そして、かつての宿敵であるフローラを、ノアが連れ帰った「王妃」だと勘違いしてしまう。

慌てるノアをよそに、フローラは楽しげにその役を受け入れ、敵対関係を超えてヴォルグと心を通わせる。

しかし、人間になるための秘宝**《堕天の果実》**を手に入れるには、ヴォルグさえも懸念する「ある問題」をクリアしなければならなかった。

瓦礫の回廊を進むにつれ、空気は重く、冷たくなっていく。

 だが、宝物庫の扉の前に差し掛かった時、そこには異質な光景があった。

 ここだけ、埃ひとつ落ちていないのだ。

 磨き上げられた床。整えられた燭台。まるで今夜、舞踏会が開かれるかのように整然としている。

「……誰だ」

 ノアが鋭く問いかけると、暗闇の奥から、カツ、カツ、と硬質な足音が響いた。

 現れたのは、燕尾服を隙なく着こなした、白髪の老紳士だった。

 ただし、その額からは二本のねじれた角が生え、背中からは畳まれた竜の翼が覗いている。

「――おや」

 老紳士は、眼鏡の位置を直し、ノアの顔を凝視した。

 そして次の瞬間、その細められた瞳が驚愕に見開かれ、膝が崩れ落ちた。

「おお……おおお……!」

 彼は床に膝をつき、震える声で叫んだ。

「我が王! アビス様! ご無事で……ご無事でいらっしゃいましたか!」

「……ヴォルグか。まだ生きていたとはな」

 ノアは呆れたように息を吐いたが、その声色は隠しきれない優しさを帯びていた。

 古竜ヴォルグ。かつて魔王軍の参謀を務めた、最強の竜種だ。

 彼はハンカチを取り出し、滝のように流れる涙を拭いながら立ち上がった。

「もちろんでございます。いつか王が帰還されると信じ、この城を守り続けておりました。……10年。長うございましたが、このヴォルグ、感無量でございます」

 そして、ヴォルグの視線が、ノアの背後にいるフローラに向けられた。

 一瞬、その目が「敵」を見る鋭さを帯びる。かつて彼らは戦場で殺し合った仲だ。

「……そちらは、聖女フローラ。何故、憎き宿敵がここに?」

「彼女は俺の客だ。ヴォルグ、礼を尽くせ」

「客、ですか?」

 ヴォルグは怪訝そうに眉をひそめたが、すぐにハッとした表情になり、ニヤリと口角を上げた。

「……なるほど。王が自ら『連れ帰った』ということは、つまり『戦利品』……いえ、『生涯の伴侶』として迎えられたと?」

「なっ……!?」

「まあ、素敵!」

 絶句するノアの横で、フローラが花が咲いたように笑った。

 彼女は一歩進み出ると、かつての敵である老竜に向かって、優雅にドレスの裾(といっても旅装だが)をつまんでカーテシーをしてみせた。

「ふふ。そういうことにしておくわ。よろしくね、ヴォルグさん」

「はっ……これは失礼いたしました、王妃様」

 ヴォルグは流れるような所作で最敬礼をした。

 ノアだけが「否定させろ!」と顔を赤くしているが、老竜と元聖女の間には、奇妙な連帯感が生まれていた。

「して、本日はどのようなご用向きで? 王妃様のための宝石をお探しですか?」

「……違う。宝物庫にある『堕天の果実』が必要なんだ。あれがあれば、聖女を人間に変えられると聞いた」

 ノアが真剣な表情に戻ると、ヴォルグもまた、執事の顔を引き締めた。

「承知いたしました。……ですが王よ、一つだけ問題がございます」


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