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忘れられた聖女と、最果ての花園  作者: 東雲みどり
「忘れられた聖女と、最果ての花園」

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第4話 神様から君を奪う方法

フローラを救うため、ノアは「人々から信仰を集める」のではなく、もっと大胆な提案をする。それは「聖女を辞めて、人間になること」だった。

ノアは、かつての居城に眠る秘宝**《堕天の果実》**を使えば、聖女の力を捨てて肉体を人間に作り変えることができると語る。ただし、その代償は「不老不死」を失い、いつか死ぬ運命を受け入れること。

「永遠の孤独か、俺との限りある生か。選べ」

ノアの究極の問いかけに、フローラは涙を流しながら答える。「普通の女の子になりたかった」と。

神の定めた運命よりも、愛する人との数十年を選んだ二人は、秘宝を求めて魔王の旧領へと旅立つ。

「……俺がお前を忘れさせない」

 ノアのその言葉は、熱を帯びていた。

 けれど、フローラの表情は晴れない。彼女は悲しげに首を横に振った。

「ありがとう、ノア。でも……私一人のために、あなたが世界中を駆け回って信仰を集めるなんて、無理よ。それに、今の平和な世の中に、もう『聖女』なんて必要ないの」

 彼女の言葉は正論だった。

 平和ボケした人間たちに、今さら聖女のありがたみを説いたところで、どれだけの者が耳を貸すだろうか。恐怖で支配したとしても、それは彼女が望む形ではない。

「……そうだな。俺も、あの薄情な人間どもに頭を下げて回るのは御免だ」

 ノアはふんと鼻を鳴らし、剣の柄から手を離した。

 そして、真っ直ぐにフローラを見据える。

「だから、別の方法をとる」

「別の方法?」

「ああ。……フローラ、お前、聖女を辞めろ」

 フローラが目を丸くする。

 何を言われているのか理解できない、という顔だ。

「辞めるって……そんなことできないわ。私は生まれつき聖女として、『システム』の一部として作られたの。神様に定められた運命からは逃れられない」

「逃れるんじゃない。書き換えるんだ」

 ノアは不敵な笑みを浮かべた。かつて深淵大陸を統べた王としての、絶対的な自信がそこにはあった。

「俺の居城の書庫に、禁忌とされる古文書があった。そこには『神の座を降り、人へと堕ちた天使』の伝承が記されていた」

「人へ……堕ちる?」

「そうだ。ある秘宝を使えば、お前を構成する『聖性』を砕き、ただの『人間』の肉体に作り変えることができるかもしれない」

 ノアは一歩、彼女に近づいた。

「ただし、代償はある。聖女としての不老の命は失われる。病気にもなるし、腹も減るし、シワだって増える。……そしていつか、俺と同じように死ぬことになる」

 それは、永遠を生きる彼女にとって、あまりにも大きな喪失かもしれない。

 だが、ノアは彼女の手を取り、強く握りしめた。

「世界中の記憶にすがって、いつ消えるか怯えながら生きる永遠か。……俺の隣で、泥臭くあがいて、笑って、泣いて過ごす数十年か。……選べ、フローラ」

 それは、悪魔の囁きであり、同時に、これ以上ない愛の告白だった。

 神様から君を奪って、俺だけのものにするという宣言だ。

 フローラの瞳が揺れる。

 やがて、彼女の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。

「……ずるいわ、ノア」

「なんとでも言え」

「私、ずっと……ずっと、普通になりたかった。誰かのための聖女じゃなくて、ただの女の子になりたかった」

 彼女は握り返された手に、額を押し付ける。

「連れて行って、ノア。あなたのいる世界へ、私を連れ出して」

 契約は成立した。

 二人の目的地は決まった。

 世界のどこかにあるという、聖女を人へと変える秘宝――**《堕天の果実(仮)》**を求めて。

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