第2話「聖剣の重さ、魔王の孤独」
最果ての花園でハーブティーを飲みながら、かつての宿敵同士は初めて「敵」としてではなく「個人」として語り合う。
ノアはフローラを感情のない完璧な聖女だと思っていたが、フローラは10年前の決戦で、ノアが「世界中の憎しみを背負って、わざと負けようとしていた」ことを見抜いていたと告げる。
「聖女」と「魔王」。互いに役割に縛られ、誰にも理解されなかった孤独な二人。
その痛みを分かち合ったノアは、そっと彼女の手を握り締める。「これからは聖女も魔王も関係ない。もう二度と、お前を一人にはさせない」と、新たな絆を誓うのだった。
最果ての花園に、湯気が揺らぐ。
フローラが淹れてくれたのは、この花園に自生する薬草を使ったハーブティーだった。
急ごしらえの木のテーブルを挟んで、かつての宿敵同士が向かい合う。
「……意外だな」
一口飲んで、ノアは呟いた。
「お前はもっと、霞だけ食べて生きているような女だと思っていた」
「ひどい偏見ね。私だって温かいお茶くらい飲むわ」
フローラはあどけなく笑い、自分もカップに口をつける。
10年前。決戦の地、王城の最上階。
あの時の彼女は、人間らしい感情を全て削ぎ落とした「正義の代行者」に見えた。
冷徹で、完璧で、恐ろしいほどに美しかった。
「あの時の君は、泣いているように見えたのよ」
不意に、フローラが言った。
ノアはカップを持つ手を止める。
「……俺がか?」
「ええ。アビス=レクス。あなたは世界中の憎しみを一身に背負って、わざと倒されようとしているように見えた。……だから私、全霊で聖剣を突き立てたの」
「……」
図星だった。
だが、まさか彼女に見抜かれていたとは。
ノアはバツが悪そうに視線を逸らし、乱暴に頭をかいた。
「買いかぶりだ。俺はただ、負けただけだ」
「ふふ、そういうことにしておくわ」
フローラは優しく目を細め、遠くの山々を見つめた。
「私ね、怖かったの。みんなが私を崇めるのが。『聖女』という役割だけを求めてくるのが。……あなたと戦っている時だけが、私が唯一『ただの人間』として命を燃やせる瞬間だった」
その言葉に、ノアの胸が締め付けられる。
彼女もまた、孤独だったのだ。
光の中にいながら、誰にも理解されず、偶像として生きることを強いられてきた。
(俺たちは、似た者同士だったのか)
ノアは自然と手を伸ばし、テーブルの上に置かれた彼女の小さな手に、自分の手を重ねていた。
「……これからは、聖女も魔王も関係ない」
驚いて顔を上げたフローラの瞳を、ノアは真っ直ぐに見つめ返す。
「ここにいるのは、ただのノアとフローラだ。……もう二度と、お前を一人にはさせない」
フローラの頬が、花びらのように微かに赤く染まる。
それはかつて戦場で見たどんな表情よりも、ノアの心を激しく揺さぶった。




