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忘れられた聖女と、最果ての花園  作者: 東雲みどり
「忘れられた聖女と、最果ての花園」

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2/9

第2話「聖剣の重さ、魔王の孤独」

最果ての花園でハーブティーを飲みながら、かつての宿敵同士は初めて「敵」としてではなく「個人」として語り合う。

ノアはフローラを感情のない完璧な聖女だと思っていたが、フローラは10年前の決戦で、ノアが「世界中の憎しみを背負って、わざと負けようとしていた」ことを見抜いていたと告げる。

「聖女」と「魔王」。互いに役割に縛られ、誰にも理解されなかった孤独な二人。

その痛みを分かち合ったノアは、そっと彼女の手を握り締める。「これからは聖女も魔王も関係ない。もう二度と、お前を一人にはさせない」と、新たな絆を誓うのだった。

最果ての花園に、湯気が揺らぐ。

 フローラが淹れてくれたのは、この花園に自生する薬草を使ったハーブティーだった。

 急ごしらえの木のテーブルを挟んで、かつての宿敵同士が向かい合う。

「……意外だな」

 一口飲んで、ノアは呟いた。

「お前はもっと、かすみだけ食べて生きているような女だと思っていた」

「ひどい偏見ね。私だって温かいお茶くらい飲むわ」

 フローラはあどけなく笑い、自分もカップに口をつける。

 10年前。決戦の地、王城の最上階。

 あの時の彼女は、人間らしい感情を全て削ぎ落とした「正義の代行者」に見えた。

 冷徹で、完璧で、恐ろしいほどに美しかった。

「あの時の君は、泣いているように見えたのよ」

 不意に、フローラが言った。

 ノアはカップを持つ手を止める。

「……俺がか?」

「ええ。アビス=レクス。あなたは世界中の憎しみを一身に背負って、わざと倒されようとしているように見えた。……だから私、全霊で聖剣を突き立てたの」

「……」

 図星だった。

 だが、まさか彼女に見抜かれていたとは。

 ノアはバツが悪そうに視線を逸らし、乱暴に頭をかいた。

「買いかぶりだ。俺はただ、負けただけだ」

「ふふ、そういうことにしておくわ」

 フローラは優しく目を細め、遠くの山々を見つめた。

「私ね、怖かったの。みんなが私を崇めるのが。『聖女』という役割だけを求めてくるのが。……あなたと戦っている時だけが、私が唯一『ただの人間』として命を燃やせる瞬間だった」

 その言葉に、ノアの胸が締め付けられる。

 彼女もまた、孤独だったのだ。

 光の中にいながら、誰にも理解されず、偶像として生きることを強いられてきた。

(俺たちは、似た者同士だったのか)

 ノアは自然と手を伸ばし、テーブルの上に置かれた彼女の小さな手に、自分の手を重ねていた。

「……これからは、聖女も魔王も関係ない」

 驚いて顔を上げたフローラの瞳を、ノアは真っ直ぐに見つめ返す。

「ここにいるのは、ただのノアとフローラだ。……もう二度と、お前を一人にはさせない」

 フローラの頬が、花びらのように微かに赤く染まる。

 それはかつて戦場で見たどんな表情よりも、ノアの心を激しく揺さぶった。

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