表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘れられた聖女と、最果ての花園  作者: 東雲みどり
「忘れられた聖女と、最果ての花園」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

第1話 深淵の王と、最果ての花

かつて世界は二つに裂けていた。

 魔王が統べる闇の《深淵大陸アビスガルド》と、人々が暮らす光の《白聖大陸セレスティア》。

 千年に及ぶその争いを終わらせたのは、たった一人の少女だった。

 だが今、その少女の名を覚えている者はいない。

 平和ボケした人間たちは、英雄を消費し、そして忘却の彼方へと追いやったのだ。

 ――人間とは、なんと薄情な生き物か。

 冒険者、ノアは呆れを通り越して失笑しながら、茨の森を剣で薙ぎ払った。

「ここか……」

 地図にはない。歴史書にも記されていない。

 世界から切り離された場所、《最果ての花園》。

 視界が開けた瞬間、ノアの呼吸が止まった。

 そこには、かつて戦場で見た血の色も、焼けた土の匂いもない。

 あるのは視界を埋め尽くす青と白の花々と、優しい風だけ。

 そして、その中心に彼女――フローラは立っていた。

 太陽の光を吸い込んだような銀髪。

 戦場で見せた凛々しさは鳴りを潜め、今はただの無垢な少女のように、裸足で大地を踏みしめている。

(……やっと、見つけた)

 ノアの――いや、かつて冥王アビス=レクスと呼ばれた男の胸奥が、熱く震えた。

 10年前、聖剣でこの身を貫かれたあの瞬間から、俺の魂はずっと彼女に焦がれていたのだ。

「……あ」

 フローラが振り返る。

 その瞳がノアを捉えた。

 かつての宿敵。今はただの冒険者。

「……ずいぶんと待たせるのね」

 彼女は微笑んだ。

 ノアという仮の姿を見ても、彼女だけは騙せないらしい。魂に刻まれた因縁は、姿形を変えた程度では誤魔化せないのだ。

「住所不定の聖女様を探すのに、十年もかかったんだ。……褒めてほしいくらいだぞ、フローラ」

 ノアは肩をすくめ、憎まれ口を叩くことで、あふれ出しそうな恋心を必死に抑え込んだ。

「ふふ。久しぶりね、アビス……いえ、今は『ノア』と呼ぶべきかしら?」

「好きに呼べ。……どうせ俺の全ては、とうの昔にお前に奪われている」

 それは降伏宣言であり、不器用すぎる愛の告白だった。

 世界で一番憎かった相手。そして今、世界で一番愛しい相手。

 元魔王と元聖女。二人の秘密の恋が、この花園で幕を開ける。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ