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⑩エピローグ


 ……とんでもないものを、見てしまった。



 衝撃を受けた一万人の観客は、声を失った。


 誰一人、身動きが取れないでいる。



 やがて一人の観客が、思い出したように拍手を送る。


 それが合図になった。


 怒涛のように、温かい拍手が沸き起こった。



 鳴り止まない、拍手と歓声。


 美月はもちろん、美月の家族も、陸の家族も、皆が涙を流し拍手を送った。



 福田もだ。


 陸の後ろ姿を見つめながら、拍手を送る。




 ステージ全体が明るくなると、後方にある大きなビジョンに、陸の顔が映し出された。


 陸は「ありがとうございました!」と言って、一礼をした。



 より一層、拍手が大きくなる。

 

 ここで、大型ビジョンは一人の女性を映し出した。


 それを見て、美月は目を剥いて驚いた。



 大型ビジョンに映ったのは、自分の顔だったのだ。


 思わず両手で口元を押さえ、戸惑った。



 陸は、ステージの上から美月を探した。


 照明スタッフが、美月を確認出来るよう、客席側を明るくしてくれた。


 陸は、最前列にいた美月に気付く。


 ステージに上がっておいで、と言うように、そっと手を差し伸べた。




 すると、スタッフ達がステージへと登る、スロープを用意した。


 緩やかに傾斜した道が、掛けられたのだ。


 車椅子で上がるための物だ。



 美月の母は、美月の耳元に顔を寄せた。


「……美月、行く?」


 戸惑っていた美月だが、ステージにいる陸の顔を見て、決心した。


 コクリと頷く。



 美月の母は、車椅子を押した。


 そして、スロープの手前まで来た時、美月は母を見上げて首を振った。


「どうしたの? 行かないの?」


 美月は深呼吸して言った。





「私、自分の足で歩く……」





 美月は立ち上がった。


 そして一歩二歩と、歩き始めた。



 これには、陸はもちろん観客も驚いた。


 母は、美月が転ばないように、背中に手を添えた。

 

 実は、陸のいない一年間、彼女は脚を手術し、リハビリに専念していたのだ。


 今では、ゆっくりだが、歩行が出来るまで回復していた。



「お姉ちゃん、頑張って!」


 美月の妹、美羽が叫んだ。


 やがて客席からも、美月を応援する声が飛び交った。


 沢山の声援を受けながら、美月は慎重に歩を進めた。



 陸のいるステージ上まで、あと少し。


 お互いが手を伸ばす。


 その光景が、ビジョンに映し出された。



 やがて美月の手が、陸の手を掴んだ。


 二人はステージの上で、熱い抱擁を交わす。




 会場からは、割れんばかりの拍手が巻き起こった。


 カメラマンは、抱きしめ合う二人の周りを、グルグルと回った。


 大型ビジョンには、360度の二人の抱擁を映し出す。


 まるで、映画のラストシーンようだった。





「おかえり、陸ぐぅん……グスッ」


「ただいま」と陸。


「ビックリしたよ。陸君の歌……感動した……」


「ありがとう。僕もビックリしたよ。美月ちゃん、歩けるようになったんだね……」



「うん。陸君がアメリカで頑張ってるから……私もリハビリして、頑張りたかったの……グスッ」


 陸は微笑みながら、美月の涙を、手で拭ってあげた。



 ここで、ふと美月は意味深な顔をした。


 涙で赤く腫れた目を、陸に向ける。


「私……実は……ずっと謝りたかった事があるの」


「え?」



「私、嘘ついてた……。小学生の頃にした陸君との約束……路上ライブ始めたら、私がファン第一号って話……。私、忘れたって言ったけど、あれは嘘……。あの時は照れちゃって、あんな事を言ったの……」


「……そうなんだ……」


 陸は安心したように、穏やかな笑みを浮かべた。



「本当は覚えてる。昨日の事のように、ちゃんと覚えてる……。秘密基地にしていた、あの廃車置き場だよね。錆びた車の上で話したよね……」


「美月ちゃん……」


「あの時、陸君が着ていた服も、一緒に食べたお菓子も、古木アキナの曲を一緒に聴いた事も、帰る時に見上げた月も……全部、全部、全部……覚えてるよぅぅぅ!」



 また美月の目から、大量の涙が溢れ出した。


「うん……僕も全部、覚えてるよ……」


 陸は、優しく美月の頭を撫でた。





 やがて二人は、鳴り止まない拍手を送る客席を見渡した。


 ほどなくして、照明が次々に消えて暗くなる。


 ふと美月は、何かに気付いた。



「見て、陸君。月だよ。月が見える」


 美月の指差す方へ、陸も顔を向ける。



 スポットライトが一つだけ、二人を照らしていた。


 それは、徐々に光を弱くし、黄色い満月のように見えた。





 ——その時。


 どこからともなく、懐かしい風が吹き抜けた。


 ふわりと広がる、美月の黒髪。


 キラキラと揺れる眼差し。



 陸は、その手をそっと握った。







おわり


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