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神の眠る島  作者: 蒼開襟
1/6

ep1

 ロケットは随分と長く飛んでいた。

 位置情報が分からないようにとのことで周回をぐるぐると続けている。乗客の何割かは青ざめた顔でシートにもたれこんでいた。

 ロケットの窓からは何も見えない。シールドが張られていて到着するまでお楽しみといわんばかりだ。

 ちなみにこのロケットに乗っているのは数十人ほど。


 WaX7a01N0xx4i//ma、この島はそう呼ばれている。

 随分前からレッドリストに指定されており、世界保健機関だけが立ち入ることを許可されている、希少種が揃う島なのだ。捕まえれば億万長者も夢じゃない、そんな触れ込みが雑誌で躍っていたが実際は誰も真実など知らないし世界保健機関の人間も漏らすことはない。

 惑星シティから未開の地へ。

 ロケットが空港に到着して乗客はふらふらとした足取りで島に降り立った。小さな鞄を片手に世界保健機関検査官の隣を素通りする。

 カウンターにてIDを差し出すと空港検査官が顔を上げた。

「あら?珍しい……観光客なんて」

「……ええ」

 検査官の男は目の前に立つ男に小さなプレートを掲げるとボタンを押した。生体認証での本人確認、危険物所持などがそれ一つで出来る。数秒だ。

「登録ID95TWXX……名前はシユラ」

「ええ」

「滞在はどれくらい?」

「二ヶ月ほど」

 シユラはサングラスをずらして検査官に微笑みかける。シユラの青い瞳が検査官を捉えると彼は顔を赤く染めて俯いた。

「あ、……ええと、この星では住人以外は移動がタクシーになっています。あなたのためにリムジンが用意されていますので空港出ましたら右手に折れて乗り場へ。ホテルには連絡済みです。何かご質問は?」

「いいえ、ありがとう」

 カウンターを離れて乗り場へ向かう。空港は他の島と遜色のない美しい物でただ違うのは人がいないということ。シユラは自分の靴音だけを聞きながら周りを見渡した。



 リムジンに乗り込み車が走り出す。自動運転の車はゆっくりと車の群れに入る。

 高速は車が走ってはいるが中に人の気配はない。観光客を迎える準備だけは万端というようだ。

 シユラはシートにもたれると鞄から端末を取り出した。メッセージを打ち込み送信するとすぐに返事が来た。


 無事に到着したようでよかった。さっきカイルに伝えたところようやく顔色が良くなった。


 シユラはフッと笑うとメッセージを打ち込む。


 お母さんに心配かけてごめんなさいって伝えておいて。それと話していたデータを送ってくれる?忘れて来ちゃったんだ。


 端末が点滅すると、了解 の文字がポンと浮かびあがった。

 電源を落として鞄に突っ込むと顔にかかった髪を両手でかきあげた。青白い肌に薄い色の長い髪が耳元で揺れる。視線を窓の外へ向けると丁度高速を降りて町へ向かうところだった。

 惑星シティとは違い、古い木造の家がずらりと並んでいる。道路は舗装されておらず砂利が敷いてある、並木道には大きな木が続いている。シユラは見たことがない風景だと思った。そして聞いていたとおりだとも思った。

 この島は大昔に滅びたと言い伝えられていた。木や草で出来た家に妖精が暮らしているという。彼らはヴィーガンであり全てに神が宿ると信じているという話もある。けれどもう存在しない島なのだから、殆どは誰かの妄想で作られた夢物語のようなものだと思われていた。

 島が実在すると報じられたのはレッドリストに入ったからだ。世界保健機関が封鎖をし、外からの遮断を決めた。実際、噂だとこの島では政治などその他もろもろが存在しないらしい。殆どの情報が噂話程度ではあるが。


 ホテルに着くと鞄を置いて端末を開く。データが転送されたらしくアイコンが光っていた。

 データファイルを開く。綺麗に整えられたテキストと写真データが並んでいる。

 そのうちのテキストには名前がなく開いてみると伝言があった。


 写真を撮ってくるように。シヴァ


 シユラがこの島へ来た理由の一つでもある。

 父シヴァは多くのコネクションを持つ。その中で世界保健機関のパトロンをやっている富豪がいるらしく、本人が行くつもりであったが体調を崩してドクターストップ。シヴァへ打診があったが生憎手が空かないと本人が言い、ではシユラならいいだろうと決定された。

 シユラ自身は富豪との面識はないが、毎年バースデイに贈られてくる恐ろしいほどの薔薇の花からあまり良い印象は持っていない。

 シユラに任されたのは写真だ。実際はカメラマンの父が出向いたほうが問題ないのだが母との時間を潰されるのは本望でないらしい。母と二人ならと希望を出したものの一人という枠しかなく、なら必要ないと蹴ろうとしていた。

 レッドリストに入るような場所への旅行など喉から手が出るほどのものだろうに。


 さて、と端末にあるデータを確かめて依頼されているものを確認する。それを頭に収めてから小さな鞄にカメラを入れるとホテルを出た。さっき乗ってきたリムジンがシユラ専用だとホテルマンに告げられて渋々乗り込んだ。

 シティとは違いこの島の風景は目に優しい。緑が多く、情報では季節になると大きな木にピンクの花が咲くのだという。データベースの写真はデジタルで色が付けられていて味気がない。けれどそれを見るには季節が違うらしい。

 リムジンはゆっくりとシユラが希望した場所へと向かっていた。

 神が宿ると言われている宗教施設。木造で美しい建物だ。赤い鳥居と呼ばれるものが立てられており、周りは森に囲まれている。

 足元は砂利だ。リムジンを降りるとアングルの良い場所を探して撮影を開始した。

 デジタルカメラに収めていくその風景に、くんと柔らかな匂いが風に乗ってくる。

 あらかた写真に収めるとカメラを鞄に押し込んだ。


 この施設には人の気配はない。リムジンからは無人であるとランプがついているので車に戻るようには催促はない。この島はレッドリストに入っているために住人との接触はまだ避けられている。そのため無人であるリムジンにはセンサーが搭載されており、人の気配を察知すると乗客の安全を守るためにサインが送られる。

 とはいえ、この島に来るのは世界保健機関の人間ばかりだから、こればかりはシユラ自身に委ねられている。シユラは砂利の音を確かめながら施設の裏へ回り込んだ。暗がりに石が綺麗に積まれている。触れないようにしてその隣を行くと、木々の間から何かの視線を感じてそちらに目を向けた。

 暗がりの森の中、白い民族衣装を着た女が一人こちらを見つめている。人がいればリムジンがサインを出すはずだが聞こえる様子はない。

 人ではないのか?とシユラは踵を返して車の方へと歩き出した。

 人ではないものはシティにもいる。シユラもまた人ではない。人のフリをした化け物である。

 もう一度振り返るとそこには何もなかった。



 次の場所へ向かう道中、リムジンの窓から見えた集落に人の姿があった。子供のような背丈で顔つきは優しげに見えた。そういえばこの妖精の末裔たちがシティにも少しはいると聞いた。もう血は混ざって姿形は変わってはいるが、雰囲気は穏やかである。小さい頃からかかっている医者によると、この妖精族は少し臆病な面があるらしい。何故らしいかと言えば、混ざり合っているからが正しい答えのようだ。

 リムジンが止まり、次もまた宗教施設。墓地だ。直接写真を撮るのは躊躇われるため、少し離れた場所から施設を撮影する。綺麗に整えられた場所に文字の書かれた石が置かれており、花が手向けられている。シティにはもうこうした施設が存在しない。シユラも見るのは初めてだった。

 見晴らしの良い場所にそれは並んでいる。気持ちの良い風が吹き込んで、ここにそれがあることに優しさが感じられた。とても不思議な気持ちだ。

 それからいくつか施設を回り写真を撮る。陽が傾いてくるとホテルへと戻った。



 ホテルのムームサービスでワインを貰う、特に食事をする必要がないのでグラスを傾けつつ、端末から報告を打ち込んだ。シャワーを浴びた後だったため、濡れた髪をタオルを拭きつつデジタルカメラにコードを差し込んで端末にデータを送る。

 センサーでも送れるがシユラはこうした無駄な作業が好きだったりする。

 小さくハミングをしながら転送を行うと端末にメッセージが届いた。


 楽しそうで良かった。 カイル


 母からのメッセージは簡潔で彼女がどんな顔をして打ち込んだのかすぐに分かった。端末ではカメラアプリからビデオ電話も可能だが、それをすると話が長くなってしまうからお互いに使うことがない。

 もう一つメッセージが届くとデータも送られていた。明日の予定と、世界保健機関からの連絡だ。会う必要があるらしく時間等の指定はないがリムジンを寄越すとある。

 シユラは、了解。と呟いて端末を閉じるとテーブルに放り出した。グラスを傾けつつベットに座ると頭にかかったタオルで髪を拭いた。


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