群れの狩り
森を揺るがす咆哮と共に戦いが始まる。
猪獣人――猪牙が谷の斜面を蹴り、牙を突き出して突進。
巨岩をも粉砕する衝撃波が谷の木々を揺らす。
木々が一瞬でなぎ倒され、破片が雨のように散る。ナナイは辛うじて幹に飛び乗り、枝を踏みしめながら跳躍。しかし直後、森を裂く影が横から迫った。
熊獣人――大熊が森の奥から斜面を滑るように襲いかかる。丸太より太い腕が大地を叩き、大地が抉れて土砂が舞い上がる。
「速い……ただの巨体じゃない!」
ナナイは幹に身を投げ、枝に体を押し付けて回避。両手の短剣を握り直す。二体の動きは重く鈍そうに見えるが、噛み合えば隙はない。
銀狼ヴァルドが跳躍で土煙を切り裂き、横を駆け抜けた。
「気をつけて、ナナイ! やつらは偶然で動いてるんじゃない!群れなんだ!」
「群れ……?」
「獣人同士は視線ひとつ、呼吸ひとつで意思が通じる。匂いの変化も読み取れる。だから動きが噛み合う! 一体をかわしても、もう一体が必ず待ち伏せている!」
ナナイの背筋を冷たいものが走る。人間には到底できない連携。
「……群れの狩りか」
「そうだ。だからこそ……俺たちも群れだ!」
ヴァルドが左右に跳び回り、意図的に猪牙と大熊の視界に入り込む。二体が本能的に反応した瞬間、ヴァルドの背後から短剣二刀を構え、谷間の木々を踏み台にして跳躍。
猪牙が牙を突き出し、一直線に迫る。
ナナイはその腹下に滑り込み、硬い毛皮の隙間に短剣を突き立てる――。
鮮血とともに赤黒く染まる足元。獣の悲鳴が森を震わせる。
大熊が腕を振り回す。ヴァルドが突進して注意を引きつける間、大熊の振るう腕の軌道を読んで跳躍し、木の幹を蹴り、逆手で腕を斬り裂く。
「ぐぉおおっ!」
大熊の右腕が宙を舞い、血が谷の木々に飛び散る。
巨体がよろめき、やがて森を赤く染めながら二体は地に沈む。
「……はぁ……はぁ……」
ナナイは肩で息をする。短剣は血で真っ赤に染まっている。
ヴァルドは銀狼の姿で立ち止まり、牙を光らせた。
「ナナイ、群れってのも……悪くないだろ」
谷間に漂う血の匂い、揺れる木々、跳ねる土煙
戦場は静かに、二人の勝利を受け入れるかのように沈黙した。




