追跡の谷
谷道を疾走する地竜の蹄が森の木々に振動を響かせる。銀狼と化したヴァルドが隣を並走し、荒い息を吐きながらも速度を緩めない。
「何者なんだ!」
ナナイは後方を振り返るが、霧に包まれた森に敵影は見えない。
「ヴァルド! 確かなんだな⁈ あとどれくらい迫ってる⁈」
ライラが地竜を駆り、焦燥を振り切るように叫ぶ。
「後方一キロ……奴ら、地形に慣れてる! 地竜一体、獣人二体! 速い、もうすぐ追いつかれる!いや、先回りされる!」
ヴァルドは嗅覚で空気に混じる鉄錆の匂いまで感知し、敵の形を正確に予測した。
――回り込まれた!
ライラの胸に、幼き日の記憶が鮮烈に蘇る。燃え盛る炎、血に濡れた両親、崩れ落ちる商団。そしてその先に立つ、光のない目をした大男。
「……あいつ……」
声は喉の奥でかすれ、震えた。
森の出口で待ち構えていたのは、悪名高き首領――“血爪のブラド”。浅黒い肌、趣味の悪い金歯、鎖帷子に貼り付けた金の装飾。背筋には獣のような鋭さが宿る。腰には異様に長い鎖鎌、大剣を背負った巨躯。
その側には二つの影――猪の獣人と熊の獣人。どちらも獣化すればヴァルド以上の巨躯へ変貌するだろう。
「追いついたぜぇ…、てめぇら、よくも手下どもをやってくれたなぁ…」
ブラドの血走った狂気の目が、ナナイ達を見下ろす。
「……私は、貴様を、知っている……!」
ライラが告げる。
ブラドは下品に笑った。
「ほぉう? 知らねぇなぁ。だが…お前も俺に用があるんだな?そんな目をしてるぜぇ!」
ブラドはライラの体を舐め回すように視線を揺らす。
「猪牙!大熊!先にお前ら、そこの二人を片付けとけ」
ブラドは長い腕を上げ、手下の獣人に指示をだした。




