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銀狼ヴァルド

 谷道に静寂せいじゃくが戻る。五十人はいるだろう倒れた山賊たちの間を、ナナイとライラ、そして銀髪の青年――ヴァルド――が見渡す。


「……僕、ヴァルド。あの……ありがとう…」

 青年は少し恥ずかしそうに頭をく。銀色の髪から覗く狼の耳がぴくりと動く。ナナイは短剣をさやに納め、ライラは戦斧せんぷを背に戻した。


「僕は、昨日、山賊に入ったばかりで……でも、あんなやり方は、どうしても耐えられなくて」


 ヴァルドの声は後悔をはらみ、瞳の奥には孤独の影が潜んでいる。


「僕、家族と一緒に森で暮らしてた。両親と三人で。でも……父さん、母さん…二人とも化物に襲われて……黒い斑点はんてん病にかかって、あっと言う間に死んじまった…僕、一人になっちゃって…」


 ナナイは無言で青年の話を聞く。ライラも、焚き火の光に揺れるヴァルドの銀髪を見つめ、過去の哀しみを感じ取った。


「……それで、山賊に入ったのか?」ナナイが尋ねる。


「寂しくて……誰でもいい、誰かと一緒にいたくて。昨日、この谷でたまたま奴らを見かけて…。悪い匂いしてたのに…。あんなひどい奴らだとは思わなかった。さっきの件で……僕、もう、我慢できなかった」


 ヴァルドの瞳には、真っ直ぐな意志と、まだ少年らしい不安が混ざる。


「君たちは良い匂いがする。僕も仲間にしてくれないか?  旅をしてるなら、きっと役に立てる!」


 ライラは軽く眉を寄せ、鞭を手に構えながらも、微かに笑みを浮かべる。

「……あんた、面白そうな奴ね。悪い奴では無さそうだし。でも、地竜に二人は乗せられないよ。」

ヴァルドはブルッと震えたかと思うと、巨大な銀狼ぎんろうへと姿を変えた。

「心配ないよ。獣化じゅうかすれば竜の脚より速いよ!」


「頼もしいな。分かった、ヴァルド。よろしくな」

ナナイはヴァルドの鼻筋を軽く撫でた。

 ヴァルドは嬉しそうに頷く。銀の耳がぴんと立ち、口元には自然と笑みが浮かんだ。


 ナナイは短剣を握り直し、心の中で決意を固める。新たな仲間、そして新たな力を得た旅路は、まだ始まったばかりだ――。


-----


 山岳地帯の細い谷道を、ナナイとライラは地竜ちりゅうの背に身を預け、ゆったりと進む。

 その脇を、巨大な銀色の狼――ヴァルドが四つ脚で駆ける。筋肉が盛り上がり、長い尾がバランスを取りながら揺れるたび、岩肌の上に軽やかな振動が伝わる。


「……ヴァルド、獣化じゅうかしても普通に喋れるんだな」ナナイが地竜の背から声をかける。


「うん。言葉を使わないと、ナナイやライラと戦術の連携ができないからね。獣人同士なら言葉もいらないけど」ヴァルドの声は、四つ脚の体から響く低く落ち着いた響きに変わっていた。


ライラが小さく笑う。

「でも、格好いいわね……そのまま走ってる姿も、ただの狼とは違う」


ヴァルドは尾をふわりと揺らし、軽く鼻先を空に向けた。

「力だけじゃない。筋力も、反応も、全て三倍くらいになる。見た目にも変化が出るし、感覚も鋭くなる。匂い、音、風の動き……君たちの五感じゃ捉えられない情報も僕なら感じられる」


「それって、戦闘だけでなく、移動でも便利だな」ナナイが地竜の背でうなずく。


「そうだね。だけど、制御できないと自分の意思が狂いやすいんだ。だから普段は半分だけ力を使ってる」ヴァルドは前肢ぜんしの爪を軽く地面に擦りつけ、疾走する勢いを確かめるように動かした。


「獣化してても意思はしっかりしてるんだ。理性を失ったりすることはないのか?」ライラがたずねる。


「……ああ。でも、強い力を求めすぎると、制御出来なくなり、やりすぎることもある。だから僕は限界を自分でコントロールしてる」ヴァルドは銀色の頭を軽く揺らす。

「ナナイ、君の短剣と僕の爪、連携したら面白そうだね」


ナナイは笑みを浮かべ、腰の短剣を握り直した。

「……たしかに!面白そう、だな。ちょっと試してみるか」


 谷間の風に銀の毛並みが揺れる。地竜のひづめが岩を蹴り、四つ脚の銀狼が疾走する。三者三様の力が、この険しい山岳を貫く風に溶け込む。


「……でも、言葉を話せるおかげで、連携の幅は広がるな」ライラがうなずく。

「戦うだけじゃなく、移動も、情報収集も……この旅には心強い仲間だ」


 ヴァルドは軽く吠え、尾を振る。銀の瞳が二人を見据えるその視線に、信頼の光が宿っていた。

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