遭遇
山岳地帯の細い谷道を進むナナイとライラ。昼下がりの光が岩肌を照らす中、森のざわめきが二人の耳に届いた。
「……あれは山賊か?」ナナイの声に、ライラは軽く頷き、戦斧の柄を握り直した。背筋が自然と伸びる。
――この場所は……まさか。
茂みを抜けると、緩い隊列を組んだ数名の山賊が現れた。
「よぉ、よぉ、可愛いお姉さんと、小さいお兄さん。死にたくなけりゃあ、地竜と荷物を置いていきな」
「馬鹿なことを、お前らこそ死にたくなけりゃさっさと消えろ!」ライラの声が谷間に低く響いた。
その時、反対側の谷道の奥から現れたのは、見覚えのある三人組だった。アマミ村で悪童と呼ばれたマスタル、取り巻きのフーデスとローデスだ。下卑た笑みを浮かべ、ライラの美貌に釘付けになっている。
「おい、大人しく、こっちについて来い。」マスタルの声は、陽炎のように揺れた。
「マスタル……堕ちたな!」ナナイが鋭く睨む。
ナナイの姿を認めるや、マスタルはヒィッと情けない声をあげ、後ろに跳び下がる。
「情けねー声をあげるんじゃねえ!」先輩格の山賊が罵倒する。
「違うんです!あいつは……やべえ奴なんです!気をつけてくだせえ!」マスタルは必死に弁解した。
「先を急ぐ。さっさと道をあけろ。死にたくなければな」ライラの低く冷たい声が、風に乗って谷を抜ける。
山賊たちは品のない笑い声を上げ、挑発をやめる気配はない。
「丁度いい、昨日入った新人に腕試しをさせちゃおうぜ」一人の山賊が指を鳴らすと、前に立ったのは銀色の髪を持つ獣人の青年。ナナイと同年代ほどに見えるが、狼の耳を髪の間に覗かせる以外は、人間と変わらぬ姿だった。その瞳には警戒と冷静さが混ざる。
「まずは、あっちの綺麗なお嬢さんを羽交締めにしてでも連れて来い!あんまり傷はつけんなよ!お楽しみが減るからな!」山賊たちの下品な声が谷間に響く。
「ひょー!お頭が来る前にやっちまうかあ?」
ライラは鞭を握りしめ、怒りを抑えきれず力を込めた。
――その瞬間。
「ザクッ」
一瞬で獣人青年の爪が伸び、山賊の一人の首を斬り落とす。声を上げる暇もなく、血飛沫が谷道に飛んだ。
残る山賊たちの目が見開かれる。ナナイもライラも、予期せぬ一撃に息を飲む。銀髪の青年は静かに立ち、威圧や恐怖を微塵も感じさせない。凛とした存在感だけが谷間に漂った。
谷道に立ちすくむ山賊たち。首をはねられた仲間の血飛沫に、しばし沈黙が訪れる。
残る山賊たちは後ずさりし、混乱する。ナナイは腰の短剣を握り直し、ライラも鞭と戦斧の構えを整えた。
マスタルは恐怖で顔を歪め、取り巻きのフーデスとローデスも狼狽する。だが、他の山賊たちは怒りで顔を赤くし、声を張り上げる。
「ふざけやがって! さあ、かかれ!」
谷道はたちまち戦場となった。
ナナイの剣先が鋭く光り、ライラの戦斧が振り下ろされる。獣人青年はその間を縫うように動き、斬撃を交わすと同時に反撃を加える。動きはまるで影のように速く、山賊たちは混乱に陥る。
マスタルは必死に突進するも、ナナイの鋭い突きで剣を受け止められ、フーデスとローデスはライラの鞭に腕や脚を絡め取られる。痛みに叫ぶ二人の声が谷に響いた。
獣人青年が低く唸り、爪を一閃。残る山賊の一人が飛び上がりながらも、彼の爪の一撃で倒れる。
「――ゴミどもめ、お前ら全員、罪を悔いても地獄行きだ。」ライラの声が戦場に冷たく響き、鞭が空中で鋭く振られ、再びフーデスとローデスを翻弄する。
そしてナナイの剣が、悪童マスタルの胸元を貫いた。マスタルの目が驚きに見開かれ、口からは下卑た笑みすら出ず、谷間に静かに崩れ落ちる。
谷に、しばしの静寂が戻った。
戦いを終えた三人――ナナイ、ライラ、獣人の青年――は、互いに息を整えながら、谷の先へ視線を向けた。影と牙が交錯した遭遇は、旅の中で新たな絆と力を示す、試練の一幕となった。




