第一のボス
第九話です!
楽しんでください!
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あの敗北から地上時間3ヶ月が過ぎ、ついに私たちはヒュベル第一階層の階層ボスに挑戦する。
目の前に広がるのは、見渡す限りの湿地帯。
ぬかるむ地面に足を取られるたび、じわりと靴底から冷たい感触が染み上がってくる。
靄が漂い、どこからともなく水音が響き、気配を掴むのも難しい。
「……気味が悪い場所だな。」
斧幸を担ぎながらルシアンが眉をひそめる。
「気を抜かないで。ここが第一階層のボス領域。もう出てくるはずよ。」
ユキちゃんが冷静に言う。吐く息が白く凍り、湿った空気の中で鮮明に浮かんだ。
――その瞬間だった。
泥沼がぶくぶくと泡立ち、ぬかるみの奥から巨大な影が突き出された。
泥沼の中から姿を現したそれは私が想像していた以上に“人に近い”ものだった。
全身を覆う泥は絶えず滴り落ち、形を保っているのが不思議なくらい。
大きく裂けた口の奥は赤黒く輝き、何かを飲み込むために開けられた深淵のように見えた。
そして手の泥から、じわりと浮かぶ“眼”。
赤い光が泥の奥でぎらつき、私たちをまっすぐ射抜いていた。
「……これが、マッドスワンプ。」
思わず息をのむ。
泥の巨体がゆっくりと両手を掲げた。
沼がうねり、そこからまた新たな腕が次々と伸びてくる。
泥の巨体が不気味に揺れ、ぬかるみ全体が共鳴するように震えた。
「スワンプ……」
その名を呟くと、胸の奥がざわめく。探索者の間では、最も有名な“第一の門番”。
ヒュベルを目指す者なら誰もが一度は通る相手とそう呼ばれてきた存在だ。
隊長各レベルならただの泥の怪物に過ぎないみたい。だが、そのレベルに至っていないとただの“泥”では片付けられないことがわかる。
「来るよ!」
ユキちゃんの声と同時に、足元から泥の手が無数に伸び上がった。
手首、足首、腰、狙うのは身体の自由を奪う場所ばかり。
「はあっ!」
私は刀を抜き放ち、迫る手を切り払う。だが切り落としたはずの泥はすぐに形を戻し、再び掴みかかってきた。
「バレット、援護を――」
「無理。」
短く、声が返ってきた。
バレットのゲシュッツから放たれた光弾は、泥沼に触れた瞬間、じゅっと音を立てて沈んでいった。
跳弾どころか、すべて吸い込まれてしまう。
「泥沼に……消されてる……跳弾は封じられた。火力で押すしかない。」
声に焦りはなかったが、その分状況の厳しさが突きつけられる。
スワンプは天井へと腕を伸ばし、そこからも泥の手がぶら下がるように襲いかかってきた。
床も、壁も、天井も――すべてが泥沼へと変わり果てていく。
「ユキちゃん!」
「……わかってる!」
ユキちゃんが冷気を放つと、床のぬかるみが一時的に凍りつき、私たちの足を解放する。
けれど氷もすぐに泥沼に飲み込まれ再び足場が沈んでいく。
「動きが鈍る……!」
ルシアンが斧幸を振り払い、泥の腕を叩き砕いた。だが次の瞬間、足首を掴まれ、膝まで引きずり込まれる。
「ルシアン!」
私は咄嗟に刀を振り抜き、絡みついた泥を断ち切った。
(動きを封じ、攻撃を飲み込み、空間ごと制圧する……これが第一階層のボス……!)
気づけば、私たちはいつの間にか、泥の海に囲まれていた。
どこを向いても伸びる無数の手。掴まれればそのまま底なしの泥に沈められる。
息を詰めるような緊張感が、喉を焼くように重くのしかかってきた。
沈みかけるたびにシルトを展開してもすぐに泥に沈められる。
この足場が最悪な状態で無数に再生する泥の手を掻い潜って本体にダメージを当てる。
中々ハードだけどやるしかない。
まずはどうやってマッドスワンプに近づくか?
そもそも有効な攻撃は?
私は今回の構成はダークと人工遺物ブレッシャー2にシルト1の構成。
遠距離攻撃は他に任せて斬撃の威力と範囲を上げる構成にしている。
ルシアンも同じ構成だ。
そのため遠距離はバレットとユキちゃんの2人
バレットの方は遺物の枷によって跳弾させないとダメージが出せない。
それなのに泥沼によって跳弾を封じられている。
となるとユキちゃんに頼るしかないけどユキちゃんの遺物でもあの泥の手を掻い潜って本体にダメージを与えるのは難しい。
となるとやっぱりバレットの跳弾狙撃がいる。
なら!
「ユキちゃん!天井の泥の手を一掃できる?」
「無理を言うね〜。了解〜。氷翼、展開!」
ユキちゃんの背中から氷の翼が生えてくる。
ユキちゃんの遺物氷羽雪晶は氷と雪を生み出して操る遺物である。
3ヶ月前は周りを凍らせて温度を下げてから氷や雪を操るというプロセスを踏んでいたが今は自分の体温を下げて氷羽と呼ばれる氷の羽を作ることに成功した。
これはユキちゃんは突然氷が空中から現れないというイメージがあったため、空中から氷を生み出すことはできなかった。そのため一度地面を凍らせてそこから氷を生み出していた。
しかし自分の体温を下げて凍りそうというイメージを作ることにより自分の身体から氷を生やすことに成功した。
自分から生えた氷からなら氷が出るとイメージできたユキちゃんはほぼ無尽蔵に氷を生み出せる。
何故羽の形にしたかそれは
「氷羽!」
無数の氷の羽が天井に向かって何本も発射する。
翼があるなら羽も多数ある。その羽を飛ばすことをイメージしやすくなったユキちゃんは遠距離攻撃の手段を手に入れた。
「シルト!バレット!これで跳弾できる?」
「っ!可能!」
「そういうことか、シルト!」
私とルシアンが両壁にシルトを張ったことにより泥沼に飲まれない壁ができた。
一瞬の間とは天井と両壁、3方向から泥の手を出現しない状態にすることによりシルトの壁を使いゲシュッツを跳弾してマッドスワンプを撃ち抜く。
マッドスワンプは身体が吹き飛んだことにより赤い核のようなものが露出する。
しかしそれはすぐに泥で覆われて隠されてしまう。
けどこれで攻略方法はわかった今のを繰り返せば…
『マッドショット』
マッドスワンプの巨体がぐらりと揺れた。
次の瞬間、全身の泥が一斉に膨張し。
「……撃ってきた!?」
無数の泥弾が音を立てて弾け飛んだ。轟音が湿地を揺らし、雨あられのように私たちへ降り注ぐ。
「来るっ!」
咄嗟に叫ぶ。
雨のように降り注ぐ無数の泥弾が、轟音を響かせて湿地帯を砕き、地面に深い穴を穿っていく。
「くっ……!」
ルシアンが斧を振り回し、弾丸を叩き落とす。
しかし叩き落としたそばから新しい弾が襲いかかり、防戦一方になっていた。
「ユキちゃん!」
「氷壁――!」
ユキちゃんの氷が前方に広がり、いくつもの弾を受け止める。だが次々と直撃する泥弾に、氷はみるみる削られていった。
「耐久が足りない……!」
「私が援護する。」
バレットが前に出る。
すぐにシルトを展開し、跳弾ルートを描いてゲシュッツを撃ち込む。だが、弾丸の嵐は止まらない。撃ち抜いても撃ち抜いても、泥の奥から新たな弾が湧き出すのだ。
私は歯を食いしばり、刀を構え直した。
ただ防いでいるだけでは、押し潰される。泥に沈められる。
冷たい汗が背筋を伝う。
「ルシアン、足を止めないで!」
「わかってる!」
「ユキちゃん、氷で軌道をずらして!」
「やってみる!」
「バレット、跳弾ルートを――」
「もう描いてる。」
天井からも、壁からも、床からも、泥の腕と弾丸が襲いかかる。
身を屈め、刀で切り払いながらも、じりじりと追い詰められていく感覚は拭えなかった。
「クソッ、前に出られねぇ……!」
ルシアンが低く唸る。
その声に、私も歯を食いしばった。
(足場を奪い、攻撃を飲み込み、空間ごと制圧する……! 第一階層から、これほど!)
マッドスワンプは沈黙のまま、ただ泥をうねら
せ続ける。
その存在が、圧そのものとなって私たちを飲み込もうとしていた。
泥弾の雨がようやく止んだ。
耳鳴りの残る静寂の中で、私は息を荒げながら周囲を見渡した。
「……っ……防げた……?」
地面にはいくつもの深い穴が刻まれ、あたりは無残に抉られている。
地面に穴?泥沼になっていたはずなのに?
私は目を細めた。
マッドスワンプの周囲を覆っていた泥の腕が、目に見えて減っている。
それどころか、本体を包む泥の厚みまで薄くなっていた。
ほんの一瞬、赤い光が奥でぎらりと輝いた気がした。
しかし周りの泥を吸収してもとに戻っている。
完全回復までの時間はわずか3秒。
心臓が跳ねる。
あの核が弱点なのは確定だろう。
問題はどうやって核を攻撃するのか。
防ぐだけでも命がけ……そして防ぎ切った上で、わずか3秒で核に斬り込まなきゃならない……!
「ユキ、次あの泥の弾が来たら周りにツララを降らせてほしい。」
「ユキちゃんって呼んでね。バレットちゃんが僕にお願いするのは珍しいから今回だけは許してあげる。了解。」
「ミノリ申し訳ないがあの泥の弾の発射が終わった瞬間、シルトを地面に展開してほしい。核の周りに残った泥は俺が一掃する。そしたらミノリが核を斬れ。」
「了解!」
そうだ、私には仲間がいるのだから1人だけで考えなくていいんだ。
私達4人ならいける。
そう、くさいことを考えて少し恥ずかしくなるが気持ちを落ち着かせる。
マッドスワンプの巨体がまた震えた。
泥がうねり、膨張する。
「来るぞ!」
次の瞬間、轟音とともに無数の泥弾が空を埋め尽くした。
視界のすべてが黒く覆われる。
「氷壁ッ!」
ユキちゃんの声が響く。前方に氷の壁が立ち上がり、雨のように降り注ぐ泥弾を受け止めた。
だが今回はそれだけじゃない。
「ツララ落とし!」
ユキちゃんの氷翼がきらめき、無数の氷の羽が天井に向かって発射される。そして天井から無数のツララとなって落ちてくる。
バレットが即座にゲシュッツを放つ。
エネルギー弾は落ちゆくツララへと吸い込まれ、そこから次々と跳弾しながら泥弾を撃ち抜いていく。
泥が爆ぜ、轟音が連鎖して広がった。
私も刀を弓へと変えた。落ちてきたツララを掴み取り、矢の代わりに番えた。
弦を引き絞り、放つ。
氷の矢は鋭い光を帯び、泥弾の群れを正確に撃ち抜いていった。
跳弾と氷の連撃により、泥弾の嵐が少しずつ削られていく。
「流石に2個同時操作はきついっ…」
氷壁が軋む。だがその前に、ルシアンが叫んだ。
「任せろッ! シルト展開!」
足元から淡い光が走り、透明な壁が広がった。
シルトが氷壁を補強するように並び立ち、耐久を跳ね上げる。
「これで持つ……ッ!」
氷と光の防壁、跳弾と氷矢の雨。
四人の攻撃と防御が絡み合い、泥弾の嵐がついに相殺されていく。
爆風のあとに残ったのは、穿たれた湿地と――
再び泥を削られたマッドスワンプの巨体だった。
赤い光がちらりと覗く。
「……見えた!」
心臓が大きく跳ねる。
核が露出したのは、ほんの一瞬――3秒。
その隙を突く!
「シルト――展開!」
私が叫ぶと同時に、足元から光が奔る。
ぬかるむ泥を押しのけて、一直線にマッドスワンプへ続く道が現れた。
沈むことのない光の足場。これなら!
「ルシアン!」
「ああ、任せろ!」
ルシアンが斧幸を肩に担ぎ、全身に力を込める。
その刃から、ぞわりと禍々しい気配が立ち上がった。
三か月に及ぶ修行の末、ルシアンは不運を力へと変換する術を身につけた。
斧幸によって引き起こされる日常での理不尽や事故、あらゆる不運を斧に蓄え、それを解き放つとき蓄積された“不運”は一気に放出される。
その一撃は、もはや「斬撃」というより「災厄の解放」だ。
「《厄災風斬》ッ!」
ルシアンが振り下ろした瞬間、爆発的な風圧が走る。
振り抜いただけで大気が裂け、湿地の地形ごとえぐり飛ばした。
建物を壊すどころか、大地そのものが悲鳴を上げるような衝撃。
直撃を受けたマッドスワンプの巨体から、泥が一気に吹き飛んだ。
分厚く覆っていた外殻が完全に剥がれ落ち、奥で禍々しく輝く赤い核が露出する。
「見えた!」
だがその直後、ルシアンが風圧で飛んできた泥に足を取られて転倒する。
溜め込んだ不運が、反動のように牙を剥く。
「ぐっ……!」
足場を失い、ルシアンの体は泥へと沈んでいった。
「ルシアン!」
咄嗟に叫ぶ。
けれど迷っている暇はない。
私は弓を即座に刀へ戻し、入団試験で手に入れた遺物を起動させる。
「アクセル――発動!」
ブーツに刻まれた紋様が光を放つ。
次の瞬間、視界が引き裂かれるほどの加速が全身を襲った。
一歩、地を蹴る。
その瞬間、マッドスワンプとの距離が一気に消し飛んだ。
一秒もかからない。
私の体は核の目前へ到達していた。
「――ッ!」
呼吸すら置き去りに、刀を振る。
脳裏をよぎるのは、訓練で叩き込まれた無数の型。
私は迷わず、袈裟斬りを選んだ。
振り下ろす。
斜めに裂かれた軌跡は核を正確に捕らえ。
鋭い音とともに、マッドスワンプの核は二つに断ち割られた。
巨体が痙攣し、泥が一気に崩壊していく。
轟音を立てて崩れ落ちる巨躯の中、勝利の確信が胸を突き抜けた。
「……っ、やった……!」
そのとき
「ルシアン!」
ユキちゃんが叫び、氷の翼を広げた。
翼から瞬時に氷の棒を作り出し、沈みかけるルシアンへと差し出す。
「掴んで!」
ルシアンがその棒を掴んだのだろう。
氷の軋む音と共に、彼の体はずるずると引き上げられていった。
泥はすでにただの湿地へと戻りつつある。
そこにあるのは、ヒュベル第二階層への階段と宝箱だった。
私たちは勝ったのだ。
私達は勝利を噛み締めて二層へと続く階段へと向かう
最後まで読んで頂きありがとうございました!
これにて目には目を、歯には歯を、能力には、能力をの第一章完結です!
次回からは第二章がスタートします!是非ご覧ください!
次回の更新も明日です!




