氷の試練
第11話です
是非楽しんでください!
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第二階層、第一の試練突破。
その先に待つ第二の試練へと、道は開かれたのだった。
準備を整え、再び第二階層の扉をくぐった。
全身を切り裂くような冷気。
肺の奥に突き刺さる空気も、視界を覆う白銀も、前回来たときと何一つ変わっていない。
だが、今は心構えが違う。
「……行くぞ。」
ルシアンの低い声に、全員がうなずいた。
回廊を抜けた先に広がったのは、ひときわ広い氷の間だった。
床は鏡のように滑らかに凍りつき、壁際には氷柱が林立している。
その中心に異形が複数体立っていた。
氷で形作られた獣。
狼とも虎ともつかない、鋭い牙をむき出しにしてこちらを睨みつけている。
その体表を走る亀裂の中からは、青白い光が脈打つように漏れ出していた。
「……ガーディアンか。」
バレットが呟き、ゲシュッツをすぐに発射できるように構える。
次の瞬間、氷の獣が咆哮を放った。
凍てついた空気が震え、私の全身を貫く。
「来る!」
私は刀を握り直し、呼吸を整えた。
ルシアンが前に出て斧幸を構える。
ユキちゃんは氷翼を展開して構える。
メノウの姐さんは楽しそうに微笑んだまま、後ろで回復の準備をしている。
氷の迷宮の最初の試練が、今、幕を開けた。
私は刀を握りしめ、冷気に負けじと身構える。
その瞬間、ユキちゃんがふわりと息を吐いた。
白い吐息と共に、背から氷の羽根が生え広がる。淡い蒼光を帯びた羽根は、冷気の中で燐光のように輝いた。
「《氷羽雪晶》……氷翼!」
ユキちゃんが手を払うと、十数枚の羽根が弾丸のように前方へ射出された。
鋭い氷刃が氷の獣の脚を裂き、氷床に突き刺さる。
その横で、ルシアンが大斧を振りかぶる。
「こいつらは今後のことを考えてできる限り《斧幸》の力を節約して通りたいな。」
鈍い唸りを上げながら、斧は氷狼の肩を粉砕した。
私は刀を握る手に力を込める。
《ブレッシャー》、発動。
精一杯振り抜く。
氷の獣の前脚へ斬撃を叩き込むと、氷が火花のように砕け散る。
「よしっ……!」
その頭上に、赤い閃光が跳ね返りながら迫った。
「計算完了。発射。」
バレットのゲシュッツが、壁や氷柱をリズミカルに跳弾し、飛びかかって来た氷の獣の側頭部を撃ち抜いた。
氷の獣は崩れたはずだった。
砕け散った氷片は床に散らばり、淡く光を散らしながら溶けもせず転がっている。
だが。
「……おい、見ろ」
ルシアンが低く呻いた。
床に散った氷片が、勝手に蠢いていた。
カタカタと震えながら集まり、再び獣の形を取っていく。
狼のはずだった輪郭は、みるみるうちに歪んだ。
脚は太くなり、背中は盛り上がり、爪が鋭く伸びていく。
「……熊?」
そう呟いた瞬間、さらに後方の氷柱が割れ、別の氷の獣が這い出してきた。
それは虎のようにしなやかな胴体を持ち、氷の尾を地面に叩きつける。
「待って! さっきより数……増えてるっ!」
私が声を上げたと同時に、ユキちゃんの氷羽が再び閃いた。
「氷羽!」
射出された羽根が熊の前脚を撃ち砕き、虎の尾を裂く。
だがその断面からはまたも青白い光が溢れ、氷片が再生するように増殖していった。
「……数を減らせないのか」
ルシアンの額に汗が浮かぶ。
氷狼、氷熊、氷虎、姿を変えた獣たちが三方向から同時に迫ってくる。
氷の床は獣の重さで軋み、足場すら危うくなる。
「シッ……!」
私は思わず刀を振り上げ、飛びかかってきた虎の顎を受け止めた。
重い。氷だけでできてるとは思えない、獣そのものの質量と圧力。
「ミノリ・テンドウ。」
バレットの跳弾が割り込み、虎の頭を弾き飛ばす。
だがまた、砕けた氷が寄り集まって別の形を作り始めている。
「もうしつこい!?」
ユキちゃんが眉を寄せ、周囲に氷壁を展開する。
だが熊型の獣が大きな前脚を振り下ろし、氷壁ごと床に亀裂を走らせた。
その光景を見て、メノウの姐さんが口元に手を当てて、微笑を浮かべたままぽつり。
「ふふ……なんや、だんだん賑やかになってきましたなぁ……」
彼女の声が、場の緊張を研ぎ澄ませていく。
氷の獣たちは、倒しても倒しても増えていく。
剣で斬り、斧で砕き、羽で貫いても……その氷片はまた蠢き、異形へと姿を変えていった。
「埒があかねぇ……!」
ルシアンが舌打ちをし、斧を構え直す。
そのとき、ユキちゃんがふいに足を止め、きょろきょろと視線を巡らせた。
その瞳は淡く光り、氷の間に流れる何かを追っているようだった。
「……ん〜。あれかな〜?」
ユキちゃんがぽつりと呟く。
「ユキちゃん?」
私が振り返ると、ユキちゃんはゆっくり瞬きをしてから、柔らかく言った。
「この子たちね〜……倒したら一瞬だけ、オーラが消えるの〜。でもね〜、奥の方から、また同じオーラが流れてきて……だから生き返っちゃうんだよ〜」
「供給源があるってことか?」
ルシアンが低く唸る。
「なら、獣を相手にしているのは時間の無駄。効率が悪すぎる。神凪ユキ、供給源は特定できる?」
「できるよ〜。あっちの奥〜……ひかってる羽みたいな結晶があるの〜。そこから流れてるよ〜。あとユキちゃんっていって。」
彼女が指差した先、氷柱の影に淡く輝く結晶が見えた。
氷の羽根を模したそれは、獣たちと同じ青白い光を脈打たせている。
「なるほど。」
バレットは小さく息を吐くと、ゲシュッツを構え直した。
「ルシアン君、ミノリちゃん。獣たちにバレットちゃん邪魔をさせないで。」
「了解!」
ルシアンが笑みを浮かべ、斧を肩に担ぐ。
「ユキちゃんはどうする?」
私が問うと、彼女はにこりと笑い、
「ん〜、わたしは〜……ちょっと援護かなぁ〜。だって羽の結晶って、ちょっと気になるんだもん〜」
言うなり、ユキちゃんの背から再び氷羽が生える。
冷気が一層濃くなり、羽根は光を反射して弾丸のように周囲へ飛び散った。
バレットの遺物は手から放たれるものならなんでも跳弾させられる。
跳弾しなければ威力は低くなるという枷があるが代わりに跳弾すればするほど威力は上がり続ける。
バレットの跳弾はいつもは1〜5回、それだけでも大半のものにはダメージを与えられる。
しかし今回5回の跳弾では届かない距離に羽がある。一体どうする気なのか?
「仕留める。七連。」
バレットの瞳が鋭く結晶を捉える。
エネルギー弾は跳弾していく。
1,2,3,4,5,6!,7!
バレットは跳弾数を増やし、見事結晶を撃ち抜いた。
「跳弾6回以上はやはりまだルートの算出に時間がかかる。」
結晶が砕け散り、氷の獣は光を失って崩れ落ちた。
床に散らばった氷片は、もう二度と蠢くことはない。
「……やった、のかなぁ〜」
ユキちゃんが首をかしげながら、ゆるやかに吐息をこぼす。
私は息を荒げながら刀を下ろした。胸の奥に張り詰めていた緊張が、ようやく少しだけほどけていく。
「もう……動いてないな」
ルシアンが先程まで襲って来た氷の獣をツンツンして確かめながら深く息を吐いた。
「ふわぁ〜……おわったぁ〜」
ユキちゃんは両手を広げて、その場でふにゃりと座り込む。氷羽は霧のように溶けて消え、ただ白い吐息だけが残った。
「はい、みなさん。よう頑張らはりましたなぁ〜」
メノウの姐さんがゆったりと歩み寄り、手にした遺物を軽く振る。
淡い光が私たちを包み込んだ。
身体を覆っていた冷えが和らぎ、切り傷や打撲の痛みが消えていく。重たい疲労までもが霧のように散っていった。
「……ああ、助かります。」
ルシアンが肩を回し、満足げに頷く。
「ありがとう、メノウの姐さん」
私も思わず微笑み、軽く頭を下げる。
「ふふ……今回は回復に専念してましたけど、
必要になったら、うちもちゃんと戦わせてもらいますえ。」
彼女の声は、不思議と胸を落ち着かせてくれる。
氷の間に静寂が戻る。
そのとき、足元の氷床が鈍く唸りを上げ、淡い光の文様が走った。
「……道が、出てきた」
私が呟くと、壁の一角に刻まれた氷の紋様が解けるように割れ、新たな扉が浮かび上がる。
「これが、第二階層の……次の試練ってことか?」
ルシアンが目を細め、斧の柄を握り直す。
ユキちゃんはごろんと仰向けになったまま、ゆる〜く手を振った。
「ん〜……次はどんな面白いのが出てくるのかなぁ〜」
「ユキちゃん、今は休んでおきなよ」
私は苦笑しながら声をかける。
「ふふ……せやねぇ、次はどんな賑やかさになるんやろなぁ〜」
メノウの姐さんは相変わらず楽しそうに微笑む。
私たちは互いに視線を交わし合い、扉の向こうを見据えた。
第二階層、第一の試練突破。
その先に待つ第二の試練へと、道は開かれたのだった。
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