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目には目を、歯には歯を、能力には、能力を  作者: 妄想お面
凍りついた世界〜新たな伝説の始まり〜

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10/13

品を選んでって頼んだ奴ほどなんかこれ違うといってくる

第10話です!

是非楽しんでください!

毎日投稿継続中!

 マッドスワンプを倒し、第二階層へと続く階段をくだり、第二階層への扉を発見する。


 手の甲に淡い光を帯びた紋章が刻まれてた

(……到達の証、か)

 ヒュベルは一度でも階層の入り口にたどり着けば、その場所まで転移できるようになる。


 しかも1〜5階層までなら戦闘中以外なら一度行ったところならば転移できる。


 私たちが扉へと手を伸ばすと、紋章が淡く脈打

ち、全身にしびれるような感覚が走った。


 これでいつでも、ここへ転移できる。


 扉をくぐった瞬間、全身を突き刺すような冷気が襲ってきた。


 肺に入る息は凍りつきそうに重く、視界は白銀に覆われている。


 壁も床も、天井すらも厚い氷に覆われていた。


 きしむような音を立てながら、どこまでも続く氷の回廊。


 一歩進むごとに靴底が滑り、身構えた身体がぎしりと強張る。


「……ここが、第二層……」


 声を出したユキちゃんの吐息すら白く、すぐに氷霧に溶けた。


 ルシアンは振り返り、深く息を吐く。


「……ここから先は、一度戻って準備を整えてからだな」


 四人でうなずき合い、再び扉に意識を向ける。


 光が包み込み、私たちの身体は第一階層の入り口へと転移していた。


 地上に戻った瞬間、張り詰めていた緊張がふっと緩む。


「いやー、よくやったじゃん。マッドスワンプ撃破おめでとう!」


 軽い口調で笑ったのはアイクだった。彼は腕を組み、口角を上げながら私たちを眺めている。


「アレ、普通に難易度バグってるからね? 正直、あそこで全滅しるパーティーはたくさんいるからね〜。いやー、ホント感心感心。」


 まるで冗談みたいな言い方なのに、その瞳には確かな評価の色があった。


「ただねぇ――」


 アイクは指をひらひらさせる。


「第一階層は通過点にすぎない。ここから先はもっとやばいのが出てくる。君らがどこまで食らいつけるか、正直ちょー楽しみだわ。」


 アイクの後ろか、メノウの姐さんが一歩前に出る。


 「次は、うちも一緒に行かせてもらえへんやろか。

今の第二階層はな、回復役がおらんと厳しい思うんよ。」


 柔らかな気配を纏いながらも、その瞳には凛とした光が宿っている。


 その声に、アイクが目を細めて笑う。


「おーおー、やる気じゃん?もともとそのつもりだったからいいよ〜。第二階層からは階層ボスの部屋の前にいくつか試練があるから連戦になるからね〜。その分攻略が難しくなる。ま、君らなら悪くない絵が描けるでしょ。」


 アイクの軽口とともに、私たちは次なる挑戦、氷に覆われた第二階層へと向かう決意を固めた。


 場面は変わり、夜。


 ここはどこかの街。


 街はひっそりと静まり返り、月光に照らされた石畳が白く輝いている。


 そんな中、人々が眠りにつく頃、裏路地に、音もなく数人の影が立っていた。


 彼らは深くフードをかぶり、顔を決して見せようとしない。


 ただ、その佇まいには、鋭く張り詰めた気配が漂っていた。


「……確認は取れた。確かに“対象”はヒュベルに入っている」


 低い声が、夜気に溶けるように響いた。


「ならば、早めに手を打たねばならぬ。放置すれば、いずれ大事になる」


「規に背くことは、許されぬ……」


 短く交わされる言葉は、どれも冷たく硬質だった。


 一人が懐から巻物を取り出す。


 巻物に手をかざしたと思えば淡い光を帯びた紙片が出てきた。


 その紙片には、見慣れぬ文様が刻まれていた。


「追跡の刻印は済んでいる。道を踏み外した者を、必ず捕らえる」


 その言葉に、他の影たちが静かにうなずいた。


 月光の下、冷たい空気がわずかに揺れる。


 しかし、彼らが姿を消した時には、もうその場には何の痕跡も残されていなかった。


 時はまた進み朝


 不滅ノ翼一番隊は、隊としての連携を高めるために全員が同じ宿舎で寝泊まりしている。

 ここに集うのは、私をはじめ、ルシアン、ユキちゃん、バレット。


 さらに隊を率いる隊長アイク、副隊長の修羅丸さん、あと、メノウさん。


 ……そして今は、まだ正式に隊員ではない二人もここで共に暮らしている。


 アイクに才能を見込まれ特訓を受けることになった子達だ。


 一人は、ヒュース。


 深緑の短髪に鋭い瞳。背は私より低いにも関わらず肩や腕は鍛えられた線が浮き上がっている。


 まだ幼さの残る顔立ちなのに、誰よりも大きな声で鍛錬を志願する真面目な性格だ。


 もう一人はカスミ。


 赤紫の髪をツインテールに結び、挑発的な猫のような瞳。


 細身で小柄な体を揺らしながら、小悪魔的に笑う。


 中でも修羅丸さんにはやたらと懐いていて、朝から当然のように腕に絡みついていた。


「修羅丸さぁ〜ん、アタシまだ眠いんだけど。起こしてくれる?」


「……起きているだろう。席に着け。」


 ぶっきらぼうに答える修羅丸さん。だが強く突き放しはせず、その態度に不思議と温かさがにじむ。


「おいおい、朝から熱々だねぇ。修羅丸君、顔に出てる出てる。」


 軽口を飛ばしたのは、髪をかきあげながら食堂に現れたアイクだった。


「……出ていません。」


「いやいや、出てるよ? 僕の目は節穴じゃないからねぇ。」


「アイク隊長、そういうからかいは……控えていただけませんか。」


 修羅丸さんがきっちりと返す、アイクは肩を竦めて笑った。


「いいじゃない、こういった会話は貴重なんだから。」


 そんな二人のやり取りを横目に、バレットが冷静な声を差し挟む。

「……朝食の時間が延びています。非効率では?」


 氷のような指摘に空気が一瞬ぴしりと張り詰める。


「うん、うん、その通りだね。修羅丸君ちゃんと謝らないと。」


「申し訳ない。……これ本当に俺のせいですか?」


 修羅丸さんが少し混乱しているが無視しておこう。


 宿舎の隅ではヒュースが声を張り上げていた。


「アイク隊長! 今日も鍛錬お願いします!」


「お、やる気満々だねぇ。……でも僕はまず腹ごしらえからかな。」


「なっ……そ、そんなぁ!」


「あら、ヒュース。うちの訓練やと物足りひんかったん?それやったら……もうちょい追加してあげよか?」


 メノウさんが静かに言い、すっと構えをとる。


「い、いえっ!滅相もありません!」


 少年は汗を飛ばしながら床が壊れるのではないかと感じるほど激しくジャンピング土下座をキメる。


「ふふっ……にぎやかだなぁ。」


 ユキちゃんのこぼした言葉は楽しそうだった。


 だけど何処か悲しげな感じもした。


 食卓に残っていたパンを食べ終えたルシアンが、すっと席を立った。


「出かけてきます。」


「おや、ルシアン君早いね?何かあるのかい?」


「いえ、ただ明日の第二層に備えて買い出ししてくるだけです。」


「あっ、待って、私も行く。」


 残っていたパンを口に放り込んで立ち上がった。


 一人で買い出しに行かせるなんて心配だし、せっかくなら一緒に見ておきたい。


 バレットが食器を片づけながら口を開いた。


 「私は十番隊に顔を出す。」


 「ん、ユキちゃんはくる?」


 「ボクはちょっと、用があるから〜。一人で行ってくるよ〜。」


 「お、ユキ君が1人行動なんて、明日は雪でも降るのかな?」


「そうですね〜、明日は第二層に挑戦するから最初から雪ですけど〜。」


 「おお、ユキちゃんに一本取られたねぇ!」


  今の会話は一本とったと言えるのかという疑問を持つ私をおいて、ユキちゃんはそのまま外へ出て行った。


 「……あれは完全に何か隠してる顔だね。」


 アイクがにやりと笑い、修羅丸さんが眉をひそめる。


「アイク隊長、あの顔を『隠してる』と断定するは……正しいのですか?」


「正しいよ。僕の目は、ほら、恋する乙女の心も見抜けるからね!」


「……そこまで女性の心を理解できるのに未だにその年で彼女歴なしなのはやはりヒュベルに専念するためですか?尊敬します。」


 修羅丸さんの悪意なき一言にアイクの心を粉砕、玉砕、大喝采にし、アイクを撃沈させた。



 街の賑わいは、朝の光を浴びてさらに活気づいていた。


 行商人の声が飛び交い、道端には果物の赤や布の鮮やかな色が並ぶ。


「こうして並んで歩くと、周りからはどう見えているんだろう。」


 思わず口にすると、隣を歩くルシアンは淡々と返した。


 「父と娘。」


 「おい、何さりげなく自分を上に添えてるの!年と慎重そんなに変わらないでしょ?待って、そういえばルシアン年いくつ?」


 ルシアンは無言で歩みを早めた


 待って、本当にいくつ!?


 ヒュベル内での時間によってはもう何十歳にもなっているかもだし!


 そんなやり取りをしていると、前から一人の男性が駆け寄ってきた。


「す、すみません! そこのカップル!」


 カップル? 私は周りにカップルがいるのかと見渡す。ルシアンも同じように周りを見る。


「いやあなた達にお聞きしたいんですが……」


 なんと私たちのことですか!?


 私たちは全力で否定した。


 「そうなのですか……まぁ、女性の意見も聞いた方がいいですかね、彼女に贈り物をしたいんです! ですが、何を選べばいいかわからなくて……!」


 真剣な顔。だがその必死さに、私とルシアンは顔を見合わせてしまう。


「えっと……どんな人なんですか?」


「彼女のことでふか? ……ふむ、どこから話せばいいのか迷いますね。……いや、本当に多すぎて困るんだ。まずはその才能から触れておくべきだろう。彼女はある分野に関して、まさに絶対的な存在だ。誰がどう足掻こうとも、彼女の領域には届かない。だが傲慢さはなく、その才を自然体のまま振るうからこそ人を惹きつける。何も考えずにただ自分の好きなことをしているだけで、それが周囲にとっては衝撃になり、救いになり、時に嫉妬さえ誘う。凡人が努力しても掴めぬものを、彼女は呼吸をするように表現するのだ。」


「長い!」


「いや、まだまだ始まったばかりだ。次に彼女の姿勢についてだが……彼女は常に自分らしさに忠実だ。普通なら場に合わせて言葉や行動を調整するものだろう? だが彼女はそうしない。むしろ“場”のほうが、彼女の存在に合わせて変わっていくのだ。まるで彼女自身が世界の中心であり、その周囲が回っているかのようにな。これはなかなか説明しづらいが、一度でも彼女と同じ空間を共有すれば、誰しもその感覚を理解するはずだ。彼女がいるだけで空気が変わるんだ。」


「空気が変わるとか大げさなことはいい!端的にその彼女の好みと特徴を教えろ。」


「いやいや、次は仕草の話を聞いてくれ。彼女には小さな癖が多い。指先を動かすときの妙なリズム、考え込むときの視線の泳ぎ方、笑うときにほんの僅かに肩が跳ねる仕草……その全てが、彼女という存在を強く印象づける。普通の人間なら見過ごすような所作さえ、彼女がやると意味を持って見える。あれは無意識なのだろうが、見ている側には鮮烈に残る。俺はその細部に気づくたび、ああ、やはり彼女は特別なのだと再確認するんだ。」


「細かい!他人の彼女の仕草の解説なんか聞きたくない!虚しくなる!」


「なに!そんなに心が荒んでいるのか!なら俺の女神のような彼女の話を聞いてその荒んだ心を癒してくれ!彼女の言葉についてなんだがこれがまた独特だ。例え話が常人離れしていて、普通なら唐突に感じるものを、彼女は自然に紡ぐ。それでいて、その言葉には力がある。たとえ冗談であっても心に残り、気づけばその言葉が人の行動を動かす。彼女が何気なく言った一言で人生が変わった者もいるかもしれないな。俺にとっては、あの突飛な比喩一つでさえ、宝石よりも価値がある。」


「宝石って!ミノリ!こいつ話がどんどん重くなるぞ!俺はこれよりめんどくさい惚気話しを知らない!」


「重いといえば、笑顔だ。あの笑顔は……本当に説明が難しい。人によってはただ明るいと受け取るだろう。だが俺にとっては、重さを持つんだ。あの笑顔を見ると、自分の中で優先順位が一瞬で書き換わる。何を犠牲にしてでも守りたい、そんな気持ちになる。しかもその笑顔は、人を軽くするんだ。落ち込んでいる者の心を軽やかにし、張り詰めていた者の肩を和らげる。だが俺には逆にずしりと響いて、世界の重心そのものを彼女のもとに引き寄せてしまう。」


「こいつ一回殴っていいか!?いいよな!!」


「まだあるぞ。彼女は不意に、まるで舞台の幕が開くように、場を一変させることがある。その瞬間、誰もが無意識に息を呑む。彼女はそれを意図していない。ただ自然にやっているだけだ。だが俺は見逃さない。あの一瞬の変化こそ、彼女が持つ最大の魔力だと感じている。例えるなら――」


「例えはいらん! 終わらせろ!」


「……いや、終われない。彼女はまだ語るべきことが多すぎる。例えば声だ。その響きは甘美で、耳に残る余韻が心を震わせる。あるときは旋律のように、あるときは祈りのように響き渡り、聴いた者の感情を操作する。意識していないのだろうが、それは時に武器であり、救済でもある。俺は何度、その声に助けられたことか……そして――」


「終われぇぇぇぇ!!! 長すぎるんだよ!!!これ以上聞くと俺が惨めになる!!!」


 ルシアンが壊れた。


 ――なんやかんやあってその後。


「じゃあ、この髪飾りなんてどうかな?」


「……その提案自体は悪くない。確かにこの髪飾りは職人の技巧が込められ、花弁の一つひとつにまで細やかな意匠が施されているのが分かる。陽光にかざせば虹色の反射が走り、見る者を惹きつける魅力もあるだろう。だが、彼女の髪はその光すら飲み込んでしまうんだ。夜明け前の静謐と、深淵の闇を同時に抱えたようなあの色彩の前に、この髪飾りはただの飾りに過ぎなくなってしまう。彼女の美を支えるどころか、その圧倒的な存在感に呑まれ、霞んでしまう。だからこそ、彼女に渡すには――少し、力不足だ。」


「……じゃあ、靴? 可愛いブーツとか。」


「ふむ、靴というのも悪くはない。確かにこれは見目も良く、革の質も上等で、造りも丁寧だ。歩けばコツコツと小気味よい音を響かせるだろう。だが、彼女の歩みを思い浮かべてみてくれ。ひとつ一つの足音が、周囲の空気を変えてしまうような、まるで舞台の幕が開くときのような重みと華を持っているんだ。そんな歩みに、この靴が耐えられるだろうか? いや、否だ。むしろ靴の方が『自分は飾りにすぎない』と自覚して震えてしまうに違いない。結果として、この靴を贈ることはやはり彼女に対しては及ばないんだ。」


「……じゃあ、甘いお菓子とか! 贈り物にぴったりじゃん!」


「甘味か。それも一見すれば素晴らしい案に思えるな。この菓子は香りも豊かで、見た目も愛らしい。舌に乗せれば甘さが広がり、食べる者の心を和ませるだろう。だが、彼女を前にするとどうだ? 彼女はただ食事を作るだけで、皿に盛られた瞬間にその空間を祝祭に変えてしまう。彼女の作る料理の前では、いかなる菓子も、ただの“引き立て役”でしかなくなる。食べて笑顔になる、という次元ではなく、魂に刻まれる体験として残ってしまうんだ。……この菓子が悪いわけではない。むしろ良い品だ。だが、彼女という存在の前では、どうしても影が薄れてしまう。それが残酷な現実なんだ。」


 な、なんだこの人!?


 私とルシアンは顔を見合わせる。


「ルシアン、この人、階層ボスなんじゃ……」


「……普通の一般市民ではないな。」


 何を提案しても「彼女」の魅力に勝てない。どの商品も全否定。


 露店を三つ、五つ、十と回ったところで、ようやく見つけたのは――


「……これはどうだ。」


 ルシアンが指差したのは、氷の結晶を模したシンプルなペンダントだった。


 光を受けるたび、空のように透きとおる青が浮かび上がる。


「……これなら……これなら、彼女の魅力に、ほんのわずかだが追いつけるかもしれない。」


 男性は震える声でそう言い、続けた。


「見てくれ、この青を。淡く澄んだ光は決して派手に自己主張をしない。ただ、そこにあるだけで、周囲を静かに照らす。それは彼女の存在そのものだ。彼女はいつだって誰よりも目を引くのに、決して自らを誇示することはない。ただ立っているだけで、空気が澄み渡るように感じさせる。この結晶の青が、まさにそれを体現しているんだ。

 さらに、氷の形を模していながら、その冷たさは人を拒むものではなく、むしろ触れた者を包み込む清廉さを宿している。彼女の瞳を見たときに感じる、心の奥にまで差し込む透明な輝き……それに最も近い。どれほど精巧に作られた宝飾でも、煌びやかな宝石でも、彼女の前では全てが色あせてしまった。だが、このペンダントは違う。彼女を引き立てるのではなく、彼女と呼応し、共鳴するように存在できる。

 これこそが彼女のためにあるものだ。」


「おお、やっと納得した!」


「長かった……」


 そう思ったのも束の間、彼は店主に振り向き、叫んだ。


「在庫、全部ください!」


「ぜ、全部!?」

 

 店主の叫びが激しく街に響いた。


 箱いっぱいのペンダントを抱えた男が目の前にいる。


 おそらくあれが“愛”が暴走している状態なんだろう。


 「お礼をしたい。」といって男はチケットのようなものを渡してくる。


 「君たちはヒュベルに挑戦する探索者ですよね?ならもっていて損にはなりませんよ。危なくなったとき祈ってください。そうすればなんとかなるかもしれません。」


 そういって、男はその場からいなくなる。


 買い出しの本来の目的、保存食や防寒具もなんとか揃え、帰り道。


 夕暮れに染まり始めた街の路地で、ふと見覚えのある白い髪が目に入った。


「ユキちゃん?」


 足を止めると、ユキちゃんは誰かと向かい合って話していた。


 相手は落ち着いた雰囲気の女性で、その表情は真剣そのもの。


 人混みのざわめきにまぎれて、聞こえるのは断片的な言葉だけ。


「……今なら、まだ……戻れます……」


「……里に……ボクの居場所は……」


「……追っ手が……でも……」


 途切れ途切れの声。


 ユキちゃんは笑っているように見えるのに、その目はどこか揺れていた。


「……どうする?」


 ルシアンが低く問いかけてきた。


 私は答えられず、ただ二人の背中を見つめ続けていた。


  そのとき、ユキちゃんがふいにこちらへ視線を向けた。


 一瞬、肩がびくりと揺れる。だがすぐに、いつものとぼけた笑みを浮かべて手を振ってきた。


「お〜、ミノリちゃんとルシアン君〜! 偶然だねぇ〜。買い出し終わったの〜?」


 声の調子は普段通り。けれど、わざとらしいくらい伸ばした語尾が妙に耳に残る。


「うん……でも今の人、誰?」


「え、今の人〜? ただの〜……道に迷ってた人だよ〜。ちょっと案内してただけ〜。」


 明らかに怪しい。けど、そう笑って言われると追及しづらい。


 ルシアンも横でじっと目を細めていたが、言葉は飲み込んだ。


「それより〜、お腹空いたよ〜。帰ろ帰ろ〜!」


 ユキちゃんは私たちの腕をぐいぐい引っ張って、宿舎の方向へ歩き出す。


 後ろを振り返ると、さっきまでユキちゃんと話していた女性の姿は、もう人混みに紛れて消えていた。


 胸の奥に小さな棘が刺さったような違和感を残したまま、私は歩を進めるしかなかった。


 

 不滅ノ翼五番隊隊長室。


 分厚い書類の束と地図が机に広げられ、その前に座るのは神凪・ミレーナであった。


 規律正しく積まれた報告書に視線を落とす。


 王都の警備兵から上がった情報、周辺の街道における不審な集団の目撃談、そのどれもが断片的で、まだ確かな因果を結ぶには足りない。


「……侵入者が王都に足を踏み入れた事実、加えて周辺で確認された妙な動き。偶然とは、とても思えませんね。」


 呟きは冷静そのもの。


 だが白磁のように整った指先が机を叩くリズムには、わずかな苛立ちが滲む。


「規律と秩序を揺るがす気配がある……。

 しかし今は、確証を持たぬまま兵を動かすことはできません。」


 報告書へ目を落としていたミレーナのもとに、扉を叩く音が響いた。


 控えめに入室した伝令が、一通の封書を差し出す。


「……手紙、ですか。」


 受け取り、封を切る。


 中には短く、しかし鋭い筆致で書かれた文字があった。


 我々の作戦に首を突っ込むな。

 邪魔をすれば、後悔することになる。


 言葉は簡潔。だがその冷ややかさは、刃のように鋭く胸に刺さる。


 ミレーナはしばし黙し、封書を指先で折りたたむ。


 机上に静かに置き、深く息を吐いた。


「……“規律”を乱す者は、必ず規律に裁かれねばなりません。それがどれほどの力を持とうとも。」


 窓の外に広がる王都の街並み。


 本来であれば治安を守るのは王国騎士団の役目。


 だが、強き者が弱きを助ける。その信念のもと、不滅ノ翼五番隊はしばしば街の安全を担ってきた。


 それが人々の信頼を呼び、不滅ノ翼が王都内で融通を利かせてもらえる理由でもあった。


 この手紙は今私が調べさせていたことに対する警告だろう


「私に退けと……。ならばなおのこと、退けません。」


 ミレーナはまっすぐに立ち上がる。


「一度彼女に話を聞いてみますか。」


 規律を重んじる瞳に、揺るぎない炎が灯っていた。

ついに第二章スタートです!

この章は私がこの小説を書きたいと思ったきっかけになったシーンの一つが入っている章ですのでよければ次回も読んでいただけると幸いです!

それと連絡、時間からの更新は13時〜17時の間に変更いたします

投稿時間の詳しいことはXで妄想お面で検索していただけると幸いです。


最後まで読んで頂きありがとうございました!

この作品が気に入りましたら感想や評価をいただけると幸いです!

改めまして本当にありがとうございました!

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