地上を彷徨う神
神々は詠唱師の素質のある者の判別方法を人間に伝えました。
人間はある一定の年齢まで育った子どもたちに詠唱師の素質があるか、神殿で判別するようになりました。
素質のある者はそこで簡単な詠唱文を習い、魔物を狩る者になりました。
魔物を狩る者に魔法を使える者――詠唱師が加わり、魔物を狩ることは容易になり、人間の暮らしの幅は広がりました。それまでは貧しいながらも互いに支え合っていましたが、富める者と貧しい者ができ、貧しい者は家族を売るようになりました。
詠唱師の素質があろうと、それを神殿で確認する前に僅かな金で売り払われる子どもが出るようになりました。
始まりの詠唱師が生まれ変わった時代はそのような時代でした。
始まりの詠唱師の生まれ変わりを神々は知っていました。
神々は彼女が詠唱師の資質を確認する場所――神殿に来ることを待ち望んでいました。
彼女が望んだ力を与えた――約束を果たしたことを自慢したかったからです。
しかし、彼女は神殿に来ませんでした。
『生まれ変わる前と同じように、魔法を使える素質のあった彼女が神殿に来ないはずがない。
彼女が求めたのは、魔物を倒せる力。
その力を得られたのなら、彼女が望むのは、その力で魔物を倒すこと。
資質を認められ、詠唱師にならないはずがない』
彼女の歌に魅了された神々の一柱は地上に探しに行って、死に際の彼女を見付けました。
詠唱師の資質がある者は歌が上手く、そういう才能のある子どもは、神殿で詠唱師の資質を調べる前に売られてしまうことが多かったのです。
二度目の彼女の人生はそれを神々に教える為にあったようなものでした。
彼女を見付け出した神の感情で、その一帯は消え去りました。
こうして、贖罪の為に地上を彷徨うことになった神ができたのです。
自分の為に罪を犯した神と会う為に、彼女はやはり人間でいることを選びました。
神々は、すべての子どもが詠唱師の資質があるか確認できなければ、このように天罰を加えると世界中の人間に伝え、資質のある者は詠唱師として魔法を使って人間の生活に寄与するようにと、人間たちにルールを強いました。
”命を込めて祈りを歌った娘は何度も生まれ変わり、詠唱師となって、地上を彷徨う神と出会う”
これが最初の詠唱師と呼ばれる聖女と地上を彷徨う神の始まりの話です。




