二章 覚悟
次の日、「なぜだぁ〜なぜ今日がやってくるぅ〜」
そう呟きながら学園まで歩いている途中の出来事だった。ふと、とある小学生くらいの男の子がキョロキョロと車道の様子を見回しているところを目撃した。
すると、次の瞬間、車が来ているのにその子は車道に飛び出した。
俺は必死に「危なーい!」と叫びながら走って近づいた。俺は最悪、自分を犠牲にしても良いという覚悟があったが、幸い車はギリギリのところで止まった。
俺はその子に聞いた
「なんであんなことを!」
すると、その子の口から「自殺したかった」という言葉が出てきた。
でも、俺は否定したり、怒鳴ったりはしなかった。刺激したら逆効果と考えたからだ。
そして、優しく問いかけた。「なんか嫌なことがあったの?」
「昨日僕、お姉ちゃんとケンカしたから悲しくて…。しかも、まだ仲直りしてなくて!」 「あと、このことを親には言わないでほしい!」
俺はこの子の必死な顔を見て、ちょっと面白半分に言った。「じゃあ、君のお姉ちゃんと仲直りがちゃんとできたら言わないであげる。」
その子は「うん!」と答えた。
「お兄ちゃんなんていうお名前?」
そういえば、俺はまだ名乗っていなかった。「ああ、俺は北川修斗」それを聞いた途端、その子は走り出し、少し進んだところで「じゃあね修斗お兄ちゃん!」その一言を残して走り去った。
「そもそも、親に言わないで、というか言えないし……。だって連絡先聞いてないもん」
この日は結局告白もせず、いつも通りの1日だった。
次の日の昼休み、クラスメイトの剣城さんに呼び出しを食らった。
俺は「剣城さん、俺に何の用?」そう聞いた。
すると、「昨日の朝、弟が迷惑かけました!」と頭を下げてきた。そこで俺は全てを察した。あの子の姉は剣城さん、剣城マヤさんなのだろう。
そういうことなら合点がいく。本来、クラス一の美女が俺みたいにボーっとしているやつに告白みたいな呼び出しをするわけがないし、そんな期待をした俺が馬鹿みたいだった。
昨日のことが気になり、一応確認してみた。
「弟さんとは仲直りできたの?」
「まだ完璧とは言えないけど、一応……。でも正人の方は落ち込んでるから、後できつく言っておくね!」
俺は速攻否定した。
「きつくは言わない方がいいかもしれないよ。正人くんけっこう反省してたし、正人くん落ち込んでるなら、まだ悩みがあるかもしれない。余計なお世話かもしれないけど、俺でよければ正人くんの相談乗れるよ。」
こう思ったのは、正人くんが心配というのと、俺だって人生の先輩だから相談に乗れそうだったからだ。
「じゃあ北川くん!今日うちに来てもらえないかな?結局正人は今日、学校行けてないんだよね。詳しい理由はわからないけど」
いきなりの展開だが、実は夏実以外の女子の家に行ったことはない。
(「剣城さんの家かぁ〜楽しみだなぁ〜」)
俺の心の中で、ふたつの意見が対立していた。
(「いやいや、剣城さん、そんな簡単に男子を家に上げちゃだめだって!」)少しキモい意見と、客観的な意見。
まあ、変なことするわけではないし、大丈夫だろう。あくまで正人くんの人生相談だから。
「大丈夫、大丈夫」
心の声が漏れてたのか、剣城さんに、「ん?北川くん、何が大丈夫なの?」
「俺は全然大丈夫。」だってもう、剣城さんの家に行く覚悟ができたから。
つづく