十一章 バレンタインゾンビ
今日は何の日だろう? バレンタイン⁉︎
今日は恐ろしい日である。
一方、俺にとっては嬉しい日でもある。
「おっはよ〜修斗、夏実!ついにこの日が来てしまったな……。」
俺たちが登校すると、教室の後ろの方で和樹くんが少し呆れた表情で西澤くんの席の周りに集まっている男子たちの方をチラチラと見ながら、あいさつに意味深な一言を加えて声をかけてきた。
そして、夏実がここで何かを思い出したように、
「あっ!そういえばそうでした…です!」
と、言い出してリュックから夏実の地味さからは想像もできないような可愛らしいリボンの付いた小包を取り出し、「シュウ!これをどうぞ……です!」
その瞬間、集まった男子たちが一斉にこっちを見て全員目を光らせながらゾンビのような動きで近づいてくる。
「チョコ〜クレ〜チョコ〜クレ〜リアジュウキエロ〜〜」
そう、リア充にとってはチョコがもらえるので嬉しい日だが、それ以外のチョコを貰えないモブが「バレンタインゾンビ」に変わってしまう恐ろしい日なのだ。
「夏実、和樹くん!ひとまず逃げよう!」
俺はこう言ったが……….でも。
「キーンコーンカーンコーン(チャイムの鳴る音)」
「おはよーお前ら席につけ〜!ホームルーム始めるぞ〜!」
まさかのまさかでホームルームの時間が来てしまった。
一旦、一時的にしのいだが、これが終わったら………怖怖怖!
想像するだけでも怖い。
でも、その時が来てしまった。「シュウトクーンカクゴ、イイカー?」
「ギャーーー!」
俺は和樹くんの手を強引に引っ張り、教室から飛び出した。
廊下を全力疾走していると、後ろからはとんでもない人数のバレンタインゾンビが追いかけてくる。
「こんなのどっかの外国の映画のワンシーンじゃんか〜!」
俺は曲がり角で扉が開いている化学室に逃げ込んだ。鍵を閉め、俺は一息ついた。
「何とか助かったぁー!」
そう言ってほっとした途端、和樹くんが言い出した。「ソレハドウカナ?シュウト。」
俺は何の冗談かもわからないまま、和樹くんに手足を縛られ、和樹くんが、鍵を開けた。その瞬間、一斉に男子たちが入ってきて、俺をかついで「ワッショイ、ワッショイ」と、教室まで、連れて行かれた。
この時、俺は、人生の終わりを悟った。チョコをもらった代償が重すぎる気がしたが、それだけ幸せの裏側には不幸があるのだろう。
教室に着くと、教室の後ろ側に降ろされ、「シュウト、カクゴ!」男子のみんなが拳を振り上げた途端。
すると、「あーみんな、何してるの!」
視界の先には剣城さんが何かよくわからない大きな袋を持って立っていた。
そして、剣城さんは言う。「クラスのみんなにチョコをプレゼントするよー!」
急に周りにいた男子たちが、勝利のオタケビをあげて、「剣城マジ、神〜!」
とか、言いながらせっせと、剣城さんの前に並んでいた。
この後、俺は安心のあまり、気を失って保健室に運ばれたらしい。
しばらくして、俺はベッドの上で目を覚ました。横のテーブルには、「北川くんへ」と書かれたチョコの袋がそっと置かれていて、気づけば俺の手を優しく握って寝ている夏実の姿もあった。
「ありがとな!夏実」
つづく




