おねぇ殿下と七人の小人?
「くっ! この魔獣の群れは何なんだ!?」
フードからチラリと覗く銀髪碧眼。綺麗な顔を汚した華奢な男は、次々に飛び出してくる魔獣に剣を振る。
だが、獰猛な魔獣は獲物いたぶるかのように男を追い詰める。
――ガッ!
牙を剥いた魔獣が肩を掠め、強烈な痛みが男を襲う。
成す術もなく後ろへと体が傾き、ここで終わりかと覚悟した瞬間だった。
ふわりと身体が宙に浮く。
「「は、はいほぉ、はいほぉ……」」
朦朧とする中。
歌とも思えない微妙な声が聴こえ、美しくカールした黒髪が視界に入った。
◇
「兄上。この男は隣国の……」
「そうねぇ」
男が目を覚ますと、貴族令嬢らしき人物が鉱夫達に囲まれていた。
「その女性に何をしている!!」
飛び起きた銀髪碧眼の男は、女性を守るように鉱夫の前に立ちはだかるが……。
背後から膝裏を突かれ、カクンと体勢を崩す。
「えっ……?」と膝をついた男は動揺する。
「何をしているは、こちらのセリフだ」
庇ったか弱いはずの女性から、低く凄みの効いた声が響いた――。
◇
「……あの。私は何を見せられているのでしょうか?」
「あー、うん。魔獣討伐のついでに森での訓練と……まあ、演劇の練習の様なもの?」
「演劇ですか?」
「厳しい訓練を少しでも楽しくと、考案されましたっ」
何故か鉱夫姿の、隣国の第二王子は目を逸らしながら説明する。
「な、なるほど。それで、わざわざクロヴィス王太子殿下と王太子妃殿下が……」
白雪姫と王子の衣装が逆のような気がするが、第二王子の表情で色々と察した男は突っ込むのをやめる。
あれ程の魔獣をドレス姿であっさり討伐する王太子クロヴィス。
第二王子と同じ衣装の騎士達は、王子のキスで目覚めた白雪姫に拍手を送る。大量の魔獣で出来た山を背に。
「それで、友好国の第五王子である貴方が、密入国した理由をお聞かせ願いましょうか」
第二王子は静かな口調で男に尋ねた。
「はい。実は――」
◇
「つまり、神聖帝国と繋がる公爵家がクーデターを画策し、我が国の条約を破るつもりだと?」
「その様です。そこで、兄上と義姉上は隣国へ新婚旅行に行かれてはいかがでしょうか? 隣国は貿易も盛んですし、美しい海が見れますよ」
「……海か」と、ぼそり呟くクロヴィス。
「海といったら人魚の御伽噺とかありますし」
「よし行こう!」
◇
かくして、クロヴィスとエレノアの新婚旅行が決まった。
その先で何が起こるのか。
衣装諸々を含め、友好国の王子に丸投げを決めた第二王子だった。