何ここ
……絶対私が来ていいところじゃない。
でっかいお屋敷の前に着き、車のドアを開けるとタキシードや着物を着た人たちがズラッと並んでおり、
「お待ちしておりました」
と一糸乱れぬ動きで頭を下げられたのだ。
呆然とする私をよそに、パパとママは執事さんのような白髪のおじいさんと話をしていた。
この人が案内してくれるそう。
お屋敷に上がれるのは私だけだそうでパパとママとは玄関で別れた。
二人は当然とでも言うように頷いていたけど、私それ聞いてないよ?
執事さんに付いて、静かすぎる廊下を歩いていく。
と、執事さんが止まった。
「今しばらくこちらのお部屋でお待ちください」
「あ、ひ、ひゃいっ」
噛んだ。
真っ赤な私に気づいているはずだが執事さんは何も言わず一礼して去っていった。さすが。
指し示された部屋には大きなテーブルと、向かい合うように敷かれた座布団が二枚。
どうやらここが会場のようだ。
私はふかふかの座布団に座り、
「さて、」
と、この縁談? をどう断ろうか考え始めた。
だって何この豪邸。
私今ドラマでしか見たことないようなお屋敷の中にいるよ?
黒塗りの車だの使用人の方々だのを見せつけられて私何度も思った。
なんで、こんなすごそうなお家は私なんかを
「失礼します」
戸の外側から青年の声がした。
慌てて座り直すと戸がスッと開いて……。
「……」
あれ。
私は変に思い持ってきていたお見合い相手の写真を取り出す。
そしてもう一度戸に立つ青年を見る。
……あれ。
ピアスや耳飾りがたくさん付いている耳。
カラコンを入れているのか少し水色っぽい目。
サラサラ黒髪以外、写真と全然違う人が部屋に入ってきた。
……ああ、そうか。
……騙されたのだ、私は。
その人は私の向かい側に座ると一言。
「初めまして、千崎春夢です」
「……う、嘘つけええええええええ!!!」
思わず叫んでしまい、やば、と思ったが続ける。
「渡された写真と全然違うじゃない! こんなの詐欺よ詐欺! 人を騙すようなところに嫁げるわけがないしあんたなんか一切信用できない! 最低! 最っ悪! 然るべきところに訴えてやるから!」
私はそこで荒くなった息を落ち着かせようと深呼吸した。
春夢さんの偽物はそんな私を見て何か言いかけてやめると、困ったように笑った。
「やっぱりそう思ってしまいますよね。……それについても説明するので、少し俺の話を聞いてくれませんか?」
まだイライラは収まっていなかったが、どんな言い訳が飛び出してくるか単純に気になった。
「……分かったわ」
青年はホッと息を吐き出した。
「ありがとうございます!」
そこから始まったのは、普通では考えられない、故に本当なのだと感じる、とんでもない話だった。