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桜は夢に舞う  作者: 天羽天
1/3

お見合いとは

 ここは立派な和室。

 どこからか時折ししおどしの音が聞こえてくる以外は全くの静寂だ。


 私は着慣れない着物姿で座っていて、その向かいには聞いていたのと全然違う同い年の男の子が座っている。


 私は天井を仰ぎ考える。


  ……どうしてこうなった。





 私は普通の高校生だった。


 毎日適当に授業を受け、放課後は友達と遊び、門限前には家族のいる家に帰る。それが日常だった。


さくら、あなたにお見合いをしてほしいの」


 いつも通り家に帰り、みんなと夕食を食べているとき唐突にママが言った。


「……は?」


 意味が分からず思わず声が漏れる。

 今の時代にもお見合いってあるんだ……。


「っていやいや、冗談でしょ? もう、ママったら〜……」


 アハハと笑ってみるけど、パパも笑わない。


「えっ……ガチ?」


「ガチよ、当たり前じゃない。でもあなたが嫌なら断っておいてもいいわよ」


 ママの目は真剣そのもの。

 断る気はさらさらない、という感じだった。


「……分かった。やるわ」


 私はその雰囲気に押され、ぎこちないながらも頷いたのだった。




 さて、我が家はいたって普通の家だ。

 まあ経済的余裕がないってことはないのかな……程度である。


 でも恋愛交際・恋愛結婚が主流の今、お見合いを申し込んでくるとなると何か訳ありの匂いがしてしまうのは私だけだろうか。


 何気なくママに「お見合いってこう……すごい人がするイメージなんだけど……なんで私に?」と聞いてみる。


 ママとパパは顔を見合わせて苦笑する。

 パパが、


「確かにうちは、こんにちすごいことをやっているわけではないけどね。向こうがうちを選んだのは別の理由があるんだよ、桜」


 と言った。


 その『別の理由』とやらを詳しく知りたかったけれど、二人はそれ以上は言ってくれないようだった。

 や、やっぱ訳ありなんじゃ……。





「はい、これがお相手さんの写真よ」


 夕食後、ママはそう言って私に一枚の写真を渡した。


「名前は千崎春夢せんさきはるゆめさん。桜と同い年だし、話も合うんじゃない?」


 その写真にはサラサラ黒髪の誠実そうな青年が写っていた。


 同い年、顔もそこそこ。

 これは案外悪い話じゃないのかも、なんて、私は単純な脳みそでお見合いの日を迎えた。




 その日はいつもより早く起こされ、着物を着せられ軽く化粧を施されとお見合いの準備が目まぐるしく行われ、まだ午前九時だというのに私は既にクタクタになっていた。


 庭に生えている名前も知らない花々を窓からボーッと見ているとママに声を掛けられた。

 いよいよ出発するらしい。




 玄関で下駄……じゃなくて草履を履く。草履って藁で出来てるものだけを指すわけじゃないのね。


 パパとママは普通の礼服を着ていることに疑問を持ちながらも、もっと気になることを尋ねる。


「会場はどこなの? というか何に乗ってそこまで行くの? 電車?」


 するとパパが、


「言ってなかったか? 会場は千崎さん家だよ」


「え」


「そして……」


 パパはドアをガラッと開けた。


「ご好意に甘えて、千崎さん家の車で送っていただくことになった」


「……」


 私はもうどうにでもなれと思った。


 テレビでしか見たことのないような立派な黒塗りの車が、うちの家の前に待機していたのだ。

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