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星に願いを  作者: にょろ
8/10

挑戦

 かなり着崩されているが緩められたネクタイの色は黄色、1年が赤、3年が緑だから2年の先輩ってことで良いだろう。

 一部の飛び抜けた天才達を除けば俺達学生にとって年齢や学年というのはたった一つでも膨大な量の経験と実力の差が存在する、正直さっきの思考すべてをかなぐり捨てて逃げ出したいがそうしたら後ろから刺されそうな気がしてならない。


「後輩思いって訳でもないんでしょう、暇なんすか?」


「あぁ?答える義理もねえだろ


巡り裂け『旋刃』」


 取り出した心剣の形状は通常とは逆に反った小型のナイフ、所謂カランビットナイフってやつか。

 顔に見合って凶悪な形状に赤と黒の禍々しい色合いしてんなぁ。

 話してれば誰か通りがからないかと思ったが……、まあ一度決めた覚悟だ撤回するのはダサいもんな。


「一戦お手合わせ願おうか、先輩」

「準備運動くらいにはなってくれよ?」


 そう言葉を放つと同時に投げ放たれたナイフ。

 それを俺は余裕を持って一度躱す、そのうえで俺はその場から更に飛び退いた、するとその直後に俺が飛び退く前に立っていた位置を先程躱したナイフが回転しながら再び飛来した。


「ありゃ、大抵は初見の奴らなら喰らってくれるんだがな」


 俺の立ち位置を通過し帰ってきたナイフを手元で遊ばせながら不敵に笑う。

 それに対して俺も手をポケットに入れながら軽薄な笑みを顔に浮かべながら語りかける。


「分かり易すぎるんだよ、頭足りて無いんじゃねえか?」


 なんてブラフはってみるが、こちとら身体能力が心剣で向上してるだけのほぼ一般人やぞ、能力不明なら誰が相手でも一発だろうと喰らってやれる余裕がないってだけだ。

 さっさとキレさせて能力の底を見せてもらわねえと迂闊に近寄ることすらできない。


「あーそうかい、一発避けただけで随分と調子に乗ったもんだなぁ」


 苛つきを表すようにナイフを投擲。

 多少の怒りは見えるけど、やっぱあの程度だと大きく行動を乱すほどではないか。

 今のところ遠隔操作、念動力あたりが能力と見て良いか、あとは大穴で金属の生成と操作ってのもあり得るな。


 顔へと迫るナイフを見据え、相手へと向けて駆け出す。

 ギリギリで躱しそのまま一撃喰らわせてやるよ。


「調子に乗ったバカは単純で良いな、それで俺のナイフの軌道を読んだつもりか」


 カランビットナイフとすれ違う瞬間にナイフが急旋回、俺を再び背後から心臓を狙う。

 だがな遠隔操作、念動力、金属操作いずれにせよ、少なくとも一発は喰らえる一発喰らえば氷漬け、なんてクソゲーよりは幾分マシだ。

 すれ違った瞬間から速度を上げた、もう俺の槍の射程圏内だ。

 距離が縮まり出したところで俺の心剣『幻妖』を出し、心剣がなければ届きようのない距離から喉へと突き刺す。

 手応えあり、こいつの心装かなり削れたんじゃないのか?

 すぐさま距離を取り始める相手を深追いはせず背後にある心剣、旋刃とやらも視界に入る位置へと陣取る。


「……見えねぇのか、小賢しいことしやがって、もう本気で殺す」


 カラカラカラカラカラ

 服から無数の『旋刃』と言っていたナイフを取り出す。


 合計20個その全てが浮遊し先程までのナイフのようにやつの周囲を旋回し始めた。


「『"旋"刃』ね2年でその能力、獅童ってやつか」


 同じものが複数ってことは心剣ではない、今こいつが身につけている装飾品型の何か、もしくは暗器や俺みたいに見えないなにかを持ってるのか?

 こんなことになるんだったらもっと情報持ってるべきだったな、せいぜい能力と異名くらいしか知らねえぞ。


「俺も有名になったもんだな、じゃあ分かったところでどうにかなるもんでもないってのも知ってるよな」


 2年の問題児筆頭、ついた異名は『惨殺者』ヤバいヤツの喧嘩買っちまった。

 能力は確か、一定サイズ以下のものを円を描くように動かせる、そして何より極悪なのが……


 旋回するカランビットナイフが地面を抉り抉られた砂埃が、礫が獅童の能力によって旋回し嵐をかたどっていく。


 能力の適用対象が自分と自分の能力が発動中の何かに触れた一定サイズ以下のもの全てって事だ。


 この嵐は喰らえない、全てを削り取り込む嵐、その多段ヒットは心装すら突き破り人体に再起不能の傷を与えるって話だ。


 その嵐を回り込むように走る、こいつ相手には時間が経てば経つほどこの嵐が巨大化する、そうなれば防御手段を持たない俺は勝てなくなる、さっさと決める。

 そう覚悟を決め捨て身気味に突撃し突き刺す。


「あのよぉ、こうなったらもう勝てないってのが分からねぇか?」


 突き出した槍が獅童の下から巻き上がった砂塵によって逸らされ相手の眼前で無防備をさらす。


「クソがっ!」


「安心しろや、簡単には殺さねぇ『螺旋槍』」


 獅童の手に巻き上げられた砂塵が俺に向かって回転する槍となって迫りくる。

 槍ってかドリルだろこれ、しかも砂塵製の多段攻撃、心装の最低一回は攻撃を防ぐ安全保障も機能しない。

 体勢は最悪、砂塵の生成でタイムリミットをつけられて勝負を焦った、力を乗せすぎた、今から後ろに飛ぶのは不可能だ。

 前に飛べ、一旦槍を消し体勢をさらに前へ、下へと傾ける。

 が、これでもまだ少し足りない。

 俺の真上に幻妖を再生成、その重量で更に俺を下へと押し込む。

 砂塵のドリルは俺の顔のすぐ横を掠める。

 あっぶねぇ、弄ぶ目的の肩狙いじゃなけりゃ死んでた。


「ほぅ、うまく避けるじゃねえか、次はどうだ?」


 即座に身を翻し獅童の方を見る。

 そこに存在したのは今さっき必死になって避けた『螺旋槍』が計8つ。

 そのうち4つが既に射出されており、俺の逃げ道を防ぐように砂塵が覆う。


「これでもう避けれねえなぁ!」


 4つの螺旋槍が同時に放たれた。

 俺の心装は数秒間砂塵を弾くものの抵抗むなしく削ぎ落とされ砂嵐が身を引き裂く。


 声にならない叫びが喉をすり抜け不快な音が耳へと届く。




「無駄に抵抗しやがって、下級生はそうやって遊ばれてれば良いんだよ」


 世話になった後輩に代わって最近調子に乗ってる下級生に灸をすえてやろうと気分上がってたってのに、その前哨戦で一撃もらっちまったせいで冷めちまったよ。

 まあ良い、適当に砂塵で吊るして遊びながら行くか見せしめには丁度いいだろ。


 えっとあいつどこに行きやがった、名前なんつったか


……まあいいか。


「終わったぞ!ビビって逃げてねえでさっさと出てこいや!!」


「すいやせん先輩いや流石、仕事が早いですねぇ」


 ボロボロになったそいつを見える程度に砂塵を晴らす、享楽的な悲鳴がなりやみ心地よいうめき声へと変わる。


「あぁ、もうこのとおりだ適当に痛ぶりながら向かうぞ」


「なんかあいつ目を覆ってますぜ、まだ逆転狙ってんじゃないっすか隠れたくなってきたっす……」


「あの状態から楯突こうなんざ考えてるやつはいねぇよ、必死に逃げたやつはいたがそれ以来足は潰してるどっちみち終わったも同然だ」


 砂塵をあいつの身体を軽く体を浮かせるように操作してから玩具から目を離し刈原とかいうやつのいる練習場へと足先を向ける。


「……そうっすよね!最近異常者を観すぎてて感覚が狂ってました」


「へぇ、刈原ってやつはあの状態から歯向かってきやがるのか、そりゃ楽しみだな」


……砂塵の中からうめき声が消えた。

 即座に振り返ると既に眼前で心装が削られているところだった。

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