エピローグ
君のその手は優しく包まれ
一人のままにはならないだろう
そうして君は多くの人と
繋がり合って生きていく
いつの間に眠ってしまっていたのか、モモは目が覚めると、ワゴン車の後部座席で横たわっていた。徐々にはっきりしてくる視界には、白い天井と、彼女を覗き込む女の子の姿。それと、知らない男性。
「もも!」
「静かに……。頭を打ったと聞いているので、検査が終わるまでは、出来るだけ安静にしていてください」
男性が、最初はモモを覗き込む少女に、次いで、モモに話しかける。視界がぼやけていて気づかなかったが、男性は白衣を着ていた。ワゴンに乗せられた器具からも、どうやら自分は救急車に乗っているらしい、と、モモはぼんやりそう考える。
少しずつはっきりする意識と、記憶。
(そうだ……、私は彼女が倒れそうになるのをかばって、頭を打ったんだ。でも……)
ブレザー服の少女が少し離れた場所からモモを見つめている。少し離れているように、と声を掛けられたからか、モモが彼女に視線を移すと、身体を浮かして近づこうとして、すぐに元に戻る。
その様子を見る限り、彼女の方は問題なさそうだ。
「さや、大丈夫?」
安静に、と言われたので、身体を動かすことなく、モモは彼女に話しかける。
「さっき、様子が変だったから」
「大丈夫だよ、ももが守ってくれたから」
そうじゃないんだけどな、と、モモは心の中で苦笑いを浮かべる。
一度ははっきりとしてきたと思った視界が、またぼやけてきてしまった。
「……あとで」
いっぱい話そうね。
それははたして言葉になっていただろうか。
話したいことがあるのだ。子供のころの楽しかった記憶、大事に思っていること、最近、余計なことばかり考えてしまって、話したくても話せなかったこと、それから……、それから……。
他にも話したかった事があったような気がするのだ。でもそれが何だったのか忘れてしまった。
でも、代わりに、大切なさやのこの手の温もりを思い出せた。温かくて柔らかで、自分の手の中にすっぽりと包めそうな、少し小さな手の平の温もり。
それが思い出せたから、きっと大丈夫、そう、思えた。
最後は誰だって一人かもしれない
けれどそれは孤独ではない