表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/199

02.夫の様子がおかしいです

更新お待たせしました!

 夢に、ジュリアンルートのとある一場面が出てきた。

 落ち込むエリシャを、ジュリアンが外に連れ出し、星空を見せて励ます場面だ。


 いつもは平静を装っているエリシャだが、本当は、実の家族とバラバラになってしまった事について、寂しさとやるせなさを感じていた。

 傾いてゆく実家を助けることができず、成す術も無く見守る事しかできなかった自分を、責めていたのだ。


 ジュリアンルートは、そんな彼女の心の傷に触れるお話だ。


「――また、エルヴェシウス卿の事を考えているのかい?」

「え、ええ。夢に出てきたから……」


 今は、オリア魔法学園に向かう馬車の中。窓の外を眺めつつ、夢で見た光景を思い出していると、不意にノエルに声を掛けられた。


 夫はいつも通りの麗しい笑顔を浮かべているのだけれど、今はどこか不機嫌さが滲んでいる。

 心なしか、窓の外に広がる空も夫の昏い笑みのように怪しくなっており、今にも雨が降りそうな様子だ。


「ノエル、あのね、もうすぐ学園に着から……離れてくれない?」

「馬車が停まったらね」

「……」


 本当に、学園に着いて馬車が停まれば離れてくれるのだろうか。

 その言葉が信じられないくらいに、ノエルは私の腰に手を回してしっかりと拘束――抱きしめている。


 馬車に乗り込んだ時からずっとこの調子で、腕が疲れてしまうのではないかと、心配になる。

 それに、こんなにもしっかりとくっつかれると、いささか呼吸しづらいのだ。もう少し、腕の力を緩めてくれないだろうか?


 ノエルの腕を叩いて抗議して見ても、ノエルは何を勘違いしたのか、はたまた、わざと気付かないふりをしているのか、ただ口元に微笑みを浮かべるだけで解いてくれない。


「そんなに……、私がジュリアンの夢を見た事が嫌なの?」

「ああ、妻が夢の中で自分以外の男と会ったのだから、不安になってしまうよ」

「私が望んでみた訳ではないわ。夢は不可抗力だもの」


 事の発端は、昨夜見た夢にある。どうやら、私が寝言でジュリアンの名前を呼んだらしく、拗ねているのだ。

 朝起きた時から隙あらばくっついてきて、おかげで、義家族や使用人たちから生暖かい眼差しを向けられてしまった。


 ノエルにも言った通り、夢は見ようと思って見られるものではないのだから、大目に見てほしい。


「いいこと? 夢の内容はいつもと同じ、ウィザラバに関する事なのよ? 私はただ、エリシャの視点で成り行きを見守っていただけだわ」

「ああ、わかっているよ」

「えっと……、それなら、そろそろ放してもらえるかしら?」

「それとこれとは話が別なんだ。理解していても納得できない事があるだろう?」


 と、圧のこもった笑顔で反論してくる。おまけに、腕に力を込めて更に強く抱きしめられてしまう。

 このままだと、朝礼はもちろん、授業までこの状態でついて来そうだ。


(どうにかしないといけないわね。このままついて来られると、またもや生徒たちが噂話を広めてしまうわ)


 そうなると、授業中も休憩中も放課後も、生徒たちが冷やかしてくるものだから、落ち着けないのだ。

 穏やかな労働環境を維持するためにも、ノエルには大人しく離れてもらおう。


「レティが前世で好いた相手なのだから、なおさらだよ」

「言い方に語弊があるわよ」

「概ね合っているだろう?」

「私の『好き』とノエルが言う『好き』は、意味合いが異なるのよ」


 まずは誤解を解かなければならない。ジュリアンはあくまで続編の推しであって、幸せになってほしいけれど、それ以上の感情はないという事を知ってもらおう。


「彼に対する気持ちはね、劇団の俳優や好きな作家を応援したくなる気持ちと同じなのよ」

「応援したくなる、気持ちと同じ……」

「そう。ノエルもそう思う相手は居るでしょう? 想像してみて?」


 ノエルの誤解を解き、推しについてさらに理解を深めてもらう為の、いい作戦を思いついたわ。

 その名も、【イマジネーションで誘☆導作戦】!


 言葉で説明しても共有することが難しい事だから、身近な事柄で想像してもらおう。


「例えば、ノエルがよく論文を読んでいる論文の作者――宮廷魔術師団のソラン団長が講演会を開けば、聴きに行きたくなるでしょう?」

「確かに、まあ、興味を覚えるね」

「でしょう? それに、ソラン団長が遠征に行くと聞いたら、応援したくなるでしょう?」

「遠征の成功を願いたくは……なるかな」

「そうでしょう? 私がジュリアンに想う『好き』は、その感覚と似ているのよ!」

「なる、ほど……」


 腑に落ちたようで、抱きしめる力が少し緩められる。誤解が解けたようで、しめしめと内心ほくそ笑んだ。


「エルヴェシウス卿への想いはよくわかったよ。ところで、私の事はどう思っているんだい?」

「え? ノエルの事?」

「ああ、改めて教えてくれないか?」


 頬を微かに染め、期待を込めた眼差しを向けてくる。紫水晶のような瞳はいつになくキラキラと輝いており、私を捕らえて離さない。

 まるで魔法をかけられてしまったかのように、ノエルから顔を逸らせないのだ。

 つくづく、夫の美貌はもはや最強の武器だと思う。


「ノエルは同じ推しを共有出来て、一緒に現場に来てくれる、善き同担よ!」

「どう、たん……」

「今はノエルが一緒に推し活してくれるから、前よりももっと楽しく推し活ができて嬉しいの!」

「それ、まだ続いているのか……」


 ノエルはまた腕の力を強め、私を引き寄せてしまう。


「善き夫であろうと努力しているのに、何故か同担止まりになっている気がする……」


 私の首元に顔を埋めると、小声で呪文を呟き始めた。


 こっそりと馬車を降りようとしたけれど、ノエルの腕がしっかりと腰に巻きついている所為で、立ち上がれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ