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01.ある少女の記憶【二】 

 瞼を開くと、眼下にオリア魔法学園の庭園が見える。

 【私】は本館の屋根の上に座り、遠くの景色を眺めているらしい。


 どうやら、また、ウィザラバの夢を見ているようだ。

 

「わあっ……! ここから、王都の街明かりが見えるんですね!」


 そう話し掛けると、【私】の隣に居る人物――ジュリアン・エルヴェシウスは、無機質な表情を浮かべたまま頷いた。


 ジュリアンの水色の髪は、静謐な湖を彷彿とさせるような色で美しいが、いささか長く、目にかかりそうだ。


「エルヴェシウス先生、少し失礼します」


 見かねた【私】が自分の髪につけていた髪飾りを外し、ジュリアンの前髪を留めてあげた。

 前髪が留められると、透き通った氷のような美しい水色の瞳が現れる。


 【私】は息を呑み、ジュリアンの水色の瞳を見つめる。


「……エリシャ・ミュラー、俺の顔に何か付いているの?」

「す、すみません! エルヴェシウス先生の瞳の色がすごく綺麗で見惚れてしまいました」

「別に、気にしていないから謝らなくていいよ」


 空を飛ぶ妖精を落とすと褒めそやされている美貌の持ち主は、自分の容姿には無頓着で。

 何故、みんなが自分の顔を見て息を呑むのか、理由がわからない。


 ただ、好奇の目に晒される事を嫌厭している為、人の視線を感じると自然と目を逸らす癖がある。  


 そんな彼が、今は【私】の瞳をじっと見つめ返している。


「俺は、エリシャ・ミュラーの瞳の色の方がずっと綺麗だと思う」

「――っ、あ、ありがとう、ございます……!」

 

 突然の称賛に狼狽えた声を上げる【私】を、ジュリアンは観察し続けている。

 ややあって、【私】の制服の袖をそっとつまんで引いた。まるで、小さな子どもが大人の気を引こうとしているかのような仕草だ。


「少し、元気になった?」

「……え?」

「君は、リア・ルーセルの言葉の所為で、落ち込んでいただろう?」


 月明かりがジュリアンを照らす。

 いつもは無機質な表情を貼り付けている彼だが、今は【私】を気遣う眼差しを向けてくれている。


「励ましてくださって、ありがとうございます」

「……」


 途端に、ジュリアンは眉間に皺を寄せた。まるで、激痛に耐えているかのような表情を浮かべている。


「あ、あの、エルヴェシウス先生が素敵な景色を見せてくださったので、元気になれました」


 【私】は慌てて言葉を続けたが、彼は眉間の皺を深めるばかり。


「……励ましたのではない。罪滅ぼしをしただけだ」 

「罪、滅ぼし……?」


 ジュリアンは黙って、こくこくと頷く。

 月明りに照らされる水色の瞳から、光が失われてしまった。


「君はいつか、私を恨むだろう」

「……え?」


 茫然とする【私】の頬に、ジュリアンの手が添えられる。


「君の家族を離れ離れにしたのは――私だから」

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