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09.二人きりの休日

更新お待たせしました!

本章はこのお話にて完結です!

 週末になり、私とノエルはファビウス侯爵領にある別荘に来ている。


 ファビウス家の別荘は森と湖に囲まれており、自然豊かな場所にある。

 森の木々が湖に映り、幻想的な景色を描いているのだ。そして、湖の水面に浮かぶ睡蓮は、まるで森の中で浮いているかのようで、より非現実的な景色を演出してくれている。


 都会の喧騒から離れ、のんびりと過ごすには、最適な立地だろう。

 

「大きな湖ね。睡蓮が咲いていて綺麗!」

「小舟を用意しているから、後で散策しよう」

「小舟に乗るのは久しぶりだわ。楽しみ!」


 ノエルの案内で別荘の中に入ると、その内装の美しさに思わず溜息が零れた。


 淡いミントグリーンの壁に白いモールディングの装飾が生えており、白い大理石の床にはロイヤルブルーを基調とした上品なデザインの絨毯が敷かれている。


 家具は白地に金色の装飾が施されており、こちらもまた壁の色によく映える。


 王都のお屋敷とも領主邸とも違う趣で、重厚感はないがお洒落で居心地がいい雰囲気だ。


「お洒落な内装ね。ここの家具は誰が選んだの?」

「私だ。レティと婚約している間に少しずつ準備していたんだよ」

「え?! そんなに早くから?!」


 魔術省の仕事やお義父様からの領地運営の引継ぎで忙しかっただろうに、いつこの屋敷の準備をしていたのだろうか。


「レティと家族になれる日が待ち遠しくて、じっとしていられなかったんだ」

「だ、だからと言って、ここまで用意するなんて張り切り過ぎよ!」


 私が家族になることを、こんなにも喜んでくれていたなんて、嬉しさとこそばゆく思う気持ちで胸がいっぱいだ。


「しばらく居間で休む? それとも、小舟で湖を散策する?」

「う~ん、提案してくれるのは嬉しいけれど、今日はノエルのお願いを叶える日だから、ノエルが好きな方にしましょう?」


 ノエルはいつも私の希望を聞いてくれるけれど、ノエルが本当にしたいことを我慢してほしくない。


 今も選択権を私に譲るつもりだったようで、不意を突かれたような表情になっている。


「ふむ……では、小舟の上で昼食をとるのはどうかな?」

「もちろんよ! 準備しましょう」

「ああ、軽食の準備をしようか」


 私たちはさっそく、厨房に行って、軽食の準備をすることにした。


 と、言うのも、今回はノエルの希望で、使用人たちは離れで控えているのだ。

 彼らは別荘に到着した時に挨拶して以来、身を隠してしまっている。


 かくして、今このお屋敷の中には、私とノエルしか居ない。

 広いお屋敷にたった二人きりなんて、かなり贅沢だと思う。


「本当は料理も自分たちでやってみようと思っていたが、料理人たちが用意してくれたようだ」

「え?! ノエルって、料理ができるの?!」

「簡単なものなら、ロアエク先生から教わったから作れるよ」


 学生の頃、ノエルは長期休暇にはファビウス邸にはほとんど戻らず、学園で過ごしていたようだ。

 そんな時、ロアエク先生がノエルを魔法薬学準備室に招いて、昼食やお菓子作りを一緒にしていたらしい。


「じゃあ、夕食は一緒に作りましょう?」

「それなら、夕食の仕込みはしないよう、使用人たちに言っておこう」

「みんな、当主に料理をさせるわけにはいかないと言って慌てそうね」


 いつも機嫌がいいノエルだけれど、今日はとりわけご機嫌だ。

 校外学習や修学旅行ではしゃいでいる生徒たちのように、うきうきとしている。


 そんなノエルを見ていると、釣られて私もはしゃぎたくなってしまう。


「チェリーパイにクッキーにスコーン、ジャムやクリームはもう入れたか――レティ、他に食べたいものはある?」

「もう十分よ。パンやサラダも沢山用意しているから、全部は入りきらないと思うわ」

「あ、レティが好きなフラーグムの砂糖漬けを入れていなかったな」


 ノエルは私の好物を全てバスケットに入れないと気が済まないらしく、ありったけの食べ物を詰め込んだ。

 

 そして、重くなったバスケットを二人で持ち、湖にやって来た。


「少し待っていて」


 少し離れた場所にあった小舟を、ノエルが魔法で動かす。

 水面を滑るようにしてやって来た小舟は、座席や床を敷布やクッションで居心地よくしつらえており、小さなテーブルまである。

 おまけに、いくつもの花で彩られており、とても可愛らしい。

  

 こんなにもお洒落で豪華な小舟を見たことが無く、棒立ちになって見つめてしまう。


「こ、これ、どうしたの?!」

「使用人たちと相談して、レティが楽しめそうな装飾にしてみたんだ」

「わあっ! ありがとう! こんなにも素敵な小舟を見るのは初めてだわ!」


 はしゃいでいると、ノエルははにかんだ微笑みを向けつつ、私を小舟に乗せてくれる。

 

 そうして、私たちを乗せた小舟が、群生する睡蓮の合間を抜けて、ゆっくりと進む。

 ノエルが魔法で動かしてくれているおかげで、快適な乗り心地だ。


「レティ、こっちに来て?」


 ノエルの声が聞こえてくると同時に、ドレスの袖が控えめに引っ張られる。


「た、立ち上がって動くと小舟が転覆しそうじゃない?」

「魔法で安定させているから大丈夫」

「だ、だけど……」


 躊躇う私に、ノエルは両手を広げてスタンバイしている。結局、根負けして立ち上がり、ノエルの前に座った。途端に、ノエルに後ろから抱きしめられてしまい、胸の奥がむずむずとする。


 隙間なく抱きしめられているだけでもそわそわしてしまうのに、ノエルが私の世話焼きに勤しむものだから、さらにむず痒さに襲われる。


 ノエルはクロワッサンや果物を取り分けては、口元に運んで食べさせようとするのだ。


「やっと、二人きりになれた実感がする」

「あら、二人きりになる時間は毎日あるじゃない?」

「二人きりで居る時もあの子たちの事を考えていたじゃないか」


 ノエルの事だから、私の表情のちょっとした変化で、気付いていたのだろう。


「そ、それは……あの子たちがバッドエンドを迎えないように気に掛けておかないといけないから……」


 何かあればすぐにでも駆けつけなければならないと思い、お屋敷に帰って寛いでいる時も、ふとした時にメインキャラクターたちの事を思い出してしまっているのは確かだ。


「彼らの幸せがレティの望みだとわかっていても、たまらなく妬いてしまうよ。だから、ナルシス様をレティから離せて、本当に良かった」

「え?! それって、どういうこと?!」


 問い質そうとすると、ノエルは笑顔でクロワッサンを食べさせてくる。食べ物に罪はないから、仕方がなく食べる。もぐもぐと咀嚼しながらノエルを睨んだ。


「レティはシナリオとやらの流れを妨げられ、私は愛する妻から邪魔者を遠ざけられた。どちらにとっても最良の結果で収められただろう?」

「ナ、ナルシスを謀ったわね!」

「いいや? 彼の活躍を後押ししただけだよ?」


 いつも以上に余裕を醸し出している夫を見て、以前、薔薇の花を見てほくそ笑んでいた理由がわかってしまった。


 一体いつから、ナルシスを国外に出そうとしていたのだろうか。


「レティ、今日はせっかくの休日なのだから、学園の事は忘れよう?」

「その前に、もっと話すことがあると思うのだけれど?」

「今日はレティの時間を全て貰う約束だろう? 他の事を考えず、ただ私を見ていて欲しい」


 ノエルの手が頬に触れ、そのまま顎に添えられる。紫水晶のような瞳の奥で、影のようなものがゆらりと動いた気がした。

 まるで、その影に囚われてしまったかのように、ノエルから目を逸らせない。


「たまにはレティを独り占めしないと、そのうち屋敷に閉じ込めたくなってしまうから」

「じょ、冗談でもない事を言わないでよ」

「私はいつでも本気だよ? 今だって、レティが最後の攻略対象とやらに会うことを思うと、憂鬱でならないんだ」


 だって彼は、レティと年が近いから――。


 そう呟くノエルの声は、珍しく拗ねているようだった。どうやら、まだ会ってもないジュリアンに対して、恨めしく思っているようだ。


「いつになったらレティがシナリオから解放されるのだろう? いっそのこと、シナリオからも生徒たちからも、奪い去ってしまいたいよ」


 ゆっくりとノエルの顔が近づき、唇が触れ合いそうになったその時、幾人もの足音が聞こえてきた。


「あーっ! ここに居た!」


 オルソンの声が、湖中に響き渡る。声がする方に顔を向けると、岸辺にオルソンたちの姿が見える。


「義姉さん! 可愛い義弟を置いて行くなんて酷いよ~!」

「オルソン! ……と、皆も来ているのね?!」


 サラとイザベル、フレデリクとディディエとセザールに、そして、国王になったばかりのアロイスも居る。まるで、前作のメインキャラクターたちの同窓会のようだ。


「……ミカ、この子たちを外に出してくれ。そのまま領主邸に連れて行くといい」

「御意」

「兄さん、国王陛下もいるのにその対応はどうなの~?!」

「今はお忍びなのだから、国王陛下ではないだろう?」


 オルソンがアロイスを盾にして抵抗してみたものの、ノエルはバッサリと切り捨ててミカとジルに命令し、オルソンたちを屋敷の外に出してしまった。


 その後、ノエルは別荘の敷地内周辺に結界を張り、メインキャラクターたちを締め出すのだった。


 ノエルは、オルソンたちが別荘の周辺をうろつくのではないかと警戒し、湖の散策を止めてお屋敷の中に戻ろうと提案してくる。


「今度からはオルソンには知られないように準備をしなければならないな」


 お屋敷の居間に辿り着くと、ノエルが溜息と共に不満を零した。せっかくの時間を邪魔されてしまった、としょげている。


 そんな姿は子どものようで、少し、可愛らしいと思ってしまった。


「じゃあ、損失を補うために――膝枕、しようか?」

「――っ!」


 冗談半分で提案してみると、ノエルが息を呑んで瞠目した。その刹那、窓の外を強風が吹き荒れる。


(も、もしかして、ノエルの動揺が月の力を通して自然界に伝わってしまった――?)


 先ほどまでは穏やかに晴れており、そよ風が吹いていたが、今は森の木々が折れてしまいそうなほどの強風が吹き荒れているのだ。


 以前は自分から頭を乗せたことがあったのに、どうして私から提案すると動揺するのかわからない。


「ま、待ってくれ。その前に少し、瞑想して心を落ち着かせていいだろうか?」

「瞑想って……、いつから修行僧にジョブチェンジしたのよ?」


 そう突っ込みを入れるものの、いつもは飄々としているノエルが顔を真っ赤にするものだから、釣られて私も頬が熱くなってしまう。


 その後、ノエルは壊れ物に触れるように慎重に私の膝に頭を乗せ、照れくさそうに微笑むのだった。


 シナリオから解放されても相変わらず暗躍するし、常に企み事をしている元・黒幕(予備軍)だけれど、私の前ではこうして、無防備に微笑んでくれる。


 本当は、ノエルが私にだけこのような笑顔を見せてくれる度に、震える程嬉しくなってしまう。


(ノエルが私を独り占めしたいと思ってくれているように、私もノエルを独り占めしたいと、思っているのよね)


 きゅっと胸の奥が締め付けられるような感覚がして、彼を愛おしく思う気持ちがとめどなく溢れる。


 浮かれてふわふわとした気持ちのまま、戯れに手を伸ばすと、ノエルは何も言わずに私の手をとり、指先に優しくキスをしてくれた。

実はダヴィッドさん(笑)もこっそりとアロイスについて来ていたのですが、ノエルが結界に付与した魔術のせいで森の中で迷子になったしまったそうです。

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