閑話:気掛かりな事(※ノエル視点)
更新お待たせしました!
昨日更新予定が、言い回しに悩んで遅れてしまい申し訳ありません……。
――『なぜ、わざわざ私に王笏を渡したのですか?』
戴冠式の後、王城にある星の間で開かれたパーティーで、ぺルグラン公を捕まえて問いかけた。
夜の間で王笏を渡してきた時、彼が微かに微笑んでいたのが、どうも引っかかったのだ。
――『何故と仰られても……ただ、ファビウス侯爵が王笏を追っていたから、お渡ししただけです』
――『……』
――『あの王笏は、先ほどの方が強く眩く輝いていましたね』
ぺルグラン公は視線を動かし、招待客たちと話をしているアロイスに投げかける。
その横顔からは、何の感情も読み取れなかった。
◇
戴冠式の後、襲撃犯たちを取り調べた結果、彼らには制約魔法がかけられていた。
特定の話題や内容を話せないようにされており、彼らに指示を出していた人物の名前を聞き出せないでいる。
「精神干渉の魔術を使えば、誓約魔法を打ち消せるだろうか?」
魔法と魔術の打ち消しは様々な要因が働いて決まるが、最も強く影響するのは魔力だ。
魔力が高い者が精神干渉の魔術を行使すれば、誓約魔法を打ち消し、首謀者の名前を聞き出せるかもしれない。
しかし、精神干渉の魔術を使うにはいくつか問題がある。一番大きな問題は、精神干渉による後遺症だ。
罪を犯した者たちとはいえ、取り調べにより精神を壊すわけにはいかない。
そのような事をすれば、国民はアロイスに不信感を抱いてしまうだろう。
「理想的なのは、第三者による誓約魔法の解除ができればいいのだが……、こちらもまた課題が多いだろう」
魔力が強く、かつ魔術に長けており、医学に明るい者であれば、問題なく魔法を解除できるだろうが……。
「王国中のどこを探しても、そのような人物はいないだろうな」
魔術省の仕事で出会った著名な魔術師たちでさえ、難しいだろう。
他に手がないか考えながら学園の回廊を歩いていると、覚えのある魔力が近づいて来るのを感じた。
「主! お待ちください!」
回廊の柱の陰から、セルラノ氏が姿を現わしたのだ。
「……セルラノ氏か。何のようだ?」
よりによって、厄介なセルラノ氏に見つかってしまった。――いや、待ち伏せされていたように見受けられる。
「セルラノ氏だなんて、改まらないでください。私奴のことはぜひ、レイナルドとお呼びくださいませ」
「しかし――」
「ぜひ、レイナルドとお呼びくださいませ!」
ここで断れば、こちらが折れるまで延々と頼み込まれるような気がした。
「……わかった。今後はそう呼ばせてもらおう。――ところで、用件はそれだけではないだろう?」
「ええ、主のお役に立ちたくて、提案をしに参りました」
「提案?」
レイナルドは恭しく跪き、私を見上げた。
忠誠を誓った従者のような振舞いは、芝居がかったようなわざとらしさがない。
これが星の力のせいであるのなら、やはり恐ろしい力だと思う。
「先日の戴冠式で、主のお手を煩わせた罪人たちの親玉を見つけます。――私なら、いかなる手段をつかってでもあの者たちの口から首謀者の名を聞き出せますよ」
「……あの騒動を見ていたのか?」
「いいえ、残念ながら、人伝に聞きました。私が側に居れば、あなたの助けになれましたのに。口惜しい……」
レイナルドは片手を胸に当て、まっすぐに私を見つめた。
「どうか私に、機会を与えてください。星の力はもちろん、治癒師としてでもあなたのお役に立てます」
「……なるほど、今回の件にお誂え向きの人材という事か」
レイナルドは星の力を持つ魔術師で、メルヴェイユ国王に認められるほどの魔力を有している。
おまけに、治癒師として隣国の宮廷病院で働いていたから、医学の知識もある。
しかし、気掛かりなことが一つある。
「以前にも話した通り、私はあなたの主になるつもりはない。今回はいち依頼主として、仕事を引き受けてくれるだろうか?」
「それが主の望みであるのなら、そうしましょう。しかし、いつしか必ず、私を臣下として認めてくださいませ!」
「……私は王にはならないのだが……」
いつしか私が国王になるのだと、一点の疑いもなく信じているのがやはり、気掛かりなのだ。
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