11.探り合い
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一週間以上も空いてしまい、申し訳ございません……。
「今のところ、怪しい人物はいなさそうだけど……不安だわ」
ノエルと一緒に王宮に着いたのはいいけれど、早くも不安になる。
アロイスの即位を祝うために、とにかくたくさんの人が訪れているのだ。
見渡す限りの人、人、人――。
この中から理事長たちの手下を見つけるのは骨が折れる。
「用心するに越したことはないからね。少しでも不審な動きを見せる人物が居たら、近づいて様子を探ろう」
「ええ、そうね。私たちは、私たちができる事を全うしましょう」
今回の作戦では持ち場が決まっている。
私とノエルは貴族たちの監視。
お義父様とルーセル師団長とラングラン侯爵はアロイスの護衛で、お義母様は他の王族たちの監視をしている。
そして、カスタニエさんは神殿付近の警備だ。
「お義母様は、一人で行動して大丈夫なの?」
「問題ない。母上は実家で鍛えられていたから、並大抵の襲撃ならかすり傷一つ負わないだろう」
「え、待って……実家?」
お義母様の実家はヴィアラット侯爵家。
ファビウス侯爵家と同じ騎士の家系で、お義父様とお義母様の結婚は、本人たちが生まれる前から決まっていたらしい。
お義母様は騎士の家系出身とはいえ、騎士になっていないから、戦闘能力は私くらいだと思っていたのだけど――。
「母上は隠密として先々代の国王陛下の下で働いていたんだけど――知らなかった?」
「初耳よ!」
騎士よりも強そうなことをしていたらしい。
この事は、一部の人間にしか知られていないそうだ。
お義母様のことは知っているようで、知らないことがまだまだ沢山あると思う。
「それはそうと、このままではあの二人を見逃してしまいそうだから、少し近づこうか?」
「ええ、そうね」
ありがたいことに、理事長は私たちの後に会場に来たから、居場所を特定できた。
最初はマルロー公と話をしていたけど、今は他の貴族家の当主と話をしている。
その隣には、サミュエルさんも一緒に居る。
前髪を撫でつけ、紺色を基調とした上下を纏い、いつも以上に大人びた装いだ。
正装したサミュエルさんは、学園に居る時とは雰囲気が違う。
柔和な雰囲気は変わらないけど、隙がなくて、微かに凄みを感じさせられるのだ。
さすが公爵家の跡継ぎは風格が違う、と感心した。
大人たちの会話に交じっていたサミュエルさんが、ふと、何かに気付いたような素振りでこちらを向いた。
「ファビウス先生、戴冠式でもお会いできて嬉しいです」
視線が合うと途端に表情を輝かせた。
そんなサミュエルさんの変化に気付き、理事長もまた私たちの方を見る。
「ファビウス侯爵に侯爵夫人、ごきげんよう。今日は見ての通り、天気に恵まれましたね。きっと、今宵の戴冠式は夜の間から綺麗な月と星を見られるでしょう」
「ええ、教え子の晴れの日ですので、天気がよくて安心しました」
夜の間とは、戴冠式が行われる大広間の名前だ。
ノックス王国は夜を崇拝する国だから、大切な儀式や催しは夜に、その広間で行われる。
「ファビウス侯爵、ここは人が多いのでお気を付けください」
「気を付ける、と言いますと?」
「人が多ければ多いほど、澱みが増しますから危険なのです」
意味深な言葉を投げかける理事長の表情はいつも通りで。
思惑があるのだろうが、少しも見当がつかない。
「さっきの理事長の言葉、どのような意味だったのかしら?」
「私たちへの助言なのか、それとも牽制なのか、わからないね」
ただの軽口ではないのは確かだ。
ゲームの理事長は冗談を言うキャラクターではなく、この世界にいる理事長もまた、そのような性格ではない。
「あ! 義姉さんはっけ~ん!」
突然、軽い調子の声が聞こえてきたのと同時に、体を拘束された。
「オルソン! 任務はどうしたの?!」
「うん、絶賛任務中だよ?」
「今の状況はどう見ても任務を怠っているように見えるわよ?」
私に抱きついて、おまけに肩に顎を乗せてじゃれついているのだから、職務怠慢もいいところだ。
今日のオルソンは見習い騎士の正装姿で、いつにも増してカッコいいのに。
ふざけていては、せっかくの正装が台無しだ。
「レティから離れて持ち場に戻りなさい」
「わーっ、兄さん、怖い顔しているよ?」
楽しそうに笑っていたオルソンだが、ノエルによって私から剥がされてしまうと、不満そうに唇を尖らせる。
「ケチ。俺だって正装した義姉さんをもっとよく見たいのに」
「それなら、先程のようにくっつかなくてもよかっただろう?」
「二人とも、せっかくの戴冠式に喧嘩はよくないわ。その辺で止めなさい」
なぜなら、魔性の侯爵と名高いノエルと、薔薇騎士として令嬢たちの憧れを集めているオルソンが並んでいたら目立ってしまい、作戦に影響が出てしまいそうだから。
喧嘩の続きはどうか、お屋敷に帰ってからにしてもらいたい。
「ああ。それでは、私たちはそろそろ王城の中に入ろう」
招待された貴族たちは、戴冠式が始まるまでの間を王城内で過ごす。
その間に、交流したり情報交換をする。
もちろん、私たちは理事長とマルロー公たちを見張るつもりだ。
「……義姉さん、絶対に兄さんから離れないでね?」
「あら、私が迷子になると思ってるの?」
「うん」
「そこは否定してほしかったわ」
ノエルといい、オルソンといい、私を何だと思っているのだろうか。
「義姉さん、どこかに消えてしまいそうで、不安になるから」
「あら、今までにそんなことがあったかしら?」
「あったよ。困っている人を見つけたら、迷わず助けに行くでしょ?」
どうしてか、オルソンの眼差しはいつになく真剣で。
不安そうでもある。
「俺たちが学生のときに義姉さんがしてくれたこと、全部覚えているからわかるんだ。今は無茶なこと、考えていないよね?」
「あ、あら、どうしてそんなことを聞くの?」
「ん~、勘……かな?」
「……私のことを信用していないのね?」
「義姉さんは前科が多いからね~」
「ぐぅっ」
やがて、オルソンは彼を探しに来たフレデリクに見つかり、そのまま連れ去られてしまった。
他作となるのですが、嬉しいお知らせがあります!
このたび、『星詠み侯爵様が守り続けてきた約束の婚礼』が、ミーティアノベルス様より、電子書籍として配信していただくことになりました!
電子書籍版では本編二万文字の書き下ろしと番外編二本を掲載しており、結婚したアデルとクロードの後日談をお読みいただけます!
書影や発売日等の詳細につきましては、後日、活動報告やTwitterにてお知らせいたします。
(キャララフのアデルとクロードを見せていただいたのですが、二人ともとても素敵に描いていただいて感激しました!)
※イラストは表紙のみとなっており、挿絵や口絵はありません
電子書籍化記念でSSを投稿しておりますので、こちらもお楽しみいただけますと幸いです。




