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08.ファビウス夫妻の話し合い

更新お待たせしました!

 セルラノ先生から逃れ、帰宅する馬車の中。

 何故か、ノエルの膝の上に乗せられしまった。


 横抱きにされており、ノエルの顔が目と鼻の先にある。


「ノ、ノエル?! 急にどうしたの?」

「どうしたと思う?」


 またまた逆質問が飛び出してくる。

 わからないから聞いているというのに……。


「とりあえず、下ろして? 最近ちょっと……その、体重が増えたのよ」

「大丈夫。レティは背中に羽が生えているんじゃないかと思うくらい軽いよ」

「お、大袈裟に言わなくていいから……!」


 乙女ゲームの中でしか聞かないような照れくさい台詞を、いざ自分が言われてしまうと甚だ照れくさい。


 この状況に耐えられなくて藻掻いてみるけど、ノエルはにっこりと微笑むだけで全く離そうとしない。


 今日は珍しく、すごく……意地悪だ。


「ねぇ、ノエル……怒っている?」

「ああ、大切な妻が約束を守ってくれないからね」

「や、約束……?」

「たとえ相手が僕の知り合いであってもついて行かないでくれと、以前から言っているだろう?」

「さっきのは、ジルが密偵していた時に偶然セルラノ先生が通りかかって二人きりになったのよ!」


 本当のことだ。

 

 ジルが理事長たちの話を聞きに飛び出し、一人になったところにセルラノ先生が現れた。

 決して、私がついて行ったわけではない。


 紫水晶のような瞳がじっと見つめてくる。

 負けじと見つめ返すと、ノエルはこてんと頭を傾けて肩口に埋めてきた。


「……そう、だったのか。勘違いをしていてすまない。ジルが、レティから離れていると知らせてきたから心配だったんだ」

「わ、私の方こそ……心配させてごめんね」

「レティが謝る必要は無いよ。私が勝手にしていたことだからね」

 

 そう言って、ぎゅうっと抱きしめてくれる。


 まるで、私がちゃんと目の前に居るのを確かめているようで。

 きっと、いてもたってもいられないくらい心配して、駆けつけてくれたのだろう。


「ノエル、心配してくれてありがとう」


 いつ、どこにいても、ノエルは私のことを考えてくれている。


 それだけではない。


 愛していると、

 大切だと、

 眼差しや言葉や、ちょっとした所作で伝えてくれる。


 その愛情に触れる度に、心の中に温かなものが広がる。


 こんなにも優しい愛情をくれるノエルを大切にしたい。

 月の力に悩まされず、温かな陽だまりに包まれて微笑んでいられるような、そんな毎日を送ってほしい。


 心からそう願う。


「ノエルのことは、私が守るからね。もちろん、セルラノ先生からも守ってみせるわ」


 抱きしめ返すと、ノエルが耳元でくすくすと笑う声が聞こえてくる。


「暴走している彼を止めるつもりかい?」

「ええ。止めるか、ノエルに近づけないようにするわ!」

「それは頼もしいけれど……レティが彼の相手をしているのを見ると妬いてしまうね」


 ノエルの顔が近づき、頬にキスをしてくる。

 唇の柔らかな熱が優しく触れる度に、むずむずとこそばゆさがこみ上げてくるけれど――。


 それと同時に、ノエルのことが更に愛おしく思えた。


     ◇


 お屋敷に帰るとほぼ同時に、任務を終えたジルが帰ってきた。

 

 誇らしげに胸を張っており、ノエルを見るなり尻尾をぴんと立てて駆けてくる。

 どうやら、情報収集は上手くいったらしい。


「ご主人様! あいつらは戴冠式の邪魔をしようとしています!」

「な、なんですって!?」


 推しの――アロイスの記念すべき大切な式典を邪魔するなんて絶対に許さない。

 

(何が何でも阻止してやるわ!)


 ジルの話によれば、マルロー公たちは神殿の神官たちを誘拐して成り代わるつもりらしい。


 神官たちは、今回の戴冠式の重要人物たちだ。


 ノックス王国は代々、先代の王が次代の王に王冠を受け継ぎ王位が継承されるのだけど、今回はその先代の王が居ないから大神官から受け取ることになっているのだ。


 神官たちは女神の代理人。


 そんな彼らがアロイスの即位を反対すれば、アロイスは国王になれない。


「あいつらは、トゲトゲした王子を国王にして意のままに動かそうとしています!」


 トゲトゲした王子とは、ジルがバージルにつけたあだ名だ。

 つっけんどんに話すから、そのように名付けたらしい。


「成人していないバージル殿下を敢えて国王にして傀儡にするつもりね」


 アロイスの邪魔をするだけでは飽き足らず、バージルを利用しようとしているなんて許せない。


 おまけに、バージルなら思い通りに動かせるだろうと侮っているのが、もっと許せない。


「おまけに、王宮に居る仲間と手を組んで王笏を偽物にすり替えるそうです」

「王笏……。グウェナエルが女神様から託された魔法石が嵌めこまれている国宝よね?」


 月の力が込められているその魔法石は、王に相応しいものが触れれば輝き、そうでない者が触れれば黒くくすんでしまうと言われている。


 先代の王が触れた時に黒くなってしまい、それ以来、宝物庫の奥深くに隠されていると聞いたことがある。


「ああ、王太子の小僧が触った時に真っ黒になって壊れてしまうように細工した偽物とすり変えるらしい」

「偽物の王笏と神官を用意して一芝居打つつもりか。なかなか面倒なことをしようとしているね」

「なんてことを……!」


 握りしめた拳を、ノエルの両掌が優しく包む。


「大丈夫。こちらには強力な仲間がついているからね」


 余裕綽々に微笑みかけてくるノエルは妖艶で蠱惑的で。

 正義の味方よりも、黒幕っぽく見えてしまった。

暗い話が続いていますが、これから明るくなる予定ですので見守っていただけますと嬉しいです……!

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― 新着の感想 ―
[一言]  末端の神官ならともかく、大神官の顔は知られているだろうから変身薬を使うのかな?  先代の王は王笏が黒くなったのに、誰にも止められなかったのか(  ̄- ̄)
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