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05.続編の黒幕が追加されました

「――あなたの魔力は気高く神聖で、思わずその場にひれ伏したくなります!」

「頼むから、その衝動に耐えてほしい。床に膝を突かないでくれ――止めろと言っているだろう?!」


 五体投地を体現しようとしているセルラノ先生を、慌てて止めているノエル。

 

 ダルシアクさんやユーゴくんを見て来たから、星の力を持つ者はノエルを崇拝する特性を持っているとはわかっているが、これは異常だと思う。


 星の力を持つ者にも、崇拝度に個体差があるようだ。


(このままでは埒が明かないわね)


 セルラノ先生は、ノエルのあらゆる言葉にも感激して奇行に走ってしまう。


 滝のように涙を流すのはデフォルトで。


 歓喜の雄たけびを上げ、

 健やかな表情で両手を胸の前に組んで倒れ、

 挙句の果てに、医務室にある紙と羽ペンを使ってノエルの絵を描き始めた。


「これ、いつまで続くのだろうか……」


 目に見えて、ノエルがやつれてしまった。


 以前から薄々感じていたけれど、ノエルは愛されるより愛したい派で。

 そのため、他人から大きな愛情をぶつけられるのが苦手なようだ。


「あら、誰か来たわ」


 扉を叩く音が聞こえ、思わず返事をしてしまう。


 ややあって、ゆっくりと扉が開いた。


「理事長?! どうして医務室に……いかがなさいましたか?」

「あ、ああ……。サミュエルがここに居ると聞いて……」


 そう言ったきり、理事長は口を噤んでしまった。


 アロイスと同じ、氷のような色彩の瞳が室内をぐるりと見渡す。


「……取り込み中だったようですね」

「……ハッ!」


 後ろを振り返れば、セルラノ先生がノエルの足に縋りついている。

 

 やってしまった、と頭を抱えたくなった。


 続編の黒幕に、なんてものを見せてしまったんだ。私たちは。 


「……」

「……」

「……」

「……」


 気まずい沈黙が流れた後、理事長が重々しく口を開く。


「サミュエルは……いないようですね。失礼します」

「あーっ! 理事長! 誤解です! 戻って来てください! 理事長~!!」


 絶対に、何か誤解している。


 ノエルとセルラノ先生の、普通ではない関係を疑っているような気がしてならない。

 この誤解を解いておかないと、ノエルを見る目が変わってしまいそうだ。


「理事長、私からもお願いです。サミュエルさんのことで伺いたいことがございますから、お時間をいただけませんか?」


 いつも通りなセルラノ先生の声が聞こえてきた。


 セルラノ先生は秒速で涙と鼻水を拭ったようだ。

 まるで何事もなかったかのように、朗らかな笑みを浮かべている。


 驚くべき早業だ。

 

「サミュエルさんは疲れやすい体質のようですが……、なぜ学園にその事を伝えなかったのですか?」

「あの子の希望だからです」


 体が弱いとわかれば、学園は配慮した指導を行う。


 サミュエルさんはそれを制限だと思い、望まなかったそうだ。


「あの子は幼い頃に不自由な生活を強いられてきましたから、自由に憧れているのです」

「不自由な、生活を……」 

「ええ。あの子が実の親から受けていた仕打ちは、目に余るものでした」


 一瞬だけ、理事長の眼差しが鋭くなった。

 

 怒りに似た感情に、中てられそうになる。


(ゲームの理事長にもサミュエルさんが側に居て、同じような想いを抱いていたのかしら?)


 こんなにも理事長に大切にされているのに、ゲームでは名前すら出てこなかったなんて、やはり違和感を覚える。


「理事長は本当に、サミュエルさんを大切になさっていますね」

「独りだった私の元に来てくれた、救いのような存在ですから」


 そう、今のぺルグラン公爵家には理事長とサミュエルさんしかいない。


 先代の公爵夫妻――理事長を引き取り息子に仕立て上げた二人は、不慮の事故で亡くなっているのだ。


 おまけに、義姉はアロイスの母親。

 彼女は成人するとともにぺルグラン公爵家を出て王家に嫁いでいる。


 姉弟仲はとりわけ良いわけでも悪いわけでもなく、淡々としているらしい。


「叶うなら、あの子にはできうる限りたくさんの、美しいものを見て生きてほしいものです。貴族の世界に染めさせたくありませんよ」

「しかし……理事長はぺルグラン公爵家の存続のためにサミュエルさんを養子にされたのでしょう? むしろ貴族の世界に染まってもらわないと生きていけないのではありませんか?」


 セルラノ先生が顎に手を添えて、何やら思案しつつ理事長を観察している。


 その表情は飄々としているようで、隙が無かった。


 先ほどまでの奇行が嘘のようだ。

 別人が憑依したのかもしれない。


「あくまで望みです。――昔、大切な人が私にそう言ってくれたことが忘れられないので、ね」


 大切な人。


 きっと、理事長が復讐を決心するきっかけとなった人のことなのだろう。

 

「だから、美しい世界に変えなければなりませんね」


 それは私たちにではなく、自分に向けた言葉のように思えた。

 

 何かを決心する為に、自分自身に言い聞かせる言葉。


「――それでは、戴冠式でまたお会いしましょう」


 理事長はそう言い残して、医務室から出て行った。

その後、レティとノエルはレイナルドに捕まる前に逃げるのでした。

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― 新着の感想 ―
[一言]  後書き(*´艸`*)  黒幕さん(続編)が黒幕している!((( ;゜Д゜)))  意味深な言葉を残して去って行く理事長。果たしてレティシアはアロイス(推し)の戴冠式(イベント)を守れるの…
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