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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第六章 黒幕さんが、もふもふに嫉妬します
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03.夫のやきもち

更新お待たせしました!

 ジルが腕の中でジタバタと藻がき、逃げ出してしまった。

 温かなもふもふがいなくなった寂しさに打ちひしがれる。


「レティ、どうしてジルを抱きしめていたんだい?」

「だ、だって……もふもふの耳と尻尾が誘惑してくるんだもの」

「誘惑してくる……?」

「実は……ルドライトから来たあの生徒の、ふわふわの触り心地を堪能したくてたまらなくなるのよ」


 ノエルに耳打ちして本当の事を打ち明けた。


 ふわふわとした美しい毛並みの耳と尻尾が目の前で揺れていたら、誰だって触りたくなるはず。

 しかしノエルはすぐには同意してくれず、何やら思案に耽っている。


「……なるほど」


 そう呟くと私の手を取り――、あろうことか、自分の頭の上に乗せてしまった。


「耳や尾は無いが、これで我慢してくれないだろうか?」


 手入れが行き届いてサラ艶の髪は手触りがいいけれど、私が触りたいのはもふもふであって、人の髪ではない。


「嫌よ。もふもふがいい……」

「躊躇いもなくフラれると傷つくな」


 本人は傷ついていると自己申告しているが、顔は笑っている。

 圧のこもった笑顔を向けてきているのだ。


「レティが他のものに夢中になっているとたまらなく妬けるよ」

「ひえっ!」


 たとえノエルが穏やかに微笑えもうと、優しい声で話そうと、黒幕然としたオーラを隠しきれていないのだ。

 どうしても身をすくめてしまう。


「レティ、浮気したら許さないからね?」

「そんなことしていないし、絶対にしないわよ?」


 何をどう見たらそのような考えになったのか、と呆れてしまう。


 一先ず、誤解のないよう念を押した。

 もふもふを愛する気持ちは花を愛でるようなものであって浮気ではないのだ。


 そんな私たちの前に、ユーゴくんがひょっこりと顔を出してきた。


「あ、あのう。面談があるので、夫婦喧嘩は別の場所でしてください」


 気づけばユーゴくんとゼスラとイセニックの三人の視線が集まっており、一部始終を見られてしまっていたのに気がつく。

 

「あ、あの、これは……夫婦喧嘩ではなくて……!」

「いいや、よいのだ。ファビウス先生と伴侶がお互いを信頼し合っているからこその夫婦喧嘩だろう。祖国にいる大じじ様や大ばば様たちがそのように言っていたぞ」


 弁明していると、ゼスラが追い討ちをかけてくるものだから泣きたくなった。

 

「も、もう! 早く面談を始めるわよ!」


 ノエルを追い払いつつ、ゼスラたちを面談室に追いやりつつ、どうにか面談を始める。

 

「二人とも、最近の学園生活はどう?」

「先生方のおかげで勉学に励めておる。誠に感謝する」


 ゼスラは迷いなく良い答えをくれる。

 それでも、教室での彼らの様子を見ていると、何かしら不便を感じているのでは、と勘繰ってしまうのだ。


(我慢、しているのかしら?)


 今の彼らは明らかに、教室で浮いている存在。

 他の生徒たちは話し掛けようとせず、遠巻きに見ているのだ。


 ゼスラが静かな環境を好む性格ならまだしも、彼はそうではないはず。


 というのも、ゲームの中で見ていたゼスラは人と話すのが大好きで、ヒロインのエリシャを通して他の生徒たちと仲良くなると、喜んでいたのだ。


(イセニックや私たちに心配させないようにしているのかしら?)


 ゼスラは王族としての使命感が強く、国民たちを不安にさせないよう、弱さを見せないようにしている。

 

 鷹揚な口調も、悠然とした微笑みも、そのために彼が努力して身に付けた賜物。

 ゼスラは心優しくて責任感があり、努力家でもあるのだ。


(ゲームでは、理事長がゼスラの責任感の強さを利用していたのよね)

 

 誰にも言わずに自分に協力すれば、お兄さんの呪いを解く方法を教えると、話を持ち掛けたのだ。

 藁にも縋る思いでその提案を受けたゼスラは、誰にも言わずに一人で全てを抱え、理事長の復讐に加担する――。


(止めなきゃいけないわ)

 

 理事長がゼスラの心に踏み入れて来ないように、まずはゼスラが周囲を頼れるようにして、孤立を防ごう。


「ゼスラ殿下、ここではあなたは私の生徒よ。だから、あなたは師を頼る権利を持っているの。それを遠慮して無下にしないようにね」

「頼る権利……か。ファビウス先生の心遣いに感謝する」


 ゼスラはいつものように微笑んで答えてくれた。

 しかしその隣で、イセニックはただただ静かに、眼差しに抗議の気持ちを込めて私を睨みつけていた。


     ◇


 面談が終わるり、ノエルと一緒に帰路につく。

 ノエルは馬車に乗り込むと両手を広げて何やらスタンバイしている。

 

(まるで「飛び込んで来い」と言っているようだわ……)


 ノエルは育ちが良いから、そのような命令口調では言ってこないのだけれど……。

 要は、抱きしめてほしそうな顔でこちらを見ているのだ。


「ノエル、どうしたの?」

「生徒に妬かなかったのを労ってほしい」

「……はい?」

「妻がルドライト王国の青年にうつつをぬかしているのを見るのは酷な事だったよ」

「あ、あれは、もふもふの耳と尻尾が誘ってくるから……!」


 とはいえ、イセニック(の、耳と尻尾)に熱い視線を送っていたのは事実だ。

 途端に後ろめたさを感じてしまい、大人しくノエルの腕の中に納まった。


「本当は、レティがアロイスの姿絵を見つめているのもたまらなく妬けるんだ」

「そ、そう言われても……」


 私が私室に置いている、アロイスの王太子就任記念の姿絵の事を言っているのだろう。


 推しを愛でるのは愛であるが恋ではない。

 そう説明しているのだが、文化の違いなのか、ノエルにはわからないようだ。


(ノエルも同じことをしてみたらわかってくれるかしら?)


 ふと、そのような考えが思い浮かぶ。


 思い立ったが吉日だ。

 その名も、【推し活☆レクチャーで理解を深めよう作戦】!

 

 ノエルに推し活の事を理解してもらおう!

 丸一日かけて、私なりの推し活をノエルに伝授するつもりだ。


「わかったわ。それなら、この週末は二人きりでお屋敷に籠りましょう。ノエルと一日中、一緒に過ごしたいの」

「レティ……! とても素敵な提案だね。週末が楽しみだよ」


 ノエルは安堵したような笑みを浮かべて抱きしめてくれた。

 額にはゆっくりと、喜びを伝えるように丁寧にキスをしてくれるものだから、胸の奥がくすぐったくてむずむずとする。


「何をして過ごしたい?」

「二人で一緒に鑑賞会をしましょう」

「鑑賞会? 何を見るんだい?」

「もちろん、アロイスの姿絵よ!」

「?!」


 ノエルは文字通りあんぐりと口を開けて固まってしまっている。

 ちゃんと息をしているのか心配になるほど、身動きひとつしない。


「一緒に推しを拝んで同じ気持ちを分かち合いましょう」

「確かに同じ気持ちを分かち合っていきたいが、そこでなぜアロイスが出てくる?」

「だって私たち、同担なんだもの!」

「同担……」

「ええ、同担!」


 何故かノエルはがっくりと項垂れてしまった。


「どうしてそう解釈するのだろうか……」


 肩に顔を埋めたまま、ぶつぶつと小さな声で呟いている。

 鑑賞会は断られてしまったが、週末は一緒にお屋敷の中でのんびりと過ごすことになった。


(鑑賞会を断られたのは残念だけど、週末にダラダラできるなら……まあ、よしとするか)


 週末の予定にわくわくとして帰宅すると――、ファビウス邸では、新たな事件が待っていたのだった。

いつも読んでいただき誠にありがとうございます!


3/31まで、前作『このたび、乙女ゲームの黒幕と婚約することになった、モブの魔法薬学教師です。』の同人誌一巻をBOOTHにて販売しております。

(詳しくはTwitter@yaanagiiiiをご確認くださいませ)

在庫が残り十冊を切りましたので、ご購入を検討されている方はお早めに!

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― 新着の感想 ―
[一言]  温かなもふもふがいなくなった寂しさに打ちひしがれる。→その気持ち、良く分かります!(∩´∀`)∩  アロイスの絵姿は王太子就任記念(公式)だけでなく、非公式なお土産品的な絵姿も有りそうで…
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