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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第六章 黒幕さんが、もふもふに嫉妬します
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01.留学生は王子様

「レティシアさーん! こーんーにーちーはー!」


 ユーゴくんの元気な声が廊下に響く。

 生徒たちに手本として聞かせたくなるような気持ちのいい挨拶だ。


 輝くような笑顔で駆けて来るワンコ系イケメンのユーゴくん。

 いつもながら、犬の耳と尻尾の幻覚が見えてしまうほど懐っこいオーラを振りまいている。


「ユーゴくん、お仕事お疲れ様」

「まだまだこれからですよ。先ほど学園長とのお話が終わったので、今からゼスラ殿下たちに会いに行くところです」


 ユーゴくんの担当は外国人留学生のサポート。

 かつてダルシアクさんがオルソンの様子を見に来ていたように、ユーゴくんもまた定期的に留学生たちの様子を見に来ている。


「あら、それなら一緒に教室に行きましょう。これからホームルームがあるから、終わったら二人に会えるわ」


 彼が担当する留学生たちはどちらも私が担当する学級に居るのだ。

 

 ルドライト王国の第二王子、ゼスラ・ルドライトとその侍従のイセニック・ストレイヴ。


 二人の出身であるルドライト王国は長らく鎖国していた獣人の国だ。


 ノックスからうんと遠くにあるその国は独自の文化を築き上げており、他国から一目置かれているのだけど――長らく鎖国していたのだ。

 獣人たちは人間よりも遥かに強い力を持っているため、その力が原因で他国との摩擦が起きるのではと考えたルドライト王国の国王陛下が鎖国を決断したのだ。


 しかし昨年、ノックスにだけ交流の門を開き外交が始まり、二人が留学してくることになった。


「最近の二人はどうですか?」

「う~ん……実のところ、まだ周りと打ち解けられていないようなのよねぇ」


 この世界では獣人はルドライト王国にしかいないから、獣人も人も、交流に慣れていなくてぎこちないのだ。


 ノックス王国の生徒たちも留学生の二人も、お互いの出方を窺っているように見える。


(ゲームでは、エリシャが入学してきた時もまだ二人は周囲に馴染んでいなかったわね)


 留学生のうちの一人、ゼスラはウィザラバ続編の攻略対象の一人だ。

 ドラゴンの血を引いているため、彼の金色の瞳にはドラゴンと同じ縦長の瞳孔がある。

 黒に近い紺色の髪を束ね肩に流しており、つねに悠然とした笑みを浮かべているためか年長者らしい落ち着きがある。


(実際に、ゼスラはの年齢は百五十歳だから人間より大人よね?)


 ドラゴンの獣人たちにとって百五十歳が子どもなら、人間なんて赤ちゃんのように思えるだろう。

 しかしゼスラは他の生徒たちを下に見るわけでもなく対等に接している。


 同級生たちに気さくに話し掛けているところを見かけるからすぐに打ち解けそうだったのだけれど――。


(問題はイセニックの方なのよねぇ……)


 イセニックは攻略対象ではないが、ゲームでは存在感を放っていた。

 プレーヤーの中には彼に恋をした者もいるくらいだ。


 狼の血を引いており、精悍な顔立ちをしている青年だ。

 白金色の髪を刈り上げており、灰色の瞳が猛獣らしい威圧感を漲らせている。


 なによりも特徴的なのは彼の髪の色と同じ白金色のふわふわの犬耳と尻尾で。

 イセニックの感情に合わせてもふもふと動くのが見ていて可愛らしいのだ。


(実物を見ると想像以上にもふりたくなるから困るわ)


 生徒を邪な目で見てしまうなんて教師失格だ、と自分を諫めて我慢しているのだけれど、イセニックの耳や尻尾が動くのを見る度にもふりたい衝動に駆られそうになる。


(ジルが側に居てくれてよかったわ。そうでないと、今頃私は衝動に負けてイセニックを思う存分にもふっていたでしょうよ)


 もふりたい衝動に負けそうな時はジルを抱きしめて鎮めているのだ。

 ジルはうにゃうにゃと文句を言うけれど、これも見張り役の務めと割り切って大人しく抱っこされてくれている。


「彼らが他の生徒たちと仲良くなるきっかけが必要ですね」

「そうねぇ……じゃあ、懇親会を開きましょう!」

「わあ! いいですね! 楽しそう!」


 ユーゴくんの表情がぱあっと明るくなり、瞳がきらきらと光っている。

 このように感情が全て顔に出てしまうのをダルシアクさんが気にしていたけれど、私は反対に、ユーゴくんの長所だと思っている。


「ラクリマの湖でピクニックするのがいいわね」

「ピクニックするの初めてなんで嬉しいです!」


 ユーゴくんは飛び上がって喜んでくれた。

 尻尾があれば、ぶんぶんと大きく振っていそうだ。


(喜んでくれてよかったわ。ユーゴくんが王都に慣れるきっかけにもなってくれたらいいのだけれど……)


 明るく振舞っているけれど、ユーゴくんもまた、ダルシアクさんと同じように孤独を抱えているように見えるから――。


「ユーゴくん、何か食べたいものがあったら言ってね。食堂の料理人に言ってランチバスケットの中に入れてもらうわ」

「やったー! 肉が食べたいです! 肉!」


 懇親会の予定が決まってうきうきとしているユーゴくんは、スキップしながら教室までついて来たのだった。


次話、ゼスラとイセニックの登場です!

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― 新着の感想 ―
[一言]  もふ…もふ、ふわっふわの白銀もふもふ…(〃艸〃)  ジルは?ジルは何処ですか!?(゜∀゜ 三 ゜∀゜)くっ、ジルが居ないとなるとこのもふもふ欲を静める為にはユーゴを撫でるしかっ!!?
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