10.救世主の登場
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ぎゅっと目を閉じて攻撃魔法に備えていても、いつまで経っても魔法がぶつかる気配がしない。
(……あれ? 何も起きていない?)
うっすらと瞼を開くと、目の前には魔法でできた盾がある。
さらにその前には、あろうことかアロイスが私たちを庇うようにして立っているのだ。
「アロイス殿下! なんてことを!」
守るべき人物に守られてしまうなんて迂闊だった。
いてもたってもいられず、魔法の盾を解除するようアロイスに頼もうと口を開いたその時、信じられない光景を目にする。
「アロイス殿下が二人いる!?」
片や黒装束の面々を一人残らず拘束し、片や声を張り上げて、駆けつけてきた騎士たちや魔術師たちに指示を出しているのだ。
どちらも私の知るアロイスの見た目をしており見分けがつかない。
目の前で何が起きているのかてんでわからず、ただただ困惑する。
「救護班を呼んでルーセル卿の手当てを!」
アロイスの張り詰めたような声にはっとして部屋の中を見回せば、ニコラ様が床の上に座り込んでいる。
敵との戦いで負傷したようで、ルーセル師団長に体を支えられており苦しそうに顔を歪めている。
突然の襲撃からアロイスを守って負傷したようだ。
(まさか、この黒装束の集団が例の魔術師たち……?)
拘束された犯人たちはフードを剥がされていて、顔がよく見える。
魔術師というよりヤクザやごろつきという表現が似合いそうな面々で、じっと見ているといちゃもんをつけられそうだ。
彼らの身柄は騎士たちに引き渡された。
これから事情聴取を行い、成り代わられてしまった人たちを探すことになるそうだ。
ホッとして胸を撫で下ろしていると、妖精たちがふよふよと飛んできた。
『レティシア~! 無事~?』
『僕たち頑張ったの~!』
『褒めて褒めて~!』
小さな戦士たちは誇らしげに胸を張り、私の言葉を待っている。
「あら、みんなは王城の見学に行って約束を破ったじゃない」
『違うよ~。お仕事した~』
『僕たち、王宮に居る人みんなに変身解除の魔法をかけたの~』
妖精たちは小さな頬をぷっくりと膨らませて抗議し始めた。
「本当ですよ。この子たちが協力してくれたんです」
そう言って、遅れて現場にやって来たセザールが妖精たちを擁護する。
宰相補佐官らしいかっちりとした装いのセザールは、学園に居た頃よりも頼もしく見える。
学園を卒業するとみんな一気に大人になったような気がして、嬉しく思うのと同時に、寂しさも少し覚える。
「そうだったのね……。みんな、ありがとう」
駆けつけてくれたのには感謝しているけれど、疑問が一つ残る。
「アロイス殿下からは、みんなが王城にいると聞いていたのに、どうしてここに来てくれたの?」
尋ねてみても、妖精たちは明後日の方向を向いて答えてくれない。
妖精は気まぐれな生き物だから仕方がないのだけれど、彼らの所為で絶望を味わったこちらの気持ちをわかってほしいものだ。
(……まあ、結果オーライよね)
最終的には助けてもらえたのだからよしとしよう。
潜伏していた魔術師たちを見つけ出して、アロイスとルーセル師団長を守れたのだから。
(それにしても、どちらが本物のアロイスなのかしら?)
アロイスのファンとしては大変恥ずかしい事なのだが、全く見分けがつかないのだ。
じっと見つめていると、魔術師たちを捕らえている方のアロイスと視線が絡み合う。
「無事でよかった」
ずんずんと近づいてくる彼を見て――思わず後ずさってしまった。
「先生?」
「な、何かしら?」
近づかれる度にそれとなく後ろに下がるが、どれだけ距離を空けても埋められてしまう。
あっという間に背に壁がぶつかり、アロイスに壁ドンされるという状況になってしまった。
推しの過剰摂取で体が支障をきたしそうだ。
心臓はすでにおかしな音を立てていて、今にも爆発しそうなほど脈打っている。
(この人……絶対にアロイスじゃないわ!)
アロイスなら人を壁際に追いやらないはずだ。
そうとわかっているものの、相手の外見がアロイスにそっくりで混乱する。
「あなた……は、アロイス殿下ではありませんね?」
「誰だと思いますか?」
逆質問する口振りには覚えがあり、偽アロイスの正体がすぐに分かった。
「ノエルでしょう?」
「正解」
ノエルがパチンと指を鳴らせば、アロイスの顔がノエルの顔へと変わってゆく。
どうやら魔術を使って姿を変えていたらしい。ノエルにしては珍しく、指輪や腕輪などの装飾品をいくつもつけている。
恐らくは、魔術の補助をする魔術具の類だろう。デザイン性はなくシンプルなものだが、ノエルが身に付けているとお洒落なデザインに見えてしまう。
「レティが無茶をする前に先手を打ててよかった」
「……はい?」
聞き捨てならぬ台詞に目を瞬かせる。
いつの間にか私は、ノエルに何かしら先手を打たれたらしい。
「レティが学園で聞いた会話をもとに潜伏している魔術師たちを炙り出すことにしたんだ」
「何ですって?!」
「魔法薬学準備室の妖精たちにはケーキ一年分で私たちと共に魔術師たちの捕縛と魔法の解除に協力してもらった」
「ええ~っ?!」
アロイスがいきなり宮廷魔術師団の施設にやって来たのも、妖精たちがセザールについて行ってしまったのも、全てノエルの計画なのだという。
ノエルの計画では妖精たちに変身魔法を解く魔法を王宮中にかけてもらい、正体を明かされた魔術師たちが躍起になってアロイスを襲おうとしているところを捕まえようとしていたらしい。
そこで、ノエルはアロイスに変身してアロイスの代わりに執務室に居て待ち構えていたようだ。
それにも拘らず、計画通りに行かず一喜一憂していた私は、元・黒幕(予備軍)の手の内で踊らされていたらしい。
「優秀な使い魔からの情報提供のおかげで助かったよ。レティは私に黙って危険に突っ込んでしまうからね」
ノエルの言葉ですべての出来事に合点がいく。
いつも一緒にいるからすっかり忘れていたが、ジルはノエルの使い魔で。
ジルが見聞きした情報は全てノエルに筒抜けなのだ。
「ジ~ル~?」
足元に居る小さなふわふわの諜報員をギロリと睨みつけると、相手はそっぽを向いて口笛を吹き始めた。
「魔術師たちとは後でじっくりと話をさせてもらうよ。妻を危険に晒した罪は重いからね。しっかりと反省してもらうつもりだ」
「ひえっ」
夫はいつもの麗しい笑みに真っ黒なオーラをのせている。
彼に尋問された魔術師たちがその後どうなったのかは、誰に聞いても教えてもらえなかった。
5月まで仕事の繁忙期のため更新が不安定になりますが、できるだけ毎日更新できるよう執筆していきますのでお待ちいただけますと嬉しいです……!
また、Twitterに猫の日のお話を投稿していますので(とても簡易なものですが)よろしければ読んでください!
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