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このたび、乙女ゲームの黒幕と結婚しました、モブの魔法薬学教師です。  作者: 柳葉うら
第五章 黒幕さんが、羨ましそうにしています
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02.予期せぬ来訪者

「ルーセルさん、今はどのような練習をしているのかしら?」


 放課後になり、リアが魔法薬学準備室に来てくれたから現状を聞いてみた。

 リアは普段は元気いっぱいなのだけど、魔法の事となるとちょっぴり自信が無さそうだ。


「えっと……、的を用意して当てる練習をしています。でも……思うようにいかないんです……」


 声が尻すぼみになっており、テーブルの上に置いた手をいじいじとしては不安を紛らわせている。


「お兄様は歩き始めた時にはもうできていたことなのに、私はいつまで経ってもできません……」


 ナルシスは天才だが努力家であり、そのためか魔力をコントロールできない妹に苛立ちを覚えていた。

 それなのに両親と祖父は妹に甘く、「リアが魔法を自在に操れるようになるまで見守ろう」と言われたのが気に食わなかったのだと、ゲームの中でエリシャに吐露していた。


(ナルシスは、周囲の大人たちがリアを話題にしてルーセル家の悪口を言うのを聞いて、プライドを傷つけられていたのよね)


 ルーセル家の人間ということを誇りに思っているナルシスは、落ちぶれた名家と囁かれることに憤りを覚えていた。

 その矛先がリアに向かってしまい、二人の関係は悪化の一途をたどったのだ。


「焦ってしまう気持ちはわかるわ。だけどね、魔力の扱いには個人差があるの。その事を覚えておいて」

「はい……でも、私がちゃんとできていないと、ルーセル家が落ちぶれたと噂が立つんです。私の所為で両親や祖父まで悪く言われたくないんです!」


 拳をぎゅっと握り、強い光を宿した眼差しを向けてくる。

 そんな彼女を見ると、いかに家族のことを大切に想っているのかがわかる。


(リアもナルシスも家族を大切に想っているのにすれ違ってしまうなんて皮肉だわ)


 リアもナルシスも家族を大切に想っているのだから、魔法のことさえなければ分かり合えると思う。

 そのためには、何かきっかけとなる出来事が必要になるだろう。


「それなら、噂をする人たちを見返してやりましょう。だから学園で魔法について誰よりも学びなさい。それがいつか何かしらの形でルーセルさんの助けになるわ」

「……はい。いつか、みんなのように魔法を使いこなせるといいのですが……」


 リアは眉尻を下げて肩を落とす。


「大丈夫よ。ルーセルさんは今、できるようになるために準備をしているのですからいつかその努力が実を結んでくれるわ」


 しょんぼりとしているリアを宥めつつ魔法の練習について話していると、扉を叩く音がした。


(ノエルかしら?)


 いつもより少し早い到着だと思いつつ返事をすると扉が開き――。


「メガネせんせー……あっ、もうメガネをかけていないんだった! ファビウスせんせー、お久しぶりです!」


 そう言って、サラが元気よく姿を現わした。


「リュフィエさん! 遊びに来てくれて嬉しいわ」

「へへ、実は初めての長期遠征があるので、出立前にせんせーの顔見たくなって来ちゃいました」


 サラが着ている宮廷魔術師団の漆黒のローブが、彼女の動きに合わせてひらりと揺れる。

 部屋の中に入って来たサラは、私の後ろに居るリアを見てぱあっと顔を輝かせた。

 

「あ! リアちゃん! ここに居たんだね!」

「あら、二人は知り合いなのね」

「うん、友だちなの!」


 ルーセル師団長の紹介で、サラが学生の頃から交流があったようだ。


(旧作のヒロインと新作の悪役令嬢が知り合いになるなんて意外だわ)


 リアはサラに懐いているようで、サラを見るなり抱きついており嬉しそうだ。


 再会の挨拶を済ませたところで、私たちはお茶をしつつサラの近況や、同じ宮廷魔術師団に所属しているディディエやの活躍ぶりを聞かせてもらった。


 三人でちょっとしたお茶会を楽しんでいると、またもや扉が叩かれる音がする。

 返事をすれば今度こそノエルが扉を開けて部屋の中に入ってきた。


「おや、リュフィエが遊びに来てくれていたんだね」

「ファビウス侯爵やっほー! そう言えば、ジーラが例の件、近々報告するって言っていました!」

「例の件?」


 何のことなのか全く思い当たらず、思わず聞いてしまったのだけど、ノエルもサラも人差し指を立てて口元に当てて見せてくるだけで教えてくれない。


 サラ曰く、重要な任務だから教えられないそうだ。


(魔術省絡みの話なのかしら?)


 それなら話すわけにはいかないかと思い、それ以上は聞かなかった。


「そうだ! ルドゥー先生に聞きたいことがあるので、もう行きますね!」


 サラは用事を思い出したようで勢いよく立ち上がり、魔法薬学準備室を出た。


「相変わらず嵐のようだね」

「そうね。元気を分けてもらえたわ」


 ノエルと二人でクスクスと笑っていると、ふと、リアがぼんやりとした表情で扉を見ているのに気付いた。


「ルーセルさん?」

「あ、すみません。考え事をしていました」


 リアはティーカップを包むようにして持ち、視線を落とす。


「サラちゃんは学生の頃から活躍していてすごいなって、いつも思うんです。私は何もできていないのに……」


 二人が出会った時には既に宮廷魔術師団に内定していたサラは、週末や休暇の間に少しずつ仕事に加わっていたのだ。

 そんな姿を見てきたからなおさら焦っているのだろう。


(リアに何かしらの成功体験をしてもらった方がよさそうね)


 自分にも魔法で成せることがあるのだと実感してもらった方が、自信にも繋がるのかもしれない。


 何がいいだろうかと考えた時、頭の中に案が閃く。


「ルーセルさんにもできる事があるわ。回復薬を作って、リュフィエさんに渡しましょう!」


 長期遠征には必需品だし、学園の設備を使えば作ることができる。

 

 我ながら名案だ、と自画自賛していると、なぜかノエルが物言いたげな表情で見つめてきた。

ノエルの心境はいかに、ですね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  自分との時間が減る……と思っているに一票(≧∇≦)b  もしくはまた生徒を優先して!かな?
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