01.空元気な悪役令嬢
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ボンッと大きな爆発音がして、実験室が騒然とする。
(今日も派手にやったわね……)
生徒たちを宥めつつ、もくもくと立ち上る怪しい色の煙を風魔法で窓の外に流してから、壊れた大釜を直す。
そして、真っ黒こげになった机の前でわなわなと震えている赤い髪の女子生徒に視線を向ける。
「ルーセルさん――」
「すみませんっ! また魔力の調整ができませんでしたっ!」
きーん、と耳が痛くなるほどの大きな声が教室中に響く。
声の主、リア・ルーセルは続編の攻略対象の一人であるナルシス・ルーセルの妹。
さらに補足するとルーセル師団長の孫であり、続編の悪役令嬢でもある重要人物。
真っ赤な髪に緑色の瞳を持ち、ゲームの中で見た通りの容姿なのだけど、雰囲気はかなり違う。
私の知るリアはツンと澄ました顔をしていて、ことあるごとにヒロインのエリシャに嫌味を言ってくる陰湿なキャラクターだった。
「リーセルさん、落ち着いて。まずはあなたに怪我がないか確認するのが先よ」
「私なら大丈夫ですっ! この通り、傷一つありませんっ!」
しかし、目の前に居るリアは明るく元気でちょっぴりドジっ子で、正反対の印象なのだ。
(まるで別人のようだわ。あの事件のせいであんなにも性格が変わってしまうのね)
もうすぐ起こるであろうおぞましい事件がある。
それは旧作と続編の間の期間に起こった暴動で、アロイスの即位に反対した貴族派閥により起こされたものだった。
その事件の所為でリアとナルシスは家族を両親と祖父を失い――、それをきっかけに兄妹仲が拗れてしまう。
(もとより、「天才の兄」と「落ちこぼれの妹」と言われている所為でぎくしゃくしているそうなのよね)
ルーセルは名門魔術師家で、一族から幾人もの優秀な魔術師が輩出され各方面で活躍している。
攻略対象のナルシスも幼い頃から天才と謳われており、今は隣国のディエースにある魔法学園に招待されて留学しているところだ。
(だけどリアはまだ、魔力のコントロールが上手くできない。魔力を自分の物にできていないのよね)
個人差があるものだから仕方がないことだが、魔術師の名家ともなるとそう言っていられないらしい。
ルーセル師団長の孫娘としてリアに期待していた者たちは、彼女が魔力を暴走させた途端に「落ちこぼれ」の烙印を押した。
「ちゃんと魔力を抑えるよう頑張ったんですけど……どうしても上手くいきません……」
ぽそりと呟かれた言葉に、リアの心の叫びが込められているような気がした。
「助けて」と、口にはせずに心の中で何度も叫んでいるように思えてしまう。
(魔術師の名家出身だからなおさら、魔法のことで人に助けを求めるのが難しいようね)
これ以上落ちこぼれと言われないよう気を張って、心を擦り減らしながら藻掻いているところなのだろう。
バカにされ、傷つけられ、それでもリアはあの事件が起こるまでは捻くれずひたむきに努力を続けてきたのだから。
その証に、目の前に突き出されているリアの手には治りかけの傷がある。
貴族令嬢であるのにも拘わらず、いくつもの怪我の痕があるのだ。
「あなたが頑張っているのは知っているわ。だから一緒に、これからどうしていくかについて話をしましょう。今日の放課後、魔法薬学準備室で待っているわ」
「え、あ、はいっ……!」
リアはこくこくと首を縦に振る。
その緑色の瞳がきらきらと光っているように見えて、少し安心した。
(さて、どうしたものかしら?)
授業を終えた私は、魔法薬学準備室の机の上に突っ伏して小さく唸る。
リアの魔法については、私ができる限りサポートしよう。
……問題は、これから起こるであろう暴動から彼女の家族を救うことだ。
名門のルーセル家の魔術師たちが対処できなかった暴動に、ただのモブである私が太刀打ちできるわけがない。
うんうんと悩んでいると、ジルが机の上に飛び乗って目の前にやってくる。
「やい、小娘。一人で悩むなよ」
そう言うと小さな胸を張って、ふふんと得意げな顔をする。
「悩んだときはご主人様に相談しろ! なぜならご主人様は――」
そして、ノエルがいかに偉大な存在であるのかを延々と語り始めてしまった。
新作の攻略対象ナルシスはウィザラバのプレイヤーたちから「ナルシスト先輩」と呼ばれて愛されているそうです。
ナルシスト先輩が出てくるのはもう少し先になります(*´艸`*)
そして、勢いで書いた新作がありますのでお時間がありましたら読んでいただけますと嬉しいです!
(※完結済です)
異世界から現代に転生したもと主従の二人を描く現代ファンタジー(恋愛)作品です。
短いのでサラッと読めます!
『午前0時の異世界配信、王子様は今日も通常運転です。』
https://ncode.syosetu.com/n8235hl/




