表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/199

12.お説教終了

「あ! もうこんな時間なんですね!」


 エリシャは魔法薬学準備室の壁にかかる時計を見るなり慌てて立ち上がる。

 隣に居るバージルの肩を叩き、彼も立ち上がるように促した。


「バージル殿下、早く帰らないと夕飯に遅れてしまいます!」

「あ、ああ。そうだな」


 魅了の呪いを解いてから、今日で一週間目になる。

 瓶底メガネをとったエリシャは大変身を果たし、同級生の男子はもちろん、学校中の生徒たちに「あんなに可愛い子がいたのか?!」と騒がれているところだ。


 たかがメガネ。

 されどメガネ。


 メガネ一つで魔法がかけられたように印象が大きく変わるなんて、この世界はやはり乙女ゲームの世界なのだと改めて実感した。


(あらまあ、バージルは嬉しそうね。ニヤけているのが隠せていないわよ)


 急に周りの反応が変わって困惑しているエリシャの側にはいつもバージルがいる。

 番犬の如くエリシャを守り、彼女に声を掛けようとする男子生徒に威嚇しているのだ。 


 そんな二人は魔法薬学準備室に遊びにきてくれるようになった。

 一緒にいるようになってから二人は仲良くなったみたいだけど、恋人のような雰囲気になることはなく……、今はまだ知り合い以上親友未満といった印象を受ける。


 それでもバージルはエリシャと話せるようになったのが嬉しいようで、以前より笑顔でいることが多くなった気がする。


「それでは先生、ファビウス侯爵、お邪魔しました」

「ええ、また明日ね。気を付けて寮に帰るのよ」


 ノエルと一緒に手を振り、部屋を出ていく二人の背中を見送る。


「二人の間にあった壁が取り払われてよかったわ」

「……そうだね」

「なんだか釈然としていない顔ね?」


 あまり感情を表に出さないノエルにしては珍しく、顔にはでかでかと「不服だ」といった表情が浮かんでいる。


「ああ、思ったより結果が芳しくなかったからね」

「結果?」

「敢えてミカを外させてバージルに活躍させたのだが、それでもエリシャさんは依然としてミカに惚れてしまっているようだね」

「ノ、ノエル? まさか、バージル殿下の恋を応援していたの?!」


 助言をしたとは言っていたけど、それがまさか恋愛の助言だったなんて、想像すらできなかった。


「ああ、二人が早々にくっついたらシナリオとやらが変わって早く終わりを迎えてくれるかもしれないと考えているんだ」

「!」


 続編の終わり。

 私はバッドエンド回避のことばかりを考えていたのだけど、ノエルはそもそも続編のシナリオ自体を壊して終わらせようとしている。


「レティが最悪の結末に不安を感じているのなら、その元凶を絶ちたいと思っているんだ」

「元凶を絶つ……」


 夫の黒幕的な発想に戦々恐々としてしまった。

 ぶるりと震える私を、ノエルは微笑みを浮かべて抱きしめる。

 その笑顔が少し怖いと思ったのは秘密だ。


「安心して。そのためだけに二人をくっつけようとしたわけではない。バージルは話してみたら根は良さそうだから、可愛い弟の恋を応援したいと思ったのも事実だよ」


 旧作の黒幕と続編の攻略対象の交流。

 ゲームでは無かった展開もまた、シナリオを揺さぶるだろう。


(森であの魔物に遭遇したように、予測不可能な事態が起こりそうね)


 なにはともあれ、ノエルの協力のおかげでエリシャの呪いを平和的に解くことができた。

 理事長のように呪いを受けることも無く、みんな無事だ。


「ノエル、エリシャを助けてくれてありがとう」


 お礼を言うと、ノエルは柔らかく微笑んだ。


「どういたしまして。頑張ったからご褒美をもらってもいい?」

「ちゃっかりしているわね。何をご所望なの?」

「罰の撤回。出発前のキスを再開してほしい」

「……っ」


 どうしてこの夫は、出発前のキスに拘るのだろうか。

 せっかく朝の心の平穏を取り戻せたのに再開するのは気が引ける。

 渋りたかったのだけど、期待を込めた眼差しをきらきらとさせて見つめられると、首を縦に振るしかなかった。


「い、いいわよ。……ノエルはもう反省したと思うし、罰は終わりにするわ」

「よかった、このまま撤回されなければどうしようかと気が滅入っていたんだ」

 

 大袈裟な、と呆れを込めて見つめれば、美貌の夫が口元に弧を描き額にキスをしてくる。


「愛してる」


 そのままノエルの手が髪留めに触れる。ぱさりと髪が肩に落ちて、髪留めを外されたのに気付いた。

 髪を梳き流すように撫でてくれる優しい手が、後頭部を押さえる。

 ぐいと引き寄せられる感覚にノエルの思惑を感じ取り、ノエルの胸に手をついて突っぱねた。


「ノエル、学園内ではキスをしない約束でしょう?」


 生徒たちがいつどこで見ているのかわからないのだから、学園内ではいちゃいちゃするつもりはない。


 ノエルが大袈裟なほどショックを受けた顔をしたが、心を鬼にしてノエルの腕からすり抜けた。


「手厳しい……」


 寂しがりやの夫は不足分を補うべく、帰りの馬車に乗り込むなり抱きしめてきては離してくれなかった。

本章はこれにて完結です!

次話、ノエル視点の閑話をお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  今良い雰囲気だったよ(゜Д゜≡゜Д゜)゛!?  流されないレティシアが…つらい(笑)  ノエルが「可愛い弟の恋」と言った瞬間、ノエルが心の中では鼻で笑っているのが見えました。私の中のノエ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ