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05.理事長との歓談

更新お待たせしました!

諸事情によりしばらく更新が不定期となりますが、なるべく毎日お届けできるよう執筆していきますので、引き続きレティとノエルを見守っていただけますと嬉しいです……!

「ファビウス先生、ここで何をしているんですか?」


 温室で薬草の間引きをしていると無機質な声が聞こえてきた。振り向けば、何故か理事長がすぐ背後に立っているではないか。

 続編の黒幕が突然現れるものだから、心臓がひっくり返りそうになった。

 ひとまず淑女スマイルを貼り付けてどうにかやり過ごす。


「こ、こんにちは。今は薬草の手入れをしているところです」

「この温室の薬草を、全てあなたが世話をしているのですか?」

「ええ、生徒たちが使う薬草のほとんどは、私が学園内で育てているものです。あの子たちには、薬草が育っていく様子も見て欲しいのでそのようにしています」


 全く足音がしなかったから気づかなかった。

 いつの間にここに来たのかわからない。


 そういえば、ゲームの中でも理事長は、足音も無く現れてはエリシャを驚かせていたわね。

 理事長はぺルグラン公爵家に引き取られるまでは貧民街で暮らしていたから、息をするように簡単に足音や気配を消すことができるのだと、ゲームの終盤で明かしていた。


――『君は知らないだろう? 子どもの命を道端の小石くらいにしか思っていない連中が、この世にはたくさん居るんだ。私はかつて、そのような場所で生活をしていた』


 理事長は貧しい夫婦の元に生まれたそうだ。

 父親は体が弱く、彼の目がまだ開いていない頃に亡くなったらしい。母親が働きながら彼を育てていたが――仕事帰りに貴族が乗った馬車に轢かれ、この世を去る。


 突如として天涯孤独の身になった彼は貧民街で生きる術を学んだ。

 息を潜め、他者の悪意を敏感に感じ取り、いつ死ぬかもわからない日々を過ごしてきた。


 そんなある日、理事長の元にとある人物が現れた。

 後に理事長が闇堕ちするきっかけとなる重要な人物なのに、ゲームの中ではモブ扱いで、名前すら出てこない。


――『彼女と出会って初めて、女神の存在を信じたよ。私は幾度となく彼女に助けられたんだ』


 「彼女」との出会いは、王都の街中だった。

 とある貴族の財布を盗もうとして失敗した理事長を助けてくれたらしい。

 踊り子をしていた彼女は貴族の相手を心得ていたから、言葉巧みに貴族を説得したそうだ。


 理事長との出会いをきっかけに貧民街の子どもたちの生活を見た彼女は、貴族たちから得た報酬で食べ物を買っては子どもたちに与えていたそうだ。


 幼い頃の理事長は彼女に懐き、実の姉のように慕っていたらしい。

 彼女が聞かせてくれた子守唄が好きで、何度も強請って聞いていたそうだ。


 しかしある日、彼女はぱったりと会いに来なくなってしまった。

 理事長は彼女を待ち続けたが現れず――そして、ぺルグラン公爵夫妻に拾われる。


 貴族になればまた、彼女と再会できるかもしれない。

 そう考えた理事長は、一縷の望みにかけてぺルグラン夫妻の提案を受け入れ、彼らの子どもの身代わりになった。


 やがて大人になった理事長は、彼女によく似た人物と出会う。

 もしかすると、彼女の子どもなのかもしれないと希望を持ったが、その人物は本当の母親を知らないらしく、手掛かりをえられなかった。


 それでも理事長は諦めきれず、その人物の周辺を探った。

 情報屋を使い、裏の世界まで手を伸ばして調べた結果わかったのは、彼女はもうこの世に居ないという報われない事実だった。


 かつて理事長を助けてくれた女性は、先代の国王によって殺されたらしい。


 やっとの思いで再会できると楽しみにしていた理事長は、一瞬にして絶望へと落とされる。

 絶望と憎しみと後悔に呑まれた理事長は復讐を決意し――先代の国王に手をかけた。


 ……これが、ウィザラバの初代から続編にかけての間に起こった出来事だ。

 この世界ではそうなる前にアロイスが先代の国王を裁いたから、展開が変わってきているとは思うけれど――理事長の胸の中にある怨嗟が消えているとは限らない。


 なんせ、ゲームに登場した理事長は、「先代の国王を野放しにしていた王族や貴族を許さない」と言っていたのだ。

 アロイスに火の粉が降りかからないか心配になる。


 ここはひとつ、理事長がアロイスに矛先を向けないよう、気を逸らせる必要があるだろう。


「――なるほど、ファビウス侯爵が仰った通りだ。あなたはいつも生徒たちの事を考えているのですね」

「お、夫がそのように言っていたのですか?」


 私が知らないところで新旧の黒幕たちが交流をしていたようだ。 

 二人が並んでいるところを目撃したら、黒幕オーラで圧倒されてしまいそう。


「ええ。ファビウス侯爵はあなたと出会ってから随分と雰囲気が変わりましたね。憑き物が落ちたようで安心しました」

「憑き物……ですか?」

「気にしないでください。私の勘違いなのかもしれませんから」


 気にするなと言われると余計に気になってしまう。

 しかし、理事長の怜悧な目と視線がかち合うと、質問は喉の奥に引っ込んだ。


「話は変わりますが、もうすぐ魔法薬学の授業で王宮植物園に行くそうですね?」

「はい。あそこは植物の種類が多く、状態もいいので学習に最適なんです」

「私も同行しようと思っています」

「……へ?」


 予想外の申告に、思わず聞き返してしまう。

 私が聞き損じたと勘違いした理事長は、丁寧にもう一度、「私も同行しようと思っています」と言ってくれた。


「なっ、何故でしょうか?」

「生徒たちが学ぶ様子を見たいのが一番の理由ですが、それと同じくらい――ファビウス先生の働きぶりを見たいとも思っているんです」


 理事長はそう言って、私を見下ろす。

 アロイスと同じ空色の瞳に、私の間抜け面が映った。


(あれあれあれ……。もしかして、私、続編の黒幕に目をつけられているのかしら?)


「まあ、王城にも立ち寄りたいと思っていましたので、それも理由の一つですね」


 アロイスの顔を拝んでやろうとしているのだろうか。

 脳内で不穏な意訳をしてしまうから、不安になってきた。


「お、お任せください! 張り切って授業をしますので、理事長も生徒たちと一緒に聞いてくださいね!」


 何としてでもアロイスから目を逸らしてもらわなければならない。

 そう決意した私は、王宮植物園では理事長を見張ることにした。

さっそく続編の黒幕に絡まれるレティ。

ノエルがこの事を知ったら理事長に妬いてしまいますね。

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― 新着の感想 ―
[一言]  emergency!emergency!ジル!直ぐさまノエルに連絡をε=(っ*´□`)っ  推しを守る為に今、レティシアが立ち上がる!!(o´艸`o)♪
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